第8話 ある怪談話

 何気なく金村君が言うと、次郎が嬉しそうに大声になった。

「いいねえ。面白そう!」

「あたしも聞いてみたい」

 と、西村さんは前のめりになる。

「怪談話かよ。まあ、お前の家は色んな幽霊がいるかもしれないからな。まあ、どうせ親父さんの話だろう」

 鹿島君は腕組みをして口角を上げていた。

「鹿島、俺は親父から聞いた話をする。嘘か真実は分からない、あくまで噂だ」

 と、金村君。

 次郎は僕に笑いながら言った。

「佑ちゃんはどうする? ここまで来たら聞くしかないよな」

 僕は霊感があるわけではないが、幼少の頃テレビで怖い映画が流れていて、両親に向かって泣き出したことがある。記憶にあるほど怖い話は嫌いなのだ。

 しかし、早弁と同じ観念のように、ここで逃げ出したらただのチキンになってしまう。僕らにはノリとガツガツさをモットーとしている――ような気がする。

 ここで否定な発言をするわけにはいかない。

「いいよ。聞こう」

「おっしゃ、大地始めてくれ」

「怖いトーンで頼む」

 鹿島君は徐々に乗り気になっていた。

「分かった。さっきも言ったように、これは親父から聞いた話だ。お前ら幽霊が人形に宿る事って知ってるよな」

「ああ、何か聞いたことはあるな」

 と、次郎。

「その人形が、まあ市松人形だったり、こけしでも乗り移ると言われている。

 ここでの話はフランス人形に幽霊が宿っている話だ。

 ある花火大会が行われた夜。家族連れが多かったんだ。大きな花火大会だったようで、最後の打ち上げ花火が連発で終わり、河川敷から帰る人たちは大勢いたようだ。

 その中で一人の三人家族――父親と母親、そして五歳になる娘の三人は河川敷から少し離れたところで信号に捕まったんだ」

「そこにはたくさん人がいたんだろう?」

 次郎は話に入っていた。もしかしたら彼は怖いのだろうか。

「ああ、多分な。親父も人づてに聞いた噂みたいなものだから、真実かどうかは分からない」

「話を進めてくれ」

 と、鹿島君。

「分かった。そこで数日前に外国人の女の子が交通事故で亡くなった。フランス人形を手向けられていたことから、多分ヨーロッパの少女だろう。花束と一緒に置かれていたんだ。

 すると、先程の三人家族の娘が何を思ったのか、急に人形に興味を示し、一目散に走っては、人形を抱きかかえたんだ。

 両親はここで事故が起きたという話はしなかったものの、あまりにも喜ぶ娘に対して気味が悪く、人形を奪おうとするのだが、娘は離さなかったんだ」

 僕は想像すれば恐怖を感じることに、鳥肌が立っていた。静まり返った部屋の中で、誰かが生唾を飲み込んだ音が聞こえた。

 金村君は話を続けた。

「しかし、力が強い父親がようやく人形を奪い取ると、雑木林に投げ捨てたんだ。

 もちろん何かに乗り移られている娘は、雑木林に入ろうとするのだが、両親に力づくで無理矢理自宅に帰ったんだ。

 すると、娘は大人しくなり、いつもの明るい少女に戻ったようで、両親はホッとしたんだ」

「おお、良かったじゃねえか」

 次郎は感嘆して腕組みをした。やけに話を遮るなあ。

「しかし、次の日。父親は仕事、母親は専業主婦なのだが、夏休みで幼稚園が休園なので、近くの公園に一人で遊びに行くことが日課となっていた娘は、暫くしても返ってこなかった」

「おいおい、このご時世、一人で行かせて大丈夫なのかよ」

 と、次郎の言葉に流石に金村君も嫌気を差していた。

「あのなあ、これは噂で広まった話だ。作り話だと思えばいい。

 それで、昼になって母親は何かあったのかと心配して娘がいる公園に行こうとした時に、娘はニコニコして帰ってきたんだ。

 良かった。ホッとした。と思いきや、娘が手に持っていたモノに一気に母親は頭抱えて悲鳴を上げたんだ。

 それは昨日、捨てたはずのフランス人形だ。人形はボロボロになっているが、着ている服からしてみたら、それに違いなかった。

 娘はまた何かに乗り移っているようで、人形と遊ぶ。今度はマリちゃんという名前も付けていた。

 発狂した母親は丁度近くにいた、ゴミ収集車にこの人形を処分させた。

 暫く泣き叫ぶ娘だったが、その後、何事もなかったように涙が渇き、笑顔を見せたようだ」

 と、ここまで淡々と話をしてきた金村君だったが、ここで話が途切れた。終わりなのだろうか?

「終わりか?」

 と、鹿島君が沈黙を破るように呟いた。

「やっぱり乗り移られていたんだと、母親は謝った後、人形さんを捨てられて悲しくないの? と娘に聞いたんだ。すると……」

 金村君は狼狽している次郎に向かって叫んだ。

「お前を、後で痛めつけてやる!」

 大声で言われた次郎は、「ひい」と声を漏らして、背中に床を付けて倒れた。僕はずっと鳥肌が立ちっぱなしだった。

 他の人たちを見たら、同様に恐怖を滲み出ているようで、特に西村さんや高野さんら女子は苦い表情を見せている。

「もう、止めてくれよ。小便ちびりそうになったじゃねえか」

「フン、お前が何回も話に入ってくるから、脅かしてやろうと思っただけさ」

「しかし、作り話だったらありきたりだが、本当だったら怖い話だよな」

 と、鹿島君は冷静に金村君を見る。

「まあ、どうかな。親父は作り話だと言っていたが、でも最初に言ったように市松人形などは魂の心が宿るっていわれてるからな」

「それで、その女の子はどうなったの?」

 西村さんはそれが作り話だと信じたいが為だろうか、話を掘り下げてくる。

「分からないね。俺も聞いたけど、話はここで終わりだ。多分作り話だろう」

 それまで黙っていた、遠藤君がぽつんと言った。

「……まあ、話は面白かったよ。ただ怪談話としては、まだ腕前が足りないな」

「相変わらず、お前は批判的だよな」

「批判してるわけじゃない。それに、他の話も俺は聞きたいけどな」

「えー、あたしはもういいお腹いっぱい。トイレも行きたくないし」

 と、西村さんが言うと、高野さんや次郎でさえも手を横に振った。

「今日はもうおしまいだ。勉強も集中力なくなってきたし、帰ろうぜ」

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