第39話 友人の告白
初めて誰かが告白しているのを見た。
それも自分が関わっている人間の告白。
事前に聞かされていたとはいえ、現場を目の当たりにするのは訳が違う。
本来なら今すぐに戻るべきだ。
人の告白なんて聞き耳を立てるもんじゃない。
しかし現在俺がいるのは階段。
降りる時の音で見つかってしまうかもしれない。
こういう時に限って謎の気遣い心が発生してしまった。
普段の自分なら気にしないはずなのに。
「急に言われても困ると思う。でもどうしても伝えたかったんだ」
続けて吐き出された足立の声はどこか震えているような気がした。
記憶の中の彼はあんなにもカッコいい瞳をしていたのに。
……いや。そんな彼でも震えてしまうほどのことということか。
やっぱりこれ以上聞くわけにはいかない。
そう思った俺は音を立てないよう慎重に階段を降りていき、カラオケの部屋へと戻った。
「お、清水おかえり。遅かったな」
「ま、まあな」
足立の告白を見てしまったなんてこと言えるはずもなく、適当な愛想笑いをしながら席に座る。
すると石橋が不思議そうな顔をしながら俺のことを見てきた。
「あれ? お前飲み物取りに行ってたんじゃないのか? コップ空のままだぞ」
「あ、やばいやばい忘れてた」
「忘れてたって……。何しに行ったんだよ」
「別にいいだろ何だって! それにあるだろ! なんかこう……いきなり記憶無くすこととか!」
「もしそれが頻繁に起こるなら病院に行った方がいいぞ。俺が連れて行ってやろうか? 小児科に」
「そこは普通の病院にしてくれよ」
抜ける前のようなくだらない会話をした後、俺は再び席を立って今度こそ飲み物を取りに行った。
部屋を出てドリンクバーでコーラのボタンを押していると、店の入口から足立が1人で入ってきた。
声をかけようと思ったけど、一瞬で辞める。
今にも泣きそうな、悲しそうな、でもどこかやり切ったような顔を見たら。
まだあいつは俺のことに気が付いていない。
直ぐに離れようと半分くらいまでしか入ってないコップを持って歩き出そうとする。
「清水」
その時、後ろから声をかけられた。
普段話しかけてくる時と変わらないトーンで。
ゆっくりと振り返ると、そこには笑っている足立の姿があった。
でもぎこちない。
声は何とかなったのだろうが、笑顔までは無理だったようだ。
本人には絶対に言えなけど今の足立の笑顔は偽物にしか見えなかった。
「足立……」
コップを持ったまま立ち止まっていると、こちらに近づいてきた足立が小突いて来た。
「改めてお疲れ! どうだ打ち上げは? 楽しんでるか?」
妙に高めなテンションで話を進める足立。
正直に言って違和感が凄かった。
「あ、ああ……。楽しんでるよ。足立の方こそお疲れ」
「サンキュー! よぉし、部屋戻ったら歌いまくるぞ! 清水一緒に歌うか?」
「あはは……。俺はいいよ」
「何でだよ。せっかくカラオケ来たんだから歌おうぜ~」
と、半ば強引に肩を組んできた。
流れで肩を組まれたまま歩くことになり、そのまま部屋の方へと向かう。
部屋が近づくに連れて俺の肩に触れている足立の左手が震え、強く握られる。
「あ、足立……?」
さすがに痛くなってきたので声をかけてみるが、返事はなかった。
ずっと俯いたまま。
距離が近いので少しは顔が見れるが、ずっと見る物でもない。
やがて部屋の前に辿り着き、ようやく足立が口を開いた。
「……フラれたよ」
ボソッと。小さな声で言った。
でも、これまでのどんな言葉よりもはっきりと俺の耳に届いた。
どんな言葉をかけるべきなのか、俺には分からない。
もしかしたら何も言うべきではないのかもしれない。
けれど俺の口は勝手に動いてこう言っていた。
「ラーメン食いに行かないか?」
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