第11話 隈埜小秋のライブ 2
観客はそれほど多くはなかった。やはり先程金村が言っていたように定期的に行っているからであろうか。
その為、アイドルメンバー五人を至近距離で立ったまま観覧した。
センターの隈埜小秋は楽曲のソロパートが多く、決して歌は上手くはなかったが、ユーチューブで閲覧したように、可愛く高い声を出していた。その声を聴けば僕の心がキュンとときめいていた。
それに、彼女だけの楽曲もあった。これも僕は知っていた。その度に僕の心はヒートアップしていた。何故なら、彼女は学校で見せる少人数の生徒と仲良く話している場面とは裏腹に、ファンとの付き合いの見知らぬオジサンたちに、全てをさらけ出すかのように笑顔で出迎えてくれるからだ。
「小秋ちゃーん!」
ファンの男性から野太い声が聞こえてきた。僕は一瞬驚いていたが、その人の気持ちは分からないでもなかった。やはりこの『OPQ』では隈埜小秋一人目立っている。逆に他のメンバーは彼女のことをどう思っているのか。
そんなことを考えていると、ライブも終盤に差し掛かってきたのか、MCを務める隈埜小秋が一人のメンバーの卒業を発表した。
すると、ファンたちは愕然とした声をする。その後、そのメンバーが話をし始めるのだが、彼女は淡々と話をしている。どうやら将来の進路により、学業を優先したいらしい。
だが、そのメンバーはダンスもキレがあり、歌も上手かった。どちらかと言えばアーティ
ストのような女性だったのだが……。
僕は勿体ない気持ちと、このグループのメンバー内には、何か色んなものを抱えているようにも思えた。
ライブが終わると、ファンたちは会場を後にして廊下に出る。僕らもそれに続くと、そこには先程ステージに立っていた『OPQ』のメンバーがいて、まるで僕らを出迎えてくれる。僕は彼女らに対して親近感が湧き、感動を覚えた。
ファンの男性たちが馴れ馴れしく、隈埜小秋に対して話しかけている。何だかその光景を見ると、少し嫉妬を感じてしまい、僕は思わず目を背けてしまっていた。
それを見る、金村は、「何だ、羨ましいのか?」
「いや、別に、そんなつもりじゃないけど」
「でもさ、ここで彼女たちのCDやDVDも買えるんだぜ。もちろんインディーズだけどだな。その中でも、一番人気があるのがツーショットチェキ、しかもサイン付きだ」
「へえ」
と、僕は関心がなさそうに答えつつ、心の中では心を躍らせていた。そんなことが出来るのか。
ちなみにサイン付きチェキは千五百円であり、殆どが小秋の前に行列を作っていた。
「俺達も並ぼうぜ」
金村に続き僕も並ぶ。
十分ほど待つと、金村はようやく小秋と対面した。
「今日も来てくれたんだ」
小秋は満面の笑みを彼に見せる。
「ああ、そうだぜ。一番前で観てたんだからすぐに分かっただろう?」
「ふふふ、分かってたよ」
小秋は金村に対してここまで親しく接している。学校では一言も交わしているところを見たことがない。何だか、始めて見る光景であり、まるで友達の様だった。
「今日はさ、一人新たに小秋ちゃんのファンを連れて来たぜ」
と、彼は後ろにいる僕に親指で差す。
小秋は僕と目が合うと、少し間をおいてから笑顔を見せた。
「一緒のクラスにいる、長永君だよね?」
と、名前を憶えてくれていることに僕は嬉しく感じた。
「う、うん。そうだよ」
僕は思っている以上に自分でも声が小さくなっていた。ただでさえ異性と話すことは慣れていないのに、目の前には今自分が推している女性なのだ。鼓動の爆音が凄まじい。
「来てくれたんだ。ありがとう」
そう言って、僕の右手を両手でつかみ握手をしてくれた。
「ありがとう」
華奢で柔らかな手の感触だ。これが女性の手なのか。僕が感動していると、横で金村が喋った。
「さっきも言ったように、ツーショットチェキを俺はいつも買ってるんだ。お前も金持ってるんだったら撮ってもらえよ」
相変わらず上から目線で金村は言ってくる。しかし、僕はそれ以上に目の前にいる小秋に対して興奮している。
僕はこの日の為に、どれくらいの金額を使うのか把握できていなかったので、財布の中には一万円ほどあった。
「チェキを撮ってくれる?」
僕は上目遣いで彼女に言うと、小秋はクスっと笑って、「いいよ」と、僕の肩に手で叩いてスキンシップをした。
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