第10話 隈埜小秋のライブ 1

 僕は家に帰ってから、暗い気持ちを入れ替える為、僕は部屋に入るとノートパソコンを起動させた。

 隈埜小秋が在籍しているアイドルグループ『OPQ』のホームページを見ようと思っていた。

 ――付き合うのであれば彼女がいい。その遠藤君と同じ言葉を発した。本音はよくわからなかった。僕は隈埜小秋と一回も話したことはない。確かに次郎たちは彼女に興味があるので、目では追ったことがある。

 僕は画面で隈埜さんを発見すると、そこには普段高校生活を送っている彼女とそれほど変わりない。髪型もセミロングであるし、黒髪でナチュラルメイクである。他のメンバーもそういった格好をしているので、このアイドルは清純系を推しているようだ。

 プロフィール欄を見ても彼女は至って突飛がある記載もなく、他のメンバーと変わりはない。しかし、彼女はセンターを勤めている。リーダーシップがあるのだろうか。

 僕は暫く首を傾げていたが、ホームページに掲載されている動画を観ると、一転した。

 そこにはカメラがほとんど彼女メインであり、どこかぶりっ子の姿を見せては、パワフルに歌い上げる一面もあった。このムービーだけでは変わり者のようにも見える。

 しかし、別の動画の一人ひとりのインタビューでは、彼女はわざとぶりっ子を見せつつ、どこか芯のある部分も感じていた。現実的な女性でもあるし、全ての男性を包み込むような包容力も醸し出していた。

 僕はこの動画を観て、彼女と一緒に対話したら楽しく過ごせるだろうなと感じた。顔は確かに美人であり、表現は可愛い。それが作為的に行ったとしても、彼女の滲み出るオーラが瞬く間に魅了されそうになる。

 僕はその後に、彼女自身のSNSを拝見した。もちろん普段の隈埜小秋ではなく、アイドルの隈埜小秋である。

 そこには、朝の挨拶から始まり、夜のお休みまで写真を撮りながら、一言呟いていた。そこで多数の男性からのメッセージ。これには圧巻された。

 ――彼女を惹き付けられる根本は何なのだろう。僕は自然と興味が入ってきて、彼女のユーチューブを観ていた。そこには彼女の普段の生活が現れていた。

 僕はいつしか彼女の話の上手さや、少しはにかむ小悪魔的な目線。たまに丈の短いスカートを履いてはおどけた様子を見せつつ、セクシーさをアピールする。僕は少しずつだが彼女を観る度に高揚していた。


「あれ、お前、アニメの女が好きじゃなかったっけ?」

 と、金村君が僕に思わず指を差した。

「まあ、確かにそういうところもある。でも、俺も一度彼女のライブに行ってみたいんだ」

「へえ、ようやくお前も小秋ちゃんのファンになったんだな」

 僕は放課後の教室の掃除当番で一緒になった金村君に、みんなに聞こえないように小声で話しかけた。あれから僕は隈埜小秋に興味を覚え、帰宅後ユーチューブで過去の彼女の動画を観ては、ときめいていた。

 身体も小柄だが、出るところは出ているし、何といっても目が釣り目できつい印象を受けていたのだが、動画で見せる笑顔に僕はやられた。そして、小学生や幼稚園児に対して優しく話掛け、しかも男子に抱き着いていた動画は、確かに僕の中に嫉妬が芽生えていた。

 つまり簡単にいえば、僕は完全に彼女が好きになっていた。

「まあ、俺も彼女の一ファンになっちゃったんだ。でもさ、この学校の男子生徒たちもライブに行ってるんだろう?」

「もちろんさ。でも、意外だったな。あんまり異性に関心がないお前が小秋ちゃんのこと好きになるなんて……」

 アイドルオタクの金村は、女子からは気持ち悪がられても、それがポリシーだと言い切るほど、テレビに出ている女性アイドルはもちろん、地下アイドルの女性も全て把握している。しかも語りだしたら止まらないのだ。

「まあ、同じクラスだしさ。やっぱり応援してあげたいじゃん」

「俺の知り合いでライブに行ってる奴は、みんなそんなこと言って結局小秋ちゃんと結婚したいと叫んでるぜ」

 と、白い目で見る金村に対して、図星な僕は思わず苦笑いを見せた。

「まあ、いいぜ。でもさ、『OPQ』だけじゃなくて、他の地下アイドルだったら隣町の女子高生もアイドルやってるから、そこのグループも紹介してやろうか?」

「……俺は、別に……」

 僕は彼女だけで結構だったのだが、その後に十分ほど金村から地下アイドルの話を聞く羽目になった。


「この地下に行けばライブハウスがある。『OPQ』はよくここのライブハウスを借りて行ってる」

 金村に連れてこられた場所は、駅から十分くらい歩いた場所であった。周りには居酒屋、スナック、風俗店が立ち並ぶ繁華街だった。空は暗く、辺りを見渡せば、会社帰りのサラリーマンや二十代の男女らが談笑しながら歩いている。

 あんまり夜に出かけることが少なかった僕は、このような風景はテレビでしか観たことがなかった。いざ目の当たりにすると、人通りが多く嫌気がさしてくる。

 もちろん、隈埜小秋がいる地下会場に、下りていく若者や四十くらいの男性らも目にしていた。いかにもオタクって感じの奇抜な人たちではない、どこにでもいる普通の人だった。しかし、全員一人で来ているようだ。

「お前は以前、俺らの高校の生徒たちもライブに足を運ぶって言ってたけど、結構見かけるのか?」

 僕は金村に聞いた。

「いいや。まあ、今日は平日だし、それに『OPQ』は結構活動していて、週に三回くらいライブやってるからな。ほら、小秋ちゃんもたまに昼間に早退するだろう。アレは、その日にライブがあるからだよ」

「ああ」と、僕はそういえば今日も早く帰っていたなと回想していた。

「もうそろそろ入らないと、スタートまで十五分だせ」

 金村は自分の腕時計を見ては、地下に下りていく。僕もそれに続くと、カウンターにライブハウスのスタッフなのか、若い男性だが金髪で長身、声はぼそぼそと話す人に呼び止められた。

「二人で」と、金村は言うと、僕らは会場の中へ入っていた。

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