第三章:アルカディア、約束の地の開拓

 エリナという頼もしい仲間を得た僕は、いつまでもこの村にいるわけにはいかないと考え始めていた。僕のスキルは、もっと大きなことができる可能性がある。


「どこか、僕たちが落ち着ける場所はないかな」

「それなら、一つ心当たりがある」


 エリナは、彼女が騎士団にいた頃に見たという古い地図を取り出した。それは王国の北東、魔の森のさらに奥を指し示している。


「かつて、エルフと人間が共に暮らしたという伝説の谷だ。今はもう、誰も寄り付かない廃村のはずだが……」


 僕たちは、その伝説の谷を目指すことにした。エリナがいれば、道中の魔物も怖くない。


 数日後、僕たちがたどり着いたのは、うっそうとした森の中に忘れ去られたかのような場所だった。石造りの家は崩れ落ち、畑は見る影もなく荒れ果てている。井戸からは濁った水が湧き出すだけで、土地全体が死んでいるようだった。


「ひどい有様だな……」


 エリナが嘆息する。だが、僕の目には違うものが見えていた。

 スキルを使わずともわかる。この土地の魔力の流れが、何らかの原因で滞り、枯渇しているのだ。例えるなら、血の通わなくなった体のようなもの。


「エリナ、見てて」


 僕は地面に手を触れ、意識を集中させた。頭の中に、この谷全体の魔力循環の『概念』が流れ込んでくる。やはり、中心部で流れが詰まっている。なら、その詰まりを取り除き、正常な流れに『再構築』すればいい。


「コンセプト・リビルド――【概念再構築】!」


 僕がそう叫ぶと、足元から柔らかな光の波紋が広がっていった。すると、信じられない光景が目の前で繰り広げられた。

 枯れた草木がみるみるうちに芽吹き、色鮮やかな花を咲かせる。荒れ果てた畑は、ふかふかとした黒い土へと変わり、濁っていた井戸の水は、キラキラと輝く清流へと浄化されていく。死んでいた谷が、生命の息吹を取り戻したのだ。


「……神よ。これは、奇跡か……」


 エリナは言葉を失い、その場に立ち尽くしていた。


「すごい……僕の力は、こんなことまでできるんだ」


 僕は自分のスキルが持つ本当の力――【概念再構築】の可能性に、武者震いがした。


「エリナ。僕たち、ここに住もう。そして、ここを楽園にするんだ」

「……ああ。君となら、できる気がする」


 僕たちは、この谷を「アルカディア」と名付けた。古代の言葉で「理想郷」を意味する名前だ。

 それからの僕たちの生活は、驚きに満ちていた。僕が【概念再構築】で崩れた家を「新品同様の状態」に修復し、エリナがその腕力で資材を運ぶ。僕は井戸の水を「聖水」の概念に書き換えて、飲むだけで活力が湧くようにし、畑の土を「常に最高の栄養状態」に保つように再構築した。

 二人だけの生活だったが、そこは希望と喜びに満ちていた。追放された日から、初めて心からの安らぎを感じていた。

 僕たちの理想の国づくりは、こうして静かに始まったのだ。

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