間接話法
昔、偉いSF作家さんが書いた「関節話法」と言う、関節をポキポキ鳴して会話する宇宙人とのコンタクトものを読んで、笑い転げたことがあった。
明日から、大人同士の話し方である「かんせつわほう」を使うように言われたので、それかと俺思ったんだが、違ってた。うちの「間接話法」は文字通りのやつだった。
「このように必ず相手から目を逸らし、関係ない第三者があたかもそこにいるかのように話すのです。あなた方の種族は、原始の頃のテリトリーとヒエラルキーの意識を、完全には克服できていません。目線が合った状態での直接的な会話は、攻撃のトリガーを引きかねません」
ナニーロボットが、説明してくれた。命に関わることらしいので、俺真剣に聞いて頷いた。
「基本、自分が言いたいことは『と〇〇が言ってた』、聞きたいことは『君、△△がどう言ってるか知らない?』です。分かりましたね」
続いてナニーは、具体的なことも教えてくれた。
簡単なことじゃないか、と俺は思って、外出着に着替えて玄関を出た。今日は通信教育で同じクラスだった気になるあの子にリアルで会いに行くんだ。
「『待たせたかい?』と俺君が聞いてるよ」
と俺は、彼女に目線を合わせないように、架空の登場人物に向かって言った。
「『私も今来たところ』と私さんが言ってるわ」
彼女も間接話法で応えてくれた。
「『じゃ、今日は遊園地なんかどうだい』と俺君が言ってるよ」
「『そうしましょう』と私さんが答えているわ」
楽しい時間の最後に観覧車に俺たちは乗った。
「『今日は、楽しかった。これからも会ってくれるかい』と俺君が言ってる」
ドキドキしながら勇気を出して、俺は言った。
「『ええ、もちろん』と私さんが言ってるわ」
「本当に!」
俺は、嬉しくてつい彼女の眼を見ながら言った。
彼女の八つの眼が急に赤く輝いて、彼女が俺に飛びかかってきた。
喉を食い破られ、ガシガシ外骨格を齧られながら、俺は薄れて行く意識の中で微かに思った。
「やっちゃったなー、話法の一貫性って油断できない……」
作者:「すまん。ハッピーエンドに持っていけなかった」
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