第9話 初恋の行方
僕は帰り道、一人で金村君の怖い話を振り返っていた。
自分の過去を振り返ると、僕はモテなかったわけではない。小学三年生の時、僕と一人の女子生徒は互い好意を持っていた。
その子の名前は、國繁綾香という少女で、比較的大人しく人の後ろに隠れる小学生だった。
真面目ではあるが、今思えば少し変わった少女でもあった。
何故なら前髪は控えめすぎて目元まで隠れるほどであり、猫のぬいぐるみをいつも腕に乗せるように持っていた。
そのいつも離さないぬいぐるみに対して、先生は優しく注意する場面を何度も見たことがある。その都度、彼女は涙を溜めて泣き出すのだ。これには先生もお手上げになってしまっていた。
僕がどうして彼女のことが好きになったのかは、元々近所に住んでいて、僕の母親と彼女の母親が、僕らが入学式の時に意気投合し、仲良くなったのがきっかけだ。
それから何度か僕と母親二人で彼女の家に行ったことがあった。向こうの母親は優しく寛大な人だった。ただ、豪快に笑う肝っ玉なお母さんではなく、黒髪や黒い服が似合う、どこか影のある人だった。
綾香ちゃんはそれから少しずつ仲が良くなった。最初は無口だった僕らも徐々に喋ることが多くなり、学校ではどちらも他人に対して心を開かないが、二人の間では確かに絆のようなものがあった。
ぬいぐるみに関しては、彼女が子供の頃から母親に買ってもらった物だった。徐々に愛着が湧いたという。
「このミーちゃんを持ってると、とても安心できるの」
確か、そんな言葉を聞いたことがある。
僕も携帯ゲームが好きで、学校では持って行かないが、プライベートではいつも肌身離さず持っていたので、そんな感覚なのだろうと思っていた。
母親から、娘を配慮することを学校側は心がけていたようで、あまり注意をすることはなかったのだが、小学三年生にもなると、大人になる自覚を持つためにも、学校にはぬいぐるみを持ち込まない注意をすると、泣き止まないこともしばしばあり、それを見ていた僕は、どうすればいいのか気が気でなかった。
しかし、それ以上に僕らを悲しませる事態が起きた。父親の仕事上の都合で國繁一家は転校することになったのだ。
「好き」
という言葉は彼女からだった。夕方の公園で抱きしめ合った。
しかし、それ以上だった。お互い連絡も告げず、また聞かないまま、彼女たち一家は僕らの前から姿を消した。
今思えば連絡を取っておけば良かった。そう、取っておく必要があったのだ。
何故なら、あの別れから一年後に、彼女の母から僕の母に電話で告げられたのだ。
――綾香は死んだのだと。
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