第38話 強い覚悟
「じゃあ皆、今日はお疲れ様でした! 乾杯!」
「「「かんぱーい!!!」」」
石橋が乾杯の音頭を取り、皆が一斉に声を上げる。
体育祭の打ち上げということで俺たちはカラオケにやってきた。
歌うというよりは皆で喋って飲んで(ジュース)わちゃわちゃするというのが目的である。
クラスメイト全員というわけではなく、希望者のみの参加だ。
それでも20名ほど集まっていて部屋も2つに分かれている。
配分は分かりやすく男女で、だ。
店員さんに確認したところ部屋移動は好きにして大丈夫らしい。
「いや~終わったな体育祭」
「2位か~。悔しいな!」
そんな会話が聞こえてくる。
直接話に入るわけではないが、うんうんと無言で頷きながら俺はコーラを飲んだ。
「よ、お疲れ清水」
隣にやってきた清水がポンと肩を叩きながら声をかけてきた。
「石橋もな。リレーもクラスも引っ張ってくれてただろ」
「体育委員だからな。別に俺じゃなくてもまとまっただろ」
珍しく謙虚な言葉が返ってきた。
石橋のことだから調子に乗ったことを言ってくると思っていたのに。
「少なくとも俺には無理だからな。石橋がやってくれて良かったと思うよ」
素直にそう伝えると、凄い早さで俺のことを見てきて気持ちの悪い笑顔を浮かべ出す。
そしてバシバシと背中を叩いてきた。
「いや~! 別にそんなことねえよ! どうしたんだよ清水いきなり! あれか? 体育祭終わって、ちょっとデレ期に入ったのか!」
「やっぱり前言撤回するか」
「何でだよ!」
「冗談だって」
「ったく……。でも体育祭で変わったとは思うぞ」
「そうか?」
聞き返すと石橋は持っているメロンソーダを飲んでから言葉を続けた。
「絶対変わったな。前はもうちょっと距離みたいなの感じたけど、今はそんなのない。何だろうな……遠慮がないって言うのかな」
「お前相手に遠慮する奴いるか?」
「ほら、ほら、そういうこと言うところだよ。前のお前だったら絶対に言わなかったからな」
素早く指摘をしてきて俺は直ぐに手で口元を隠す。
石橋が言った通り入学当初の俺なら絶対に呟かなかっただろう。
あの時は人に嫌われるのが本当に怖くて、当たり障りのないことばかり言っていた。
でもその結果、そっと息を吹きかければ切れてしまう程度の縁しか築くことができなかった。
さっきのような言葉は関係値がしっかりできているからこそ言えるもの。
パッと直ぐに出てきたということは、俺の中で石橋は言っても大丈夫と思える人間なのだろう。
「何で今まで隠してたんだよ」
「別に隠してたわけじゃ……いや、隠してたか……」
また中学の時のようなことが起こったらと思い、1歩引いていた。
関係値を深めなければ裏切られるということもない。
だからずっと壁を作っていた。
……まあバレているとは思ってなかったけど。
人間そんな簡単に変われないってことなのかな。
「実はな――」
「ま、言いたくなったら話してくれ」
「え?」
聞かれたからには答えねばと、話を切り出そうとしたところで石橋が先に止めてきた。
優しい手つきで背中に触れながら。
俺は拍子抜けのような声を上げながら石橋の方を向く。
「今話したら俺が言わせたみたいになるだろ? これまで黙ってたってことはお前にとって話したくないことだろ」
「ま、まあ……」
「じゃあ別に無理に聞かねえよ」
「でも気になるから聞いてきたんじゃないのか?」
「そりゃ気になるけどさ。そんな覚悟決めるような顔されると思わないだろ。無理無理、重い、怖い。もっとフランクっていうか、こう……くだらない系だと思ってたからさ」
取れそうな勢いで右手を振りながら言う石橋。
珍しく真面目に同様しているらしく、思わず笑いが込み上げてきた。
「あ、お前! 何笑ってんだよ!」
「悪い悪いw 意外と石橋って優しいんだなって思ってさ」
「意外だと⁉ 俺はいつでも優しいだろ?」
コッとまるでホストのように舌を鳴らす。
見事なものだ。
さっきまで優しさゲージMAXだったのに、一瞬でイライラゲージがMAXになった。
呆れるようにため息をつくと石橋が慌ててツッコんできた。
「おい早くツッコめよ。そういうのは1番傷つくんだよ」
「はいはい。優しい優しい。あーもうホレチャウナ~」
「最後棒読み過ぎるだろ! くそっ! 覚えとけよ! お前の飲み物ミックスしてやるからな」
俺のコップを指差しながら苦し紛れに言っていた。
こいつ、なんて狡い手を……。
そうはさすまいと、俺はコップを手に取って席を立った。
「じゃ飲み物取ってくる」
「おい! 卑怯だぞ!」
後ろでワーワー騒いでる石橋を無視し、部屋を出てドリンクバーの方へ。
するとちょうどお店を出て行く柚木さんの姿があった。
「ん?」
ここのカラオケは持ち込みOKなので買い出しか何かだろうか。
それなら荷物運びがいるだろう。
ついでに俺たちの部屋に向けて何か買ってもいい。
そう考えた俺はコップを1度部屋に置いてから店の外へと出て行った。
柚木さんの姿を探そうと辺りを見渡すが見つからなかった。
「あれ……。居ないな」
追いつくと思っていただけに予想外だ。
諦めて部屋に戻ろうとしたその時、
「――で、話ってなに?」
薄っすらと柚木さんの声が聞こえてきた。
再び辺りを見渡すと、カラオケ屋の2階にある空きテナントの中に特徴的な金髪が見えた。
「何やってるんだ?」
気になって階段を上がる。
さっきの言い方的に誰か一緒にいるみたいだが、角度的に見えなかった。
そして半分くらい階段を登った時、俺の耳にある言葉が届く。
「――俺、柚木のことが好きなんだ。良かったら付き合って欲しい」
「……え?」
言葉と共に蘇る記憶。
光の速さなんてもんじゃない。
反射だ。
それくらいの速度で、俺の記憶の中からある会話が蘇った。
――“体育祭が終わったら柚木に告ろうとしてるんだよ”。
記憶の中でそう言った足立は強い覚悟を宿した瞳をしていた。
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