第2話 こんな兄貴でご免なさい

「今回は……、やりすぎだろ!?」


 と何故か?覚めている自分に戸惑いながらも、自身が既に死んでいるのだと意識している。

 しかも、「今回は」と俺は深層意識で何度も死んでいるのを理解しながら感想が出る。

 どこか、ごつごつした地面に横たわっているらしい自身の仮初の体?に戸惑いながらも右横に感じる感触は?


“ミーちゃん!? ”


 重い瞼を無理矢理、抉じ開け傍らに寄り添っていた三毛猫の背中を撫でながら、


「なんで、ミーちゃんがここに!?」


 と話しかけた。


「ニャッ、ニャッ、ニャッ―!!」


  ただ、鳴き喚いているだけのはずの猫の鳴き声にのせて、


“あっー!間に合わなかった!?”

“兄ちゃん、ごめん!”


 と意思がダイレクトに頭に響く。

 混乱しているのを顎の下を撫でて落ち着かせる。


 因みにミーちゃんのことを兄弟のいない俺は、家では妹だと言い張って、家族を笑わせていた。


 原因は、どうであれ、死んだ後に死んだ家族が賽の河原だの言うところに迎えに来るのは理解できるが……死ぬ間際に人間ではない家族が現れるのは、どういうことだ?


 まー!周囲は遠くが見えない霧状の空間で曇り空のような明るさの草原のなかに一本道が前に延びていた。


 あてどなく、三毛猫を抱きかかえながらスーツ姿の中年がゴツゴツした砂利道を歩いている寂しい光景。


 俯瞰した自分がシュール過ぎる。


 何かを知っているはずのミーちゃんは泣き疲れて俺の手の中で眠ってしまった。


 霧の中でも進んでいくと人の列に出くわした?

 人というよりも亡者か?

  俺も列に並び順番通りに進めば、やっぱり賽の河原だった。

 そこで、亡者の衣服をはぎ取り木の枝にかけているのは思ったよりも若い女性?


”バアさんじゃなかったっけ? ”


 俺の番になり、女性と目を合った途端に、


「また、あんたかい?」


 と声をかけられた。


「あんたこそ、相変わらず若いね!」


 と答える俺も自分に驚く。

 まんざらでもない笑顔で“列から出て!”と顎で指示され、素直に列から出る……と、つい、河原の端に目を走らせた。

 遠くに小さな影が霧に映っては消え、それがいくつも小石を積み上げて塔を作っている。


”あー!また……あの歌を口ずさんでるのか?”


 次に起こる悪意を読み取り、自然にミーちゃんを女性に預けて、俺の体が勝手に前のめりになって、両手が河原の砂利石をはねさせながら、両足が地を蹴る。

 いくつもある石積みの裏に現れる小さな影たちを怯えさせる悪意へ跳びかかっていた。


――それは、人でなく人の悪意を具現化させた小鬼。――


 その小鬼の項を……両手……何!?


”俺の手ってこんなに毛むくじゃらだったっけ? ”


 手で押さえつけて、頸動脈を俺の口吻、顎がのびて歯?

 “牙”で噛み千切ろうと口の中に生肉、血の味の感触が襲ってくる!?

 自身の行動に意識が追い付かない?

 “WOOFウー!”と喉を鳴らし唸っている?


“もう〰️!どうなってるの!?”


「やめなよっ!そいつらも仕事なんだからさっ!!」


 と女性が俺を諫めようと怒鳴って追いついてきた。

 周りにいた小さな影の正体は子供達で例の親よりも先に死んだ(最近では親に殺された子も少なくないんじゃない!?)魂。


 小鬼達は、石積を叩きこわす悪戯をするのだが、どうやら俺は死ぬ度にここでの理不尽な光景を目にしては小鬼達を食べていたらしい……。


「喰うんじゃない!!」


 と俺の駄々洩れの回想に突っ込むように背後から地に響く声と太い手が俺の顎を小鬼から剛力で離した。

 この声の主が現れるまでに俺は、喉を噛み切られた小鬼どもを数匹、首の一振りで三途の川に投げ捨てていた。


 今度は、俺がミーちゃんのように顎の下を撫でられ、落ち着けを飼い主にされているようだ?


 三途の川の水面に自分の姿見をする。


 どうやら俺は大きな……イヌ?


 体毛は白かったようだが口は避け、牙を生やし、顎まわりに血をべとつかせ、水面に映る俺と重なった目は、


“怒り猛っている!”

”変身?そんなカフカなことがあって堪るか!? ”


 と俺は、山のような身の丈で肌は赤銅色で額には信玄公の兜みたいな大角の鬼?に抱っこされている。

 女性とミーちゃんも大鬼の傍らで呆れていた。

 ここで意識を整理すると俺は……魂の状態では人ではないらしく。


 非常に鬼迷惑な存在らしい。


「もう落ち着きました。」


 と大鬼の二の腕を前足の爪で軽くひっかき、降ろしてもらった。

 落ち着くと同時に人の姿に戻り、 周囲に音速マッハで綺麗なジャンピング土下座の姿勢で、


”ごめんなさい!ごめんなさい!”


 を繰り返している。

 こんな茶番の光景のなか、今更感が半端ない !

 後光を纏った御仏、地蔵菩薩の来臨で子供達の魂が救済されていく。


 どうせ……俺は自噴に駆られたバカでしかなかった。


 そんな、伏せている俺の頭を撫でながら大鬼、牛頭という地獄の獄卒の親分格に、


「今回は、お前が混乱しても仕方がないな!?」


 と慰められて三途の川の河原で気付かなかった岩屋へ案内された。

 なかは意外に広く、客間まであってひかれている茣蓙の上で一休みしろと促された。

 大鬼が言うには、俺は前世といっても2,000年以上前に西の世界でとんでもないことを仕出かして、西の神々の呪いで東へ東へと輪廻転生を繰り返して何回も人の世の不条理を経験させられていたらしい。


 牛頭さん曰く、


”これも御仏のお導き!”


 だそうだが……今回の俺の死は、この地の神々も予見していなかったイレギュラーでどう考えても、


「いきなりのハドロン衝突型加速器の暴走で俺が乗っていた軽自動車のみにSFのような荷電素粒子の衝突!」

「高エネルギー研究所の近くだからそうだと予想だが……いったい何の事故だ?」

 が起こるのはあり得なさすぎるのだ。

 これで異世界転生でもしたら、


“その創造者(クリエイター=神)がバカすぎる!! ”


  牛頭さんからの情報だと国津神どころか天津神さえ無視した外津神の犯行らしい!!


 それよりも、


――“自身が何者なのか?”――


 二千年分の記憶の整理が追い付かず、俺自身が混乱したまま、ミーちゃんに頭を肉球で撫でられ平静を装っている。


”こんな兄貴でご免なさい。”


 優しい妹に申し訳なかった。

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