伏線

 あちこちに線が落ちている。最近、小説を書く人が増えたせいだ。ちゃんと回収しないから、落ちてる伏線が増えて、街はちょっと危険な状態になっている。

 伏線を下手に踏むと、線だけに絡まれるのだ。うまく回収しないと、ネチネチと何時までも。


 私、油断していて線を踏んでしまった。

「なぁ、俺って『出会い頭にぶつかる男女』という内容なんだけど、この後どう回収されると思う?」

足に絡み付いた線が話しかけてきた。よりにもよって一番めんどくさい使い古されたやつだったわ。


「ラブコメ……」

「いやー、今時そんなの無いでしょ。なぁ、真剣に考えてよ」

「異世界転生乙女ゲー……」

「そんなの無理すぎでしょ。よく聞く回収だけど、それ元ネタほんとにあるの? 俺、今時書かれたんだから、もっと意外なのがあるはずでしょ」

今時だから、あんたみたいなありきたりな伏線の回収を作者が諦めたんでしょ、と言いそうになったが、それは禁句だ。

「男女が入れ替わる……」

「有名すぎるし、そもそも伏線じゃ無いじゃん」

「ここで会ったが百年目という敵討ち……」

「それも伏線じゃ無いじゃん。ねぇ、あんた真面目に考えてその程度なの?」


「ぶつかった時についた髪の毛と衣服の繊維が、スパイ冤罪の証拠となる銀河法廷事件の科学捜査もの!」

私、伏線の言い草にムカついたので、ヤケクソになって意味不明な設定を叫んだ。

「……行けそうな気がする。続き書いて!」

嬉しそうに線が言った。

「やだ! 馬鹿馬鹿しい」

ボフッと音を立てて線が消えた。一応回収できたらしい。そんなので良いのか……。

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