第二章:覚醒の兆し、ただの分解じゃなかったスキル

 エリナは僕が世話になっている宿屋に泊まることになった。

 彼女は元騎士団員だったが、ある事件で濡れ衣を着せられ、国を追われたのだという。その時に、この呪われた魔剣を託されたらしい。似たような境遇のせいか、僕たちは少しずつ打ち解けていった。


 その夜、僕は宿屋の主人から、壊れた魔道具の修理を頼まれていた。ほんのり光るだけの、古いランプだ。分解して、素材に戻すしかないか……。そう思いながら、僕はいつものように【アイテム分解】を使った。

 すると、その瞬間。

 僕の頭の中に、光の奔流が流れ込んできた。それは、ただの分解のイメージではなかった。ランプの構造、魔力を流すための回路、光を灯すための術式――その設計図とも言うべき『概念』が、手に取るように理解できたのだ。


(なんだ……これ……?)


 戸惑いながらも、僕は無意識にその設計図をなぞっていた。そして、気づいた。この回路は、一部が断線している。ここを繋げば、もっと効率よく魔力が流れるはずだ。

 僕は頭の中の設計図を『修復』するイメージを強く念じた。


「【アイテム分解】……いや、『再構築』!」


 僕がそう呟くと、手の中のランプが眩い光を放った。以前とは比べ物にならない、まるで太陽のような温かく力強い光だ。


「……アッシュ? 何だ、この光は」


 騒ぎに気づいたエリナが、部屋に入ってきた。彼女は光り輝くランプを見て、目を見開いた。


「これ……君がやったのか?」

「た、たぶん……。壊れていたのを、直した……みたいだ」


 僕自身も、何が起きたのかよくわかっていない。ただ、スキルを使っただけなのに。

 その時、僕はエリナが腰に下げている呪われた魔剣に目が向いた。あの剣も、もしかしたら。


「エリナ、その剣を貸してくれないか?」

「……何を?」

「僕のスキルなら、その呪いを解けるかもしれない」


 根拠のない自信だった。だが、試してみる価値はあると思った。エリナは半信半疑の顔をしながらも、僕に剣を差し出した。

 黒くくすんだ刀身に、そっと手を触れる。そして、意識を集中させてスキルを発動した。


「【アイテム分解】……!」


 再び、頭の中に膨大な情報が流れ込んでくる。だが今度は、禍々しい紫色の奔流だった。複雑に絡み合った鎖のような術式。これが、呪いの正体か。


(気持ち悪い……でも、わかる。この術式の『核』はここだ。そして、本来の『聖なる力』の流れは、こうなっているはずだ……!)


 僕は絡み合った呪いの鎖を一つ一つ解きほぐし、断ち切られた聖なる力の流れを繋ぎ合わせていくイメージを浮かべた。汚泥を取り除き、清らかな水路を再生させるように。


「再構築――!!」


 僕が叫ぶと、魔剣が甲高い音を立てて振動し、黒い靄のようなものが霧散していく。そして、刀身は本来の姿を取り戻した。白銀に輝く、神々しいまでの美しい剣。聖剣だ。


「嘘……だろ……。数多の神官や賢者が解けなかった呪いを、君が……?」


 エリナは驚愕に目を見開いたまま、震える手で聖剣を受け取った。剣は主の手に戻ったことを喜ぶかのように、温かい光を放っている。

 彼女は聖剣を握りしめると、僕の前に跪いた。


「アッシュ……君は私の恩人だ。この命、君のために使わせてほしい」

「えっ、そんな!」

「いや、これは私の誓いだ。君の護衛として、そばにいることを許してくれ」


 真剣な青い瞳に見つめられ、僕は断ることができなかった。

 こうして僕は、銀髪の美しい女騎士という、初めての仲間を得た。そして、自分のスキルが、ただの【アイテム分解】ではないという確信を得たのだった。

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