第11話 天気は雨、彼女は風邪
その日の放課後。
掃除当番を終えて学校を出たら雨が降っていた。
朝来る時は降っていなかったので傘などは持っていない。
昇降口でどうしようかと雲を睨むが、通り雨のような雰囲気は感じないので暫く振り続けることだろう。
「天気予報ちゃんと仕事しろよ~」
スマホに向かって悪態をつきながら昇降口から顔を出しては引っ込める。
濡れるのは分かっているが、まだ覚悟ができていないのだ。
しかしこんな風に雨が降っていると柚木さんが初めて尋ねてきた日のことを思い出す。
雨で体も服もびしょびしょになっていて、ちょっと不安そうな目をしていて。
でも俺が「いいよ」と許可を出した途端に鮮やかになった瞳。
全て俺の記憶に刻まれている。
「待てよ……」
ふと思った。
もし給湯器が直っていないなら今日もシャワー浴びれないんじゃないのか?
前みたいにびしゃびしゃになった状態だったら、今度こそ風邪を引くぞ。
「――っ!」
気づけば俺は土砂降りの中を走っていた。
濡れることなど一切気にせず、全力で雨の中を駆ける。
道なんて選んでいる余裕はなく水たまりもどんどん踏み抜いて、あっという間に重くなっていく靴。
ワイシャツも雨が染み込んきて重い。
息を吸うために口を開ければ雨が入ってきてしまう。
それでも俺は足を止めず、アパートまで全力で走った。
「はあ……はあ……はあ……」
息を切らしながら階段を登っていき、柚木さんの部屋の前に立つ。
タップリとしみ込んだ雨が俺を伝って廊下に垂れていき、足元に小さな水たまりができていた。
呼吸を整えて彼女の部屋のインターフォンを押す。
出てきてくれた時になんて言葉をかけたらいいのかは分からない。
正直に言って今インターフォンを鳴らしたことを後悔している俺がいるのも事実だ。
でも押さない方がもっと後悔しそうだと、そう思ったんだ。
しかし、数十秒ほど経っても特に返事はない。
念のためもう一度押してみたけど結果は同じだった。
雨音がより一層耳に届く。
いつもより冷たい空気がそうさせたのか、途端に冷静になった俺は自分の家に帰ることにした。
「普通に考えて会いたくないよな……」
それに給湯器だって既に直っているかもしれない。
そうだとしたら俺と柚木さんを繋ぐものなんて存在しなくなってしまうのだから。
『給湯器が直るまで、シャワーを借りる』
たったそれだけで俺と柚木さんは一緒にいたんだ。
「……」
自分の家に入る直前、もしかしたらと思い、再び左の方へ目を向ける。
しかしドアは閉ざされたままでさっきまでと変わらない景色が映っているだけだった。
期待してしまった自分が恥ずかしくなる。
家に入った俺は直ぐにシャワーを浴びてカップ麺を食べて布団に入った。
しかし簡単に寝付くことはできず、頭の中で無駄に自問自答を繰り返す。
――何で清水と一緒にいることができたのかってことっしょ
自問自答の合間に紛れ込んでくる、如月さんの言葉。
自分自身で正解の道を立てていても、その言葉がまた違う正解の方へと誘導してくるようだった。
結果、無限ループ。
自分の中でも答えが出ないままやがて眠気がやってきて、気づけば朝になっていた。
学校へ行こうと玄関を開けアパートの廊下を歩こうとすると、ちょうど前に柚木さんの姿があった。
心臓がドキッとして、俺は気づかれないように動きを止める。
それにしても珍しい。
いつもは俺よりも先に学校についているため、家を出る時間も早いはず。
それに妙にふらついているような――
「ちょ! っと!」
違和感を抱いた瞬間、階段から落ちそうになった柚木さんの腕を思い切り掴む。
「大丈夫? 柚木さん」
「……あれぇ。清水君……? ……どうしてぇ」
ゆっくりと開かれた口から弱弱しい声が発せられた。
顔も赤くなっていて、掴んだ腕もかなり熱い。
まさかと思って彼女のおでこに触れてみることに。
「熱っ……。柚木さん、もしかして風邪引いてる?」
「ええぇ……? 風邪……?」
熱が高くて思考が回っていないのか、会話にならなかった。
本人は自覚がないのかもしれないけどこれは風邪で間違いないだろう。
とりあえずこのまま学校に行かせるわけにもいかないので、俺は柚木さんをおんぶして自分の部屋に連れて行った。
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