第二章 煩悩遊戯

「何をどうすればいいんだ!」

 自室にて、絶叫としか言い難い独り言を繰り出すしかなかった。

 色恋沙汰など、これまで解決したこと無い。

 というか、自分自身がそんなものにほんの少しでも体験したことが無い。

 経験も無い、打開策が思い浮かば無い。

 無いもの尽くしで無いものねだりだった。

「……どうする!」

 諦める選択肢はさらさら無い。

 脳裏に思い描いてしまうのは、遥か昔、『かぐや姫』という物語。

 かぐや姫は、数人の男性からの求婚に対して無理難題を突きつけ、無下にしようと試みた。

 もしかしたらもしかしないでもないが、土岐が、俺に対して同様の試みを講じているのかもしれない。

 何せ、あの土岐が、ずっと解決できなかった事柄だ。

 俺が叶えた『願い事』を用いたとしてもどうにもならない――土岐の頼み事――

 それは、言い換えれば、『願い事』と言い切ってしまっても過言では無い――

 土岐。

 星海。

 要さん。

 ――三人の関係性がいつから始まったのかは、どうでも良い。

 歴史の深みは気にしない。

 今重要なのは、一つの真実。

 全校生徒から支持を得ている土岐が、未だ成しえていない『願い事』を、手綱を、握らされている。

「だったら、やるしか無いだろう」

 覚悟は決まった!

 俺がどうにか出来るかどうかはわからないが、やるしかない!

 だったら話は早いに越したことは無い。

 兎にも角にも、「くっつけようとしている二人に近づく必要がある」

 近づく相手はどちらか一方でしか無いのであれば、まず近づく相手は自然的に必然的に固まらざるを得ないだろう。

 彼の連絡先に電話をかけて、「明日、昼飯を学校の屋上で食べないか」という誘いをしてみた。

 彼――星海は――刹那の逡巡無く、「良いね、楽しそう」と呟いた。


 *


 ここで一つ、小話を紡がせてもらおう。

 後光波風という男は、正直、これまで他人との繋がりを好しとして来なかった。

 世間が熱狂する流れ星の『願い事』から強制的に離れてしまうしかなくなり、その話で盛り上がる友人に対して「『願い事』叶えたんだよね」と言ってしまったことが終着地点だった。

下駄箱と机と用具入れに『うそつき』と書かれまくった――そんな過去がある。

 まあそれも仕方が無いことだ。

 当時は『金金金』の『願い事』を叶えた男性しか、一大ニュースに組み込まれなかったからだ。

 まさか流れ星に三回願うことができれば『願い事』がその場で叶うなんて、誰も想像し得なかったという背景もある。

 よしんば叶えたとしても、誰もが家族にすら隠そうとする。

 俺の場合は家族に対して、クラスメイトの仕打ちの後に『願い事』の詳細を打ち明ける愚かさを持ち、尚且つ『金金金』から出遅れたのはともかくとして――『金金金』の『願い事』を叶えた男性は、子どもながらに誠実さそのものに見えた。会社の事業がうまくいっていないから藁にもすがる思いで願った、悪気はなかった――そんな話を、数多のメディアで幾度となく観てきた。

 それでも世間のバッシングを受ける男性の様子を見て俺は、自分の状況が怖くなった。

 清廉潔白を証明しようと全力を尽くす男性に対して世間はバッシングをする。

 それならば、世間に対しては黙っていた自分が、何かを言った瞬間に全てが終わるのでは無いだろうか――

 家族からも泣き狂いながら絶叫された。

 頼るべき相手である両親の両目と両鼻から液体が止めどなく流れる中で、大量の唾をかけられる。

 必死で――死に物狂いで――たった一人の息子のために死に絶えそうだった。

 こんな情景、耐えられるはずがないだろうが。

 二度と見たくない。

 ――一方で、俺が叶えた『願い事』は、もしかしたら多くの人々の『願い事』を叶える渡し船に成り得る代物だ。

 それでも、ひた隠しにせざるを得なくなった。

 こんな両親の姿を二度と引き出さないために。

 そんな折に出会ってしまった――という表現は違うな――出会えたのが、土岐だった。

 何らかの『願い事』を叶えるために、自分が好きな星空や流れ星を思うように見れない人物。

 こんなどうしようもない自分が叶えてしまった『願い事』が、少しでも役に立つかもしれない彼女。

「土岐の気持ちは、何でだろうな、痛いほどわかるんだ」

 なあ、土岐よ。

 星空ってさ――

 流れ星ってさ――

 本当に、綺麗だよな。

 ――小さい頃、何にも考えずに、綺麗な星々を見て、星星星星『星星星』星星と思ってしまった。

 流れ星に、見惚れてしまっていたから。

 これが願いだったのかは、今となってはわからない。

 両親が言うには、昔の俺は、両手を星空に向けて伸ばしていたらしい。

 今では考えられないし、何を思っていたのかもわからない。

 けれどもしかし、本質がそうであるからこそ、土岐の気持ちが痛いほどわかるんだ。

 星を、何のしがらみも無く見たいんだ。

 有無を言わさないほど、輝いているから。

 その星々を眺める彼女は、絶対に、より一層輝いている。

 ――土岐の『願い事』を叶えたら、土岐と一緒に星空を眺められる。

 ため息をつかずに純粋に、綺麗だと思える気がする。

「だったらやるしかないだろう」

だから今こうして――学校の屋上で待ち合わせをしているという訳だった。

「ごめん、待った?」

星海は弁当箱と水筒を両方片手に持ちながら屋上へと繋がる扉を開けた。

「今来たばかりだ」

「それなら良かった」

 天気は快晴。

 これ以上ないほどの昼食日和だった。

「学校の屋上なんて初めて来たよ。波風はこれまでに来たことがあるの?」

「先生に鍵を借りて、たまにな。独りが好きな高校一年生が昼飯を食べる場所にトイレを選ぶよりかは健全だろうってな訳だ」

「なるほどなぁ。合理的でしかないね」

「そういうことだ」

「そしてそんな孤独好きな波風にお呼ばれするというのは結構嬉しいね」

「まあ、色々あるんだ」

「その色々を聞かせてもらえるのはワクワクでしかないね」

 星海はニヤニヤしながら屋上の中央に座る。

 俺も星海の左隣に座り、手にしている焼きそばパンの袋を開ける。視界には学校のグラウンドで走る陸上部の面々が入ってくる。毎回思うが、昼休みにも練習する面々が凄まじいなとしか思えない。いつ昼食を摂っているのかわからないレベルだ。

「少しの時間でも全力で頑張る人たちって、凄いよね」

 星海が弁当箱を開き、律儀に「いただきます」と言いつつ言葉を紡ぐ。弁当箱は二重になっていて、二段目は米、一段目は卵焼きや唐揚げなどオーソドックスに食欲をそそるものだった。若干羨ましいなと思いながら、焼きそばパンを一口噛み締め、「本当にな」と呟く。

「このご時世、流れ星に願ったらすぐに足が速くなる可能性もある。そんな可能性などメモくれず、一心不乱に努力できるのは、凄いとしか言えない」

「……波風はさ。流れ星の『願い事』に、やけに執着しているように見えるなぁ」

「そうか?」

 寧ろ逆でしかない。

 『願い事』を叶えてしまっている俺にとってみれば、流れ星ほど無用の長物はないだろう。

「そういう星海こそどうなんだ。流れ星の『願い事』を使って、要さんと付き合いたいって思わないのか」

「な、なななななななな! 何を言っているんだよ! 僕が要さんを好きだなんて、そんな、何を根拠に」

「プラネタリウム、二人で楽しそうに行っていたじゃないか」

「……居たの?」

「同じ回を観ていた」

「…………はぁ、言い逃れが出来ない」

 星海は弁当箱を置いて、両手で顔を覆った。どうやら余程恥ずかしかったらしい。あれだけだらしない笑顔を他人に見られていたと知ってしまったのだから仕方がないだろう。同情はしっかりすれど、慰めるだけに終わってしまっては元も子もない。

 わざとらしく「ゴホン」と咳払いをした後、こう言った。

「俺は、星海と要さんをくっつけたいと思っている」

「磁石みたいに?」

「物理的にじゃあ無い、精神的にだ」

「……SF?」

「紛うこと無きラブコメのジャンルだな」

「ラブでコメ!」

 星海はまたしても両手で顔を覆った。耳まで真っ赤になっている。耐性がなさすぎるだろう、この高校生男子。何の経験も無い俺ですらここまで真っ赤にならないぞ。

「……ううん? あれ?」

ふと、何かに気付いた星海が視線をこちらに向けてくる。

「そういえば、プラネタリウムは一人で見たの?」

「いや、二人で見た」

「誰と?」

「土岐とだ」

「…………人のこと言えなくない?」

「何が言いた――」

「やっぱり、波風は土岐さんのことが好きなんじゃないか」

「は、はは、はははははははははははははは。お、面白いことを言うじゃないか」

「本当は?」

「…………」

 星海を見習って、両手を顔に押し付けるしかなかった。

 どう見積もっても、耳まで真っ赤にしてしまっているのだろう。

 わかっているのに抗うことができないのが歯痒い。

「なんだ、そうか、僕らは同志なのか」

「何のだ」

「部員を好きになってしまった同盟の、同士だ」

 星海は右手を差し出してくる。

 その手を握ってしまったら、もう、後戻りはできないだろう。

 俺は、数日話しただけの女性に興味を抱いてしまうほどちょろい人間だったと、認めざるを得なくなる。

 クラスの誰もが好きで、認めていて、お近づきになりたいと願う彼女のことを、何とも思っていなかった筈だった。

 それなのに、こんなにも容易く――

 逡巡したところで脳裏に浮かんだのは――プラネタリウムに映し出される星々を楽しく眺める土岐の姿と、夜空の下で目を閉じて願い続ける土岐の姿だった。

 土岐をどう思っているかは、関係ない。

 とにもかくにも、土岐には、夜空の星々を楽しそうに眺めてほしい。

 その思いならば、誰にも負けない自信がある。

 そう思えた俺は、いつの間にか星海の右手を強く握りしめていた。

「好きになってしまったのかどうかは、正直まだわからない。けれども、土岐の願いを叶えるためなら、何だってする覚悟はある」

「好きってことじゃないの」

「わからない」

「じゃあまずはそこからだね」

「わからないことばかりだな」

「土岐さんに対して?」

「それしか無いだろう」

 土岐と出会う前までは、ただただ星を眺めるだけだった。

 たまに叶った『願い事』を発動し、『願い事』が叶った状態にまだいることを確認して、ため息をつく日々だった。

 そんな折に、土岐は現れた。

 夜空を見上げることすら出来ないほど『願い事』に取り憑かれた土を見て、放って置けなくなってしまった。

 あの姿は、何とも言えないものがある。

 胸が苦しくなっていき、その姿以外何も考えられなくなってしまう。

「土岐は、俺と真逆であり、同じなんだ」

「どう言うこと?」

「土岐は『願い事』を叶えたくて仕方が無い。反面俺は、『願い事』を叶えてしまったせいで虚しさしか感じない。それでいて二人とも、流れ星を綺麗だと思っている。歪だけど同じなんだ。だからこそ、何とかしてやりたいって思う」

「…………へ?」

 ――その瞬間。

 星海は、唖然とした表情を浮かべる。

 同時に、やってしまったと思ったが――もう遅い。

「波風って、流れ星の『願い事』を叶えたことがあるの?」

「……無いって言ったら取り返しが効くか?」

「ならないでしょうよこれは流石に! うーわ、そうなんだ! 『願い事』を叶えたことがある人、初めて見た!」

 星海はより一層興奮し始める。

ただ――話の流れで思わず言ってしまったことに、不思議と後悔は無かった。

星海相手ならばいつかは言っていたような気がするのも理由の一つだろう。

「え、いつ叶えたの?」

「幼稚園くらいの時か」

「そんなに早く! そ、それだと、世界で最初に叶えた人と同時期くらいにならない?」

「そうだ。だからこそ、俺の両親は誰にも言いふらさないように忠告してくれた」

「良いご両親! ど、どんな『願い事』叶えたの? 聞いてもよければ教えて欲しい!」

 言うべきかどうか迷った。

 これまでの人生で、両親以外にいったことがない。

 けれども、星海ならば、言っても良いと思った。

 誰かに言いふらさないで欲しい――なんていう陳腐な頼みなどしなくても、星海ならば言いふらさないと思えたことも、口が緩くなってしまった敗因だろう。

 だからこそ、星海を真っ直ぐ見て、こう言った。

「『星星星』――これが、叶えてしまった『願い事』だ」

この三文字を聞いて――

 星海は、一気に真顔になった。

 弁当を置き、俺の両肩に手を置き、真正面から見据えてくる。

「……どんなことが出来る様になったの」

「流れ星が出現するタイミングを予知できる」

『星星星』を最後に実践したあの日、土岐に出会ってしまったんだ。

星海は熟考した後、「あのさ」と口を開いた。

「『星星星』なら、土岐さんの『願い事』を叶えられるんじゃないの?」

「出来ることは、流れ星のタイミングを知ることだけだ」

「本当に?」

「……何が言いたい」

「十年以上、『星星星』が波風の中にあるのに、それだけしかできないなんてことがあるの?」

「一度叶えた『願い事』は、年月と共に深まっていく理論か」

 確かに、そんなような話は世間に蔓延っている。

 人間は、誰しもが欲深い。

 だからこそ、一度願いを叶えたからと言って――流れ星に『願い事』を叶えてもらったからと言って――『願い事』がなくなるなんてことはあり得ない。

 そうして、『願い事』はどんどん深みを帯びていく。

 実際の例も実験で証明されてしまっており、だからこそ、流れ星で『願い事』を叶えた人々はそれを全力で隠そうとする。

「もし深まっていたとしても、簡単に披露出来ると思うか? 『金金金』の『願い事』を叶えた男性の行く末――星海でも知っているだろう」

「……そうだね。ごめん、軽率だった」

 俺と星海の脳裏に思い浮かぶのは、とあるニュース番組に取り上げられる男性の姿だった。それは世界中が注目するニュースで、彼は、こんなことを言ってしまった。

『――軽率な「願い事」をしてしまい申し訳ございませんでした。まさか、一度ならず二度までも、願えば目の前にお金が出現するなんて思いもよらず――』

 軽率なのは『願い事』ではなく、この発言でしかなかった。

 世間のバッシングも受け、贈与税の適用範囲も広げざるを得なくなり、世界中がこの男性を嫌悪の目で見るしかない風潮が出来上がってしまった。

「あれは、子どもながらに、見てられなかったね」

「そうだろう。だからこれまでの人生で、家族と星海以外にこのことを言わなかったんだ」

「へ? 土岐さんにも言ってないの?」

「言ったところで土岐の『願い事』を叶えられる確証が無いからな」

 話が若干落ち着いてきたため、焼きそばパンを改めて口にした後、言葉を紡ぐ。

「順番は決まっている」

「と言うと?」

「土岐の『願い事』を明らかにする。その後土岐に、俺が叶えた『願い事』の話をして、提案を図る」

「波風が叶えた『願い事』で土岐さんの『願い事』も叶えられるかもしれないからってことか」

「そういうことだ」

「……なるほど。理にかなっているといえば、かなっているね」

 星海は含みを持たせた言い方をする。

「何が気にかかっているんだ?」

「二つあるんだ。根本的なことと、哲学めいたこと」

「順番に聞かせてくれ」

「じゃあまずは、前者から」

 ゆっくり弁当の中身を口に運び、一口を食べ切った後、考えを述べてくれる。

「土岐さんの願いを叶えることと僕が屋上に呼び出されたことって関係あるの?」

「あー……そうだよな、そうなるよな……」

 至極当然の疑問のはずなので、先日のプラネタリウムの一件を包み隠さず星海に話した。ここで要所要所を隠したところで意味がないと思い、全てを話したというわけだ。結果として星海には「ありがた迷惑でしかないけどそうだねありがとうだね!」と赤面した表情を浮かべながらまくしたてられた次第だった。

「え、じゃあ何、僕が要さんと付き合わないと波風の目的が達成されないし、土岐さんの『願い事』が叶う可能性が提示されないってこと?」

「そうなってしまう」

「何でそんなことに!」

「申し訳ないが、土岐の――神のみぞ知るっていうやつだな」

「土岐さん、凄いポジションだね……これで付き合えなかったら恨むよほんっとうに……」

 土岐というよりも俺の方が割合としては身勝手さが勝っている気しかしないのが申し訳ないが、星海は意気込みを見せてくれてから弁当箱の中身をかっ喰らった。勢いについて行きたいなと思い、俺も焼きそばパンを一気に食べる。良い子は真似しないで欲しいぞという注釈は一応付け足しつつ昼食を同時に終わらせ、「ごちそうさまでした」と一緒につぶやいた。

 腕時計を見ると、昼休みは残り十分程度しかない。

 あと五分くらいで、屋上から離れた方が良い。

 星海も同じ判断をしたのだろう――「手短に、哲学めいたこと、終わらすね」と言うと、真っ直ぐにこちらを見据えて、こう述べた。

「『願い事』を叶えてもらう意味って、何なんだろうね」

「…………」

 突拍子もないことで、口が動かない。

 それでも、脳内に直接刺さったその言葉は、考えをめぐらせるのに充分な一言だった。

「何が言いたいんだ」

「そんなに深い意味は無いんだけどさ。ただ、僕の場合、星を見ることで満足してしまうから――そこに加えて『願い事』を叶えてもらおうっていう気にならないんだよ」

「…………」

「だからこそ、『願い事』を流れ星に託すって言うのは、よくわからないんだ」

「……要さんと付き合いたいという『願い事』は叶えなくて良いのか?」

「え、何、そんな、こと、無いって」

「それはもう今更すぎるからすんなりいってくれよ!」

 先程までの達観した表情から一変、しどろもどろになった星海に対して――

 俺は、憤りを感じてしまっていた。

 星海に対してこんな感情を抱くなんて、想像だにしていなかった。

 彼のどっちつかずな態度に対してでは、決して無い。

 彼の疑問に、適切な返しが思い浮かばなかったことに対しての、逆恨みでしかなかった。

「まあ、うん、僕は、要さんが好きなわけでは無いことも無いことも無いことも無いけれど」

 否定に否定をかけすぎていて結局大好きなことになってしまっていることはさておき、星海はフラットな立場でこう言う。

「要さんとのことは自分で頑張るよ。そこを流れ星に叶えてもらったとして、嬉しくないし、付き合うことに納得ができる気がしないから」

「星海は本当に、とんでもなく良い奴だな」

 心の底からの感嘆だった。

 流れ星に『願い事』を三回唱えたら叶う。

 こんなにわかりやすい――縋りやすいルートが蔓延りまくっている世の中で、こうまで真っ直ぐ努力できて、自分の好きなことに真正面から向かうことが出来るのは、とんでも無いとしか言いようがなかった。

 そんな星海だからこそ、先程の疑問は生まれて然るべきなんだ。

 解決に向けた答えは――持ち合わせていない。

 そんなものを持ち合わせているならば、とっくの昔に、土岐にぶつけている。

 それができないから――「わからないからこそ、動くしかないんだ。星海と要さんを、くっつけるしか無い」

「うん。そうだね、そうだ。その返答なら、前向きに検討したいと思えるよ」

 次の授業はもうすぐ始まる。

 星海はスッと立ち、それに倣って俺も立ち上がる。

 立った後視線を横に向けると、右手が差し伸べられていた。

「僕は、『願い事』を流れ星には託さないし、自力で何とかしたいと思う性質だ。でも、友人の協力を仰げるなら、仰ぎたいのが性分というものだよ」

「……いいのか」

「それはこっちのセリフだね。こんなに意気込んでいるのに、結局付き合えないなんてこともあり得るしね」

「あの雰囲気だったら大丈夫だろ」

「え! 本当! 軽率に信じるよ、良いの!」

「さっきの驚嘆を返してほしい狼狽ぶり!」

「要さんの真意がわからないんだよ! 波風頼むよ!」

「ああ、わかっているよ! 言われなくてもそのつもりだ!」

 がっしりと握手をし、決意を固めた。

 さあ、動くとしよう。

 土岐の願いを叶えるために。

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