50品目 大人の「お子さまランチ」(後編)

「ほへぇ~……。なんとか"ごちそうさま"ですぅ~……」


 私よりひと足先に、向かいの席でさと子がゴールインを決める。さすがにこたえたようで、ふうーとお腹を抱えてひと息ついていた。


「やるなあさと子……。私は……」


 半分くらいまで食べたところでお腹がいっぱいだ。油断すると箸を持つ手が止まってしまいそうになる……。


(諦めるのか……? ここまで来て……)


 圧倒的量を前に心がくじけそうになるが。私はいや……と小さく首を振った。


 決めたのだ。このラスト50品目を完食したら、今日までの気持ちをさと子に伝えるって――。


 それまでは止まれない。意識して箸を動かすと、『チキンライス』や『ハンバーグ』、『ナポリタン』をおいしくいただいていった。


「頑張れ純ちゃ~ん! ファイトっ!」


 さと子がサポーターよろしく一生懸命に応援してくれる。最初チキンライスに刺さっていた日本国旗をフリフリと振っていた。


「なんか日本代表になったみたいで笑っちゃうからやめて」


 うっかり吹き出してしまったらどうするのだ。


「いいじゃんー、大食いニッポン代表」

「別に目指してないんだわ……」


 部活でやってるバドミントンでならなりたいけど。フードファイトで世界のてっぺんを獲りにいくつもりはない。


(今は余計なことは何も考えず、目の前の料理に集中だ……!)


 欲張りわんぱくメニューへと向き直る私。完食目指してただひたすらに、死力を振り絞って少しずつ食べていく……。


「あと5分だよ純ちゃん。もうちょっと!」


 さと子からのエールに、私は無言でこくりと頷く。言葉で返事をする余裕すらなかったが、励ましは十分に背中を押してくれた。


(これで終わりだ……っ!)


 ようやく"巨大プレート"の肉や炭水化物を食べ終え、傍らに控えていたプリンに手を伸ばす。手に取ってみると、さっきまでの大盛り軍団との対比で、本当に小さく感じるなあ……。


(……よし!)


 フタを開けてスプーンをとる。"プリンは液体"と自分に言い聞かせて、流し込むような感じでガーッとラストスパートをかけていった。


(――ラストひと口だ!)


 最後のスプーン1杯分。卵感とミルク感のあるカスタードプリンを、きっちりとおいしくいただいてから……。


「……ごちそうさまでした」


 手を合わせて完食。さと子に遅れること約10分ほど――。昼休みの時間残り3分のタイミングで食べきった。


 総重量1キロにもなる"裏メニュー"――大ボリュームな大人の『お子さまランチ』を、私はすべて胃に収めることに成功したのだ。


「やった~っ! おめでとう純ちゃん!」


 自分ごとのように喜びを爆発させるさと子。厨房につながるカウンターから覗いていた学食のスタッフも、パチパチと拍手で祝福してくれた。


「お見事だよ純ちゃん。これで二人ともクリアーだね」


 さと子は立ち上がって私の隣に来ている。私もふうふう言いながらなんとか並び立った。


「うん……。さと子……」

「ん?」


 いったんティッシュで口の周りを拭く私。一拍置いてから、さと子への感謝の気持ちなどを伝えた。


「いつも素直になれなくて……そっけない対応ばかりしちゃう私だけど……。本当は、さと子と過ごす学食での時間に、毎回心癒されてた……」


 こうして目を見て話していると、やっぱり照れくさいな……。でも、今だけはしっかり言わなきゃ。


 本心からの言葉をはっきりと口に出して贈った。


「私と出会ってくれて……。友達でいてくれてありがとうさと子。……これからも、二人で一緒に学食食べていこう?」


 自然と手がさと子の方へと伸びる。私が差し出した手を、彼女はうんと頷いてから握り返した。


「もう……。普段シバいたりしてくるくせに……純ちゃんは本当にずるい人だよ……」


 ふんわりと包み込むような笑みで、目の前のさと子は表情をほころばせた。


「うん……。二年生になっても、ずっと純ちゃんと一緒だよ?」


 まるで花が咲いたようだと――見つめる私はそう感じた。心を解きほぐされた思いがして、さと子につられるようにして私も笑う。


「……改めてよろしくな、さと子」

「こちらこそ。へへ~!」


 50品すべてコンプリートしたが、さと子との学食生活は終わらない――。それを確かめ合ったうえで、私たちは一年生最後の"まとめ"を行った。







『3月23日 お子さまランチ


 親友と過ごしたこの一年間が、大切な思い出となりました。おいしい料理を作ってくれた皆さんのおかげです。ありがとうございました。


                               純 & さと子』





 私とさと子が二人で考えた文章だ。生徒たちへの愛情に満ち溢れた、この学食への感謝の言葉。


 ――私とさと子を出会わせてくれたことへの、表現してもし切れない"ありがとう"のメッセージだ。


「……やばい。さと子! もう授業始まるっ!」

「ぬえっ!」


 完食した時点で残り3分だったのだから当たり前だ。のんきに余韻に浸っている暇などない。


 『感想ノート』をぱたりと閉じて、教室へ向かうべく私は急いだ。


「走るぞ! 私が引っ張ってってやるから!」

「ま、待ってよ純ちゃん~っ!」


 さと子の手を引いて駆けていく。最後まで騒がしいやり取りになってしまったが、この学食で過ごした何でもないような一年間を、私は生涯忘れない――。










   お わ り










<最終話あとがき>



 おかげさまで、無事に完結まで描くことが出来ました。最終話までお読みいただき、誠にありがとうございます。


 新連載も頑張りますので、フォローや♡、☆で応援してもらえると嬉しいです。




「デスゲーム ~赤羽中学2年B組、学校を舞台に殺し合う~」

https://kakuyomu.jp/works/822139839536576503







―――――――――十文字ナナメ

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女子高生二人が学食食べるだけ 十文字ナナメ @jumonji_naname

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