第31話 夢で語られた真相
「隈埜さんはいつから乗り移られたんだろう」
僕が聞くと、次郎は手を腰に当てながら、歩き出した。
「さあな。でも、どちらにしても彼女は智の女だ。それだけは確かだ」
「これからアイドルを続けていくのかな?」
「分かんねえ」と次郎は僕を見た。「まあ、佑ちゃんが心配する必要ないよ。もうあいつのことを関わるんじゃねえし、話をするのも止めた方がいいぜ」
次郎は半ば苛立ちを見せていた。どうやら、僕が隈埜の話をすることが気に食わない様子だ。
まあ、次郎は僕の味方である分、隈埜に興味を失くしてくれているのだ。それを裏切るような真似をすると、機嫌も悪くなるだろう。
僕は彼の後を追おうと寺の門まで行った時に、南東の方からザザッと音がしたので、そちらの方に振り返ってみた。
そこには綾香の姿だった。しかし、綾香の足から下はなく、完全に幽体として現していて、こちらを見ている。
僕は寒気がするほど飛び上がりそうになったが、それ以上に怖いものがもう一つあった。
それは綾香が猫のぬいぐるみを持っていたのではなく、フランス人形を大事そうに抱えていた。
――ジェシーちゃんが可哀想。佑ちゃん助けて。
そう言う声が彼女から聞こえた。もちろん口を開けているわけでもないし、大声で言っているわけでもない。
どこからともなく、僕の耳元に聞こえてくるのだ。
身震いしている僕は、見なかったことにしようと次郎の方に走った。
その夜、僕は眠りにつくとすぐにこれは悪夢だと気が付いた。
周りの背景は真っ暗であり、そこには綾香ではなく、あのフランス人形――ジェシーが映し出された。
すると、急に背景は外国の建物に変わり、少女がフランス人形を大切にしている姿が浮かんだ。
少女は金髪の青い瞳、年齢は十歳くらいだろうか。それ以上に外見にはインパクトがあった。
それは、ジェシーと全く同じ外見なのだ。ワンピースの服もそうだし、髪型も人形と同じショートのカールだった。しかし、瞳はどこかうつろ気であり、虚弱体質な部分も持ち合わせていた。それがやけに魅力的な少女として映っていた。
次に見せた背景は舗装された道路だった。近くにはたくさんのマンションがあり、そこが日本だというのも何となく分かる。
そこに少女はランドセルを背負いながら走っていると、一台の車が飛び出してきた。それはかなり蛇行した運転だった。
少女は車の方を見る。ここで少女の人生の幕は途絶えてしまった。
その後、手向けられた花束と少女が大切に持っていたジェシーも花束と同じように、置かれていた。
それを花火から帰ってくる少女がジェシーの力に引き寄せられるように――親が咎めるのを聞こえないのか、ジェシーを胸に抱くと、両親は彼女に言い放つ。
「真奈美、その人形を捨てなさい」
「イヤ」
「いいから捨てなさい」
「イヤ」
その押し問答が続く。
――真奈美。確かそう言っていた。顔も綾香の母親にどこか似ている気がする。彼女はこの人形に惹かれ、ぬいぐるみを作るのが好きになったのだろうか。
そう考えると、フッと視界が消え、次に画面に現れたのは、また夜の光景だった。
どこか寒く、人気もいない。そこには大人の真奈美が一心不乱に歩き出し、森の中に入っていく。
右手には金槌、そして五寸釘、左手には藁人形が握っていた。
彼女は大きな欅の木を見つけると、そこに藁人形の胸に五寸釘を打ち付けた。
「死ね、死ね……。あいつを……。隈埜小秋を許さない」
そう叫ぶように真奈美は何度も打ち付ける。そこには普段見せる大人しそうな母親の姿ではなかった。目は完全に血走っていた。
服もどこか白装束ではないが、無地の白いワンピースを着ていた。ワンピースはあの少女を崇拝していたのだろうか。
――綾香の母親は、隈埜小秋の存在を知っていた上に、名前も知っていた。ということは、彼女と話をしたということなのか。
すると、また情景が違った場所に映し出された。今度は夕方真奈美が、何かを発見すると走って近づく。
その何かとは、一人のランドセルを背負った少女だった。小学生高学年だろう。身長も高かったし、大人びていた。僕はすぐに誰だか分かった。
――隈埜小秋だ。
真奈美は隈埜の肩を掴むとこう言い放った。
「ねえ、あんたがやったんでしょ。分かってるのよ」
「だ、誰ですか?」
そう言うと、真奈美と一緒に下校していた同級生の少女たちは逃げるように立ち去っていった。
「國繁綾香の母親よ。あなたが真奈美をイジメた主犯格よね?」
真奈美は隈埜の両肩に掴みながら、感情的に彼女の肩を揺らした。
しかし、隈埜は淡々と答えた。
「何を言ってるのか分かりません。あたしは綾香ちゃんと一緒に帰ったこともあったし、仲良かったですよ。あんまり変なこと言うと、母親に言いますよ。お母さんPTAの会長っていうのはあなたも知ってますよね?」
それ以上、真奈美は何も言えなかった。どうやら、隈埜の母親の権力は強いようだ。
そんなことを考察していたら、また情景は変化し、暗い背景、そこに人形のジェシーが映し出された。
「ねえ、佑ちゃん」
と、ジェシーは僕に向けて話し出した。
「あたし、人間関係の摩擦とか、恨みとか憎しみとかどうでもいいの。ただ、遊んでくれる人が欲しいだけ。遊んでくれる?」
そこで目覚ましが鳴りだした。無論、僕はスマートフォンの目覚ましを止める。
僕は眠い目を擦った。
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