第4話 衝撃の魔力診断結果

 母上がいなくなってから2年が経ち、俺は10歳になった。


 領主の奥方が居なくなったこともあり必死に国中を探し回ったが、ついに母上は見つからなかった。一方で父上と母上の不仲を知っている人からはオットー家を裏切り祖国へ亡命した……なんて聞いた時には思わず掴みかかってしまったくらいだ。あの誰よりも優しくて美しいあの人がそんな事をするはずがないって、少なくとも俺と兄上は知っていたから。


 だが暫くして兄上も最愛の人を忘れるように、一層オットー家の魔術師として振舞い始めた。魔術学院をトップの成績で卒業した兄上は、戦争や魔物退治でオットー家の魔術師たる所以を見せ、魔術師議会や王国議会への出席も果たし今や立派にオットー家の魔術師となっている。しかし次第に俺へ割く時間は失われつつあった。今では月に一回『魔術が放てたかどうか』を見る程度に納まってしまった。


 そして俺はと言うと――結局10歳になる今でも魔術を放ててない。


 今日も目前には魔鋼岩ヒヒイロカネが聳え立っていて、新たな魔術の跡が着くことは無い。


「……どうして。どうして10歳になるのに魔術が出ないんだ!!」


 いい加減世界を呪うしかない。


 俺はオットー家の魔術師なのに! 兄上がこんなに俺のことを指導してくれているのに! 周りの魔術師貴族はみんな魔術を放っているのに!


 ……どうして、やっと才能や環境に恵まれたのに、世界は応えてくれないんだ。


「ベスティ」


 後ろには一ヶ月ぶりに指導をしてくれた兄上が、不甲斐なさすぎる俺を前にして力なき目つきをしていた。


 ゴミでも眺めているような視線に、心臓が握られた気分だった。


「10歳になってしまったな。でも初級魔術ファイヤーボール一つ撃てなかったな。よくもまあそんな調子でオットー家の敷居を跨げるもんだ」


「兄上。返す言葉もありません。こんなに面倒を見て頂いているというのに」


「言うな! お前のような無能を指導していたなんて知られたら笑いものになるわ!」


 兄上の左胸で国宝たる聖世の杖ニルヴァーナを模した紋章バッジが黄金色に輝く。国王直々に渡された称号だ。既にベテラン顔負けの上級魔術を穿てるというし、身に纏う品格も魔術師らしくなった。


 もう一緒に母上に諭されていた兄上はいない。遥か雲の上から叱られている気分だった。


「魔術が放てない奴はオットー家の人間ではない!! お前など断じて俺の弟では――」


 俺の弟ではない。そう続くと思っていたが、何故か兄上は言い淀んでいた。


「兄上?」


「……父上が、お前に話があるそうだ」


「父上が?」


◆◇


 父アルデバランの執務室には数年ぶりに入った。そもそも、父上の御姿は家でもなかなか見かけない。王国に三人しかいない最高の魔術師【三大魔】として多忙の日々を送られているからだ。


 そのせいだろうか。仮にも自分の父だというのに、執務室の一番奥で多数の紋章バッジを胸に翳すこの人が今日も遠く、冷たく見えるのは。


 確かに俺も尊敬すべき目標として見ている。父のようになれと何度も兄上に言われてきた。


 ……しかしこの人を心の底から父と思った事は、これまで一度足りとてない。


「貴様に割く時間が惜しい。手短に話すぞ。魔力鑑定を受けろ」


 俺のことを一瞥さえしない払いのけるような声で話すと、父の両隣からローブを纏った男たちが現れた。


「彼らは王宮に所属する鑑定士だ。人間の魔力も診ることができる。私の子供がまさか魔力を宿していないなどとは露とも思っておらんが、念のためという奴だ」


 鑑定士たちはまるで腫れ物に触るような様子で俺に近づいてくる。この家の執事たちと同じ、出来る限り関わりたくないと言わんばかりの眼差しをしていた。


「うっ」


 数人がかりで俺の全身に手を当てると、見た事のない魔法陣を出現させる。俺には解読できない文字列を追う事1分――不本意と言わんばかりに顔を引きつらせると、恐る恐ると言った様子で父上に言うのだった。


「アルデバラン様……その、申し上げにくい事ですが、


 ……………………え?


 俺に、魔力が無い? 


 という事は、才能が無いという事か?

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