第3話 早弁

「祐ちゃん。今だよ。今だって」

「他の先公たちは、まだ来てないみたいだ。行こう」

 その発言に僕は自分のカバンの中から母が作ってくれた、巾着袋に包まれた弁当を取り出した。急いで袋をほどき、中身の黒い箱のふたを開ける。

 僕は先程喋った男子生徒たちを一瞥した。彼らは食べ物を口に入れては頷いている。

 ――本当に大丈夫? と言葉に発しようとしたのだが、僕はそれを流し込むように無理矢理抑えた。そういった小心者発言は僕らにとっては禁句だ。

 今日の弁当の中身は、卵焼きときんぴらごぼう、白いご飯に梅干し――それだけではないが僕の中の思考はそこまででしか把握していないほど、緊張で焦っていた。

 僕は箸を手に取り、急いで四角に切った卵焼きを口に入れた。

「おお」と拍手が沸き起こる。

「流石だね。祐ちゃん、これで俺たちの仲間だ」

「昼食なんて四時間目まで待てねえっつーの」

「言えてる、言えてる。あ、先公が来た!」

 先程まで弁当を開けていた僕の友達らは一斉に蓋を閉めて、自分たちのリュックサックに入れて隠す。僕もそうするつもりだったのだが、一足遅かった。

「あ、長永。何やってるの!」

 次の授業の国語の教師が、甲高い声で僕を見ていた。田中先生だ。四十代半ば、女性で独身。ちょっとした出来事にすぐにキレるところから、短気なおばさんとクラス中では噂になっている。

 僕は「すみません」と先生に何とか聞こえるくらい、か細い声で喋り、そそくさと弁当のふたを閉めて巾着袋で包み、自分のリュックサックに入れた。心臓が飛び出るくらいパニックになっていた。

「長永一人じゃないでしょう」

 と、田中先生は周りを確認すると、さっきまで僕と一緒にいた友達の笠原次郎に目を向けた。

「笠原! あんたも早弁したんじゃないの?」

「ふぉれ、ふぃふぇないっふよ」

 ――俺、してないですよ。と言いたかったのだろうが、先程飯をかき込んでいた彼の口の中は、まだ大量の食べ物が入っていた。

「何食べてるの。口動かしてるじゃない」

 田中先生は手を腰に当てて、ため息を漏らしていた。

 急いで次郎は、口の中のものを全て飲み込んだ。

「だって、俺たち待てないっすもん。四時間目まで」

「そんなこと言ったって、学校内のルールです。みんな規則を守って我慢してるのに、二人そろってルールを守るなんて許しません」

「はいはい」

 次郎は後頭部に両手を当てた。

「はい、は一回でいい」

「はーい」

 次郎のけだるそうな返事に先生は何かを言い返そうとしていたが、授業前だったからなのか、それ以上首を突っ込むことはなかった。

 僕があたふたしたせいで、次郎たちにも見つかってしまったことが申し訳なく感じ、肩身が狭かったのだが、次郎がこちらを見ては、ニコッと笑い親指を立てた。

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