第5話 魔力ゼロの末路
なぜ? なんで? どうして?
俺の苗字はオットーの筈なのに。大魔術師アルデバランの子供なのに。あんなに優しい母上がずっと見守ってくれていたのに。厳しくも丁寧に兄上に見てくださったのに。
才能なんて、最初からなかったというのか。
俺がずっと欲していたものは、結局手に入れられなかったというのか。
急にこの世界が俺には重くのしかかる。吸う空気が痛い。
「理由は恐らく……」
「理由などどうでもよい。重要なのはベスティが魔術を撃てないという事実、だ。この事は他言無用だ。破れば貴様らも……」
「め、滅相もない。私たちはこれにて失礼します」
そそくさと鑑定士たちが出ていくと、父がゆっくりと立ち上がる。完全に俺を屋敷に侵入してきたコソ泥程度にしか見ていない。
正直『それでもお前は俺の息子だ』とか『魔術が撃てないなら勉学に励め』とか言って欲しかった。最悪ほうっておいて欲しかった。けれど俺は誰よりも気高き魔術師であろうとするこの男が、そんな親としての心を持ち合わせていない事を知っている。
「私の息子であるならば……オットー家の血が流れているならば!! 魔術を以てこのウォール地方を治め、魔術を以て隣国や魔物の侵略を制し、魔術を以て『到達者』へと邁進しなければならぬ!! 魔術師でなければオットー家に非ず!!」
何もかもを踏み潰しそうな威圧を孕んだ激昂が、俺の心臓を鷲掴みにする。
「魔力を持たぬ者がよくもまあいけしゃあしゃあと私の息子と名乗ってくれたものだ!! オットーの看板に泥を塗ってくれたものだ!!」
「……そんな」
「くそっ!! あの女狐め。魔術師の母胎としては最高と聞いていたのに、よくもこんな失敗作を産んでくれた!!」
「母上のことか……!?」
一瞬だけ絶望を忘れ、気付けば俺は立ち上がっていた。
それだけは聞き逃せなかった。
……やはり政略結婚で、母上は無理矢理この男と結ばされたに過ぎなかった。『最高の魔力をお腹に宿す家系』の母胎だけが目当てで、最初から母上への愛など微塵も無かったのだ。
母上の愛を知る者として許せない。こんな男を目標としていた自分が情けない。
「父上! お言葉ですが母上を馬鹿にしないでください!」
「黙れ!」
直後、突風に浚われ視界が明滅した。
「がっ!?」
柱に衝突し、背中と頭に強い火花が散る。
ここは室内だ。突風が吹く道理などない。だが道理を無理にする奇跡の術――それこそが魔術だ。魔力ゼロの俺が辿りつけなかった領域だ。父上のそんな傲慢を代弁した風魔術だった。
「ぐ、あああああ……!!」
世界中の空気を集約したような風圧は、俺を掴んで離さない。最初の衝突で死にかけている俺を、じわじわと押し潰してくる。
「あの女狐にそれ以外の価値などないわ!! 魔力を宿した苗代!! だというのに口だけは一丁前というのはなぁ!!」
父上の魔術に躊躇いは無い。息子だろうと価値が無ければ殺す。それが魔術師という生き物とでも言うかのように――
「父上。もうここまでにしましょう。かような無能に使っては、折角の魔力が無駄になってしまいます」
「ふん、それもそうだな」
兄上の諫言が入ると、俺をすり潰さんとしていた突風が消滅した。吹き荒れた空気で散らかった執務室の上、俺は倒れることしか出来なかった。
……そのまま死んでも良かったかもしれない。俺に才能は無かった。
努力なんかではどうしようもない現実を思い知ったからだ――まるで前世の醜い老人に戻った気分だ。
「お前は断じて!! 俺の息子ではない!! この家から出ていけ!!」
こうして勘当を言い渡された俺は、それに反応できないくらいにボロボロだった。心身ともに。
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