第40話 青春とラーメン
「は? ラーメン?」
まさかの提案に足立も驚いている。
さっきまで震えていた手も止まり、ただ戸惑いの目を俺に向けていた。
うん、そりゃそうだ。だって俺でも意味分かんないもん。
普通に考えて今さっきフラれた人間をラーメンに連れて行かないだろ。
どうしちまったんだよ、俺。
しかし今更「やっぱなし!」というわけにもいかない。
だから俺は足立の肩をガっと掴んで言った。
「良いから行くぞ! ほら早く!」
「おい清水!」
困惑する足立を無視して強引にカラオケ屋の外へと連れ出す。
ごめん……! ごめんな足立……! こんなことして……っ。
心の中で謝罪をしながら近くのラーメン屋へと向かった。
場所はリレー練習の時に話したあの家系ラーメン。
石橋には連絡を入れておいた。
『足立とラーメン食べに行ってくる』という一言だけ。
もちろん『は?』という返信が来たわけだが、文章で説明するのが面倒だったので『後で話す』と送っておいた。
きっと石橋のことだから足立が柚木さんに告白することも知っているだろう。
「なあ……清水」
「ん?」
「マジで急にどうしたんだよ。ラーメン食いにいこうなんて」
隣を歩く足立が不思議そうな瞳を向ける。
俺は一瞬だけ答えに迷ったが、ここで適当なことを言ってもしょうがないと思い素直に伝えることにした。
「分かんない」
「はあ?」
「いや分かんないんだよ。俺も何でこうしたのか。でも……さ、気づいたら言ってて……」
何か言わないと思って出てきた言葉がラーメンに行こうだったのだ。
あの時は深く考えてなかったが、『ラーメン屋』という提案は過去の会話を記憶していたからかもしれない。
「おいおいw 何だよそれ!」
「え?」
突如、足立が声に出して笑い出した。
「自分でも分かんねえってw よく言ったなw」
腹を抑えるくらいに笑う足立。
そんな笑えることなのかと疑問が浮かぶが、足立が笑っているなら良いかと思えてきた。
俺はようやく自分が何をしたかったのか理解する。
そうか……。俺、笑って欲しかったんだ。
足立に元気になって欲しかったのか。
解を得た俺は足立のことを軽く小突く。
「おい、いくら何でも笑い過ぎだろ」
「いやだってお前w 自分でも分かんないことするなよw」
「しょうがないだろ! 勝手にそう言っちまったんだから!」
まだ笑っている足立にツッコミを入れながら再び小突く。
『元気になって欲しかったから』ということは本人には言わなかった。
恩着せがましくなるし、それに直接言うのも気恥ずかしい。
だからこのまま分かんないけど言っちゃったというのを貫こう。
「ところで今日のラーメンは清水が奢ってくれるんだよな?」
「は? 何でだよ」
「そりゃ誘ってきたんだから当然だろ」
「いやいやいや、着いて来たんだから足立も同罪だって。奢らねえよ」
「おいおい~。せっかくの体育祭の『う・ち・あ・げ』を抜けて来てやったんだぞ?」
喉に納豆でも絡まっているかのようなネットリとした『打ち上げ』を頂いた。
今すぐにでも耳から抜き取って燃やしてしまいたいくらいに不快な言い方である。
だが、足立が言っているのも一理ある。
「分かった。トッピングだけなら奢ってやるよ」
「マジ? っしゃあ!」
拳を握りながら喜ぶ足立。
「えっとチャーシューだろ? 煮卵、うずら、海苔、ほうれん草、キャベツ、もやし、きくらげ、あとは……」
「待て待て待て。何の呪文だよ寿限無か」
「トッピングの量の指定は無かっただろ? とりあえず全部行くぜ」
「良いけど食べきれるのか?」
「おいおい、運動部の食欲を舐めてもらっちゃ困るぜ?」
自信満々に腹を叩く。
俺は財布を取り出して所持金を確認する。
生活費ということで毎月振り込んでもらってはいるが、バカみたいにポンポン使うわけにもいかない。
今日こいつに奢る分は今後の食費で節約することにしよう。
こうして俺たちはラーメン屋へと入って、一緒にラーメンを頬張った。
宣言通り全トッピングをした足立のラーメンは見た目が凄いことになっており、家系ではなく二郎系のような見た目となっていた。
きっと俺はこの日のことを忘れないだろう。
フラれた友人を元気づけるために連れて行った、ラーメンの味を。
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