第12話 思いもしなかった告白
「どうだ? 良かっただろう?」
ライブハウスを出て、僕たちはファストフードで夕食を取ることになった。席に着いた時に、金村は僕に言った。
「ああ、とても良かった。俺ライブに行くのが初めてだったから、実際にステージで聴くと音響が凄いな」
すると、金村は手を横に振った。
「違う違う、そこじゃねえよ。小秋ちゃんだよ。ったく、祐ちゃんは素直じゃないからな」
確かに僕は素直ではない。今日のライブは小秋の姿を見てからずっと虜になっていた。彼女の制服姿、少し膨らんだ胸、普段とは違い髪を束ねてツインテールにしている。その姿がメンヘラの女性に見えるが、逆に守ってあげたくなる本能が出てきて、彼女ばかりを追いかけてしまう。
もちろん、ダンスもお手の物だった。一瞬たりとも他のアイドルに目を向けさせないよう、上手いこと泳がすことも何となく分かるような。
「ツーショットチェキも写真見せ合いっこしようぜ。祐ちゃん小秋ちゃんにずっとデレデレしてたじゃん」
「そうだったっけ?」
僕は不貞腐れたような表情をした。僕の性格は追い込まれると素直ではなく、気障になってしまう。
「でも、俺の写真格好悪いから、誰にも見せたくないんだ」
「……まあ、いいぜ。これからは完全に小秋ちゃんのファンになったな」
「……まあね」
僕はファストフードで何を食べたのか覚えてないくらい、小秋のことばかり気になっていた。
「あの、長永君。ちょっといい?」
三時間目の休み時間に次郎の幼馴染の西村さんから、いきなり声を掛けられて、僕は驚いた。
「どうしたの?」
と、僕は次郎が何か西村さんにしでかしたのかと思っていた。
「ちょっと、こっちに来て」
彼女は手招きをして、僕の頭の中にはハテナが浮かんだ。
人が誰もいない体育館の裏側まで行く。清掃も行き届いていない雑草が生い茂っている。僕は一人の女子生徒がいると分かると、すぐに誰だか確信した。
それは、西村さんとこの前会った高野さんが半ば俯き加減で、僕を見ていた。
西村さんが高野さんに「連れて来たよ」と言うと、高野さんは緊張した面持ちで、少しずつ歩き出した。
何事かと僕は思っていたが、何となくこの場面はTVゲームで見た光景に似ている。
案の定、高野さんは、尻の後ろに隠していた手を前に出すと、そこには白い便箋に入っていた手紙を握っていた。
「急に呼び出してゴメン」と、高野さんは僕と顔を合わせずに、横目で話した。「これを読んで欲しいんだ」
と、手紙を僕に近づける。僕はそれを受け取ると、
「じゃあ」
そう告げる二人は走ってその場を立ち去った。
僕は思わず生唾を飲みこんだ。これはきっとラブレターでしかない。恥ずかしそうに切り出す話し方、そして閉じている便箋のシールは赤いハートマーク。
勘違いしてしまう男子は絶対にいるはずだろう。
僕は誰もいないことを確認すると、震えている手で徐に封を開けて、中の手紙を取り出した。
手紙を広げると、そこにはこう書かれていた。
この前の勉強会で、あたしに話しかけてくれてありがとう。あの時、あたしはよりあなたのことが気になりました。
本当は二年生で同じクラスになってから、何となくあなたを目で追いかけたりして興味がありました。
そんな中で、唯花から勉強会の話で、あなたと近づけられると思って、しかも、話しかけてくれて、あたしはそれから初めて告白したいと思い、手紙で伝えます。
好きです。“付き合ってください!”
その文面を全て見た時、僕は思わずニヤついてしまった。周りから見たら気持ち悪がられるかもしれないが、誰だって、告白の手紙を貰うとニヤニヤするのが普通だ。
しかしその反面、複雑な気持ちがよぎる。僕は隈埜小秋が好きなのだ。日に日に彼女に目を奪われていき、妄想の中ではずっと彼女とデートをしている。
僕は高野佳苗のラブレターをポケットに突っこんだ。
隈埜小秋は授業中に黒板を見ながらメモを取っている。そこで国語の先生は小秋を当て、問題の解答を求める。
小秋はスラスラ言葉を言う。それに対して先生は手を叩く。
「お見事ね。さすが隈埜さんね」
鬼の田中先生も目を細めてニコッと笑う。あんまり気にはしなかったが、どうやら小秋は勉強も優秀だ。
また、休憩時間では、小秋の席には茶髪のパーマを掛けた素行の悪い女子高生と話をしている。彼女は大変小秋と仲が良い。どういった関係なのだろうか。
そう頬杖を突きながら注目していると、そこにこれまた、素行の悪く同じくカッターシャツをズボンに入れずに格好を付けた男子生徒たちが、フレンドリーに小秋たちに声を掛けている。
――何か口説いているのか?
そんなことを考えていると、思わず貧乏ゆすりを始めた。じれったくて直視できない。
僕は立ち上がり、軽く自分の机の脚に蹴りを入れた。
トイレで立小便をしていると、そこに次郎が入ってきた。
「お、奇遇ですね」
「まあ、トイレで会うってこともあるだろう」
次郎は暫くこちらを見て、自分のズボンのチャックを下ろして、隣の便器で小便をした。
「ふーん。ところで祐ちゃんさあ、こないだ貸したマンガどうだった?」
「どうだったって、読んだけど、まあまあ面白かったよ」
「そうじゃなくて、ちょっとエロいマンガだろう。特に大学生の男と女があんなことやこんなこと……」
「まあ、そんなとこもあったかな」
僕はトイレを済ませ、手を洗った。本当は次郎の言うとおり、貸してもらったマンガは少しエロティックなマンガも込みだった。彼が僕にその部分も含め貸したことが目に見えていた。しかし、僕もそのシーンは何度も読み返していた。
「相変わらず、祐ちゃんは素直じゃないな。素直じゃなきゃ女子にもモテないぜ」
と、彼は小便を終えて同じように手を洗う。
僕たちがトイレに出ると、そこに丁度西村さんも友達と一緒にトイレから出たところだった。
「おっと、またまた奇遇ですね」
次郎は、今度は彼女に対して笑顔を見せる。
「確かに奇遇といっちゃあ奇遇だけど。丁度、次郎の話をしてたんだ」
と、西村さんは僕をチラッと一瞥した。多分あの佳苗のラブレターの返事を聞きたいのだろう。
「何々、俺の話? 俺がイケメンだという話?」
次郎は自分に指を差してテンションが上がっていた。
「違うよ。次郎って色んなことに突っこむよねって言ってたんだ」
そう言うと、隣にいた彼女の友達も頷いて笑う。
「何だよ。仕方ねえだろう。俺超寂しがり屋だもん」
と、ここまで聞いていた僕だったが、何だか面倒くさくなって、この場から離れ、教室に戻った。
自分の席に座ると、ポケットからスマートフォンを取り出し、佳苗のラブレターに自分のラインⅠDも書かれていたので、僕はすぐさまラインを登録した。
放課後になり、一人で電車に乗るまで歩きながらスマートフォンのラインを見ると、佳苗が僕と友達になっていたところで、僕は本音を綴った。
――手紙ありがとう。凄く嬉しかったよ。でも、ゴメン。今は友達でしか見れないんだ。友達でも良かったらこうしてラインで話をしない?
文章を送ると、暫くして彼女から既読は付いたが、それから返事が返ってくることはなかった。
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