第14話欠落と未練

《星海side》


「あーあ、つまんねぇな……」


 露骨に感情をあらわにした上椿の隣で、星海はため息をついた。


 なんとか説得してとりつけた休日の水族館デートだったが、終始スマホをいじったり、上の空な様子の上椿に星海は後悔を滲ませていた。


 体だけの関係である二人がデートをすればこうなることぐらい容易に想像できた。

 しかし、関係を良いものへと昇華したいと考えていた星海は今日のデートを強行してしまった。


「……さっきの、よくないよ。他の人もすごい見てたし……」

「あ?別にいいだろ。弱い奴からかってなにが悪いんだよ?何?未練タラタラな感じ?」

「そんなんじゃ、ない、けど……ああいうことを人前でやるのは良くないよ。せっかくのデートなんだし……」

「あのなぁ……デートつっても、俺が付き合ってやってるだけなんですけど?俺、お前とはセフレだし、付き合おうとかは考えてないわけ。俺はお前と体の相性がいいからこうして付き合ってやってるの」


 分かり切っていたというのに、星海はその言葉を突き付けられて黙り込む。


 結局自分が求めていたのは都合の良い彼氏で、セフレなどではない。星海はその事実を痛いほどに感じていた。


 だが、星海がこの関係を手放せるはずもない。彼女の体は、既に快楽に溺れてしまっているのだから。


「はぁ~あ、そろそろ次の場所いかねー?水族館はもういいだろ」

「……え?次の場所って……」

「そりゃ、ホテルに決まってんだろ。行くぞ」

 

 上椿の強引に手を引かれ、星海は水族館を出る。

 今日のために頑張って選んだ服も、気合を入れたメイクも、結局上椿を振り向かせることは出来ない。彼が求めているのは星海の体だけなのだから。


 どこで間違えたのだろうか。星海は自分の心に問いかける。


 言葉に乗せられて上椿に体を許したあの日。

 日向の告白を断ってしまったあの日。

 快楽に溺れ続け、何が正しいかを見失ったあの日。


 自分は悪くないと目を背け続けた結果が後悔となって尾を引く。

 

(……あぁ、私間違え続けてたんだ)


 星海はようやく気付いた。

 快楽の波に蕩けた意識の中で、星海は今までの行いを悔いた。自分が選ぶべきは日向だったのだと、彼女は今になって申し訳なさを感じている。


(私が欲しかったのはきっとこんなものじゃない……もっと甘酸っぱくて、純粋な感情が欲しかったんだ。それなのに、私は……)


 過去の自分への後悔と共に星海はベッドに沈んでいく。


 今更この沼から抜け出すことなど、不可能に近い。ほんの刹那に見せる上椿の優しさが、星海の心の隙間を埋める役割を担ってしまっているからだ。


 星海がそれを悟るのはまだ先の事なのだろう。


▼▽


「最近どうよ。新しいセフレの子は?」

「ん?あー……なんか最近めんどくさくなってきててさ。付き合ってほしいだの、デートしたいだの。俺は体の関係だけで十分なんだっつーのに……」

「ありゃりゃ、あんまり良好じゃない感じ?あんなに可愛いから付き合っちゃえばいいのに。俺なら付き合っちゃうけどな~」

「俺が誰かと付き合うなんて無理だ。他の女に目移りした時にヘラると困る。……そろそろ潮時かもな」

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