第3話 時をかけるコスプレイヤーと謎の仏像
その日、俺は散歩に出かけた。
といっても、いつもの「ぐるっと田んぼ一周コース」だ。
道端の犬でもいれば「お、また来たな」みたいな顔をされるほどの常連ルートである。
だがその日は、なぜか胸がざわついた。
なんだか「今日は新しいことをしてみろ」と脳内で謎のナビゲーションが発動したのだ。
「よし、今日はイレギュラーコースだ!」
俺は持参した百均の草刈りカマを振り回し、道なき道へ突撃。
誰も褒めてくれないが、気分は探検家だ。
背後ではカエルがゲコゲコ鳴き、「無謀だなコイツ」とでも言いたげだが、聞こえないふりをする。
しばらく進むと、木々の隙間に何やら影が見えた。
人工物のようだ。ドキドキしながら近づくと――そこには、完全に崩壊した祠があった。
屋根は落ち、柱は原形を留めず、苔とシダに覆われた木の残骸が散乱している。
「うおー……ホラー映画の導入シーンかよ。俺、ホラーって苦手なんだよな。特にあのTVから出てくる女性なんか、怖くて見たことがない」
わざわざ寄っていくキャラは、だいたい一番最初にやられる役だ。
俺はそういう立場を断固拒否したい。
というわけで「これ以上は危険!」と理性を総動員し、祠本体には近づかず周辺を散策することにした。
ところが、足元の盛り上がった土が妙に気になった。
触ってみると、土の下に硬い感触。
これは……もしや古代の秘宝!?
いや、俺の人生にそんなロマンはないだろうと思いつつ、好奇心に勝てず掘り始める。
出てきたのは、分厚い苔に覆われた石の塊。
「石ころか……いや待て。これはただの石ではない予感!」
ジャングルで秘宝を発見したインディ〇・ジョーンズよろしく、俺は両腕で泥だらけの塊を抱え、ゼイゼイ言いながら家まで持ち帰った。
ご近所さんに見られたら「ついに頭やられたか」と思われそうな姿だ。
庭の水道でゴシゴシ洗うと、緑の苔がペリペリ剥がれていく。
徐々に姿を現したのは……
「……仏像!?」
そう、それは小さな石仏だった。
サイズ的には座布団にちょこんと座れるくらい。
顔は風化しているものの、なんだかほんのり愛嬌がある。
見れば見るほど、居酒屋の常連客にいそうな親しみやすさ。
「あの崩れた祠に祀られてたのかな。なんか不憫だな……」
祖母が生きていた頃に聞いた、近所の祭りの話を思い出す。
今はもう廃村になった集落も、昔はこういう仏像を大切にしていたのだろう。
俺は仏像をきれいに清め、家の仏間へ。
神棚の隣に座布団を置き、その上に安置した。
「……神棚と仏像の並びってどうなんだ? でもまあ、神仏習合って言うしセーフ!」
完全に自分都合の理屈で納得した。
ついでに神棚と同じくお神酒や米もお供えしてみる。
こうして、俺の日課に「石仏に晩酌を振る舞う」が追加された。
そんな日々が続き、ある夜。
ネットで天文サイトを眺めていると、「今夜は新月」と出ていた。
ふと、子供の頃に田舎で見た天の川を思い出す。
せっかくだしと縁側に出て夜空を眺めた。
……しかし。
「星、少なっ!」
麓の町の明かりが空を白くしていて、期待したロマンチックな星空とは程遠い。 仕方なく肩を落として仏間へ戻ると、いつものように仏像に供えていたお神酒を下げ、そのまま一人酒盛りを開始した。
せんべいをかじり、日本酒をちびちび。孤独だけど、妙に落ち着く。
「ふぃー……俺と仏像、どっちが先に酔いつぶれるか勝負だな」
誰もツッコんでくれないギャグをかましつつ杯を重ねていると……ぐらり、と。
「……え?」
世界が揺れた。地震か?
と思った瞬間、目の前の景色が一変していた。
そこは見慣れた仏間ではない。
電気も蛍光灯もなく、完全な暗闇。
かっこよく言えば「漆黒の闇」だが、俺的には「おい電気代払うの忘れた!?」の方がしっくり来る。
「ちょっと待て。酔いすぎで幻覚見てんのか?」
パニック寸前の頭を必死で押さえ、スマホのライトをオン。
照らし出されたのは、板張りの壁と床。
そして正面には――大きな仏像が鎮座していた。
「え、でかっ!?」
俺が山から拾ってきた仏像にそっくりだが、二回りは大きい。
しかも保存状態バツグンで、顔立ちもはっきり。
「国宝クラス!?」と叫びたくなる美しさ。
神聖な空気に圧倒され、俺は無意識のうちに膝をつき、手を合わせた。
――どうか、元の場所に帰してください。
そう念じた瞬間、スイッチを切られたように意識が遠のく。
次に目を開けると、俺は我が家の仏間にへたり込んでいた。
目の前には、いつもの神棚と、隣にちょこんと座る小さな仏像。
「……え、夢? いや、夢にしてはリアルすぎたぞ」
蛍光灯がチカチカ光り、まるで「おかえり」とウインクしているみたいだ。
俺はしばし放心しつつ、手元の酒をちびり。
「……これ、異世界転移フラグじゃないよな?」
そんなツッコミを自分に入れながら、俺と仏像の奇妙な同居生活はますますカオスになっていくのだった。
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