プライドの意味

 バトリング・オブ・エイダというゲームにおけるPvPのルールは、エイダバトルと大差なかった。

 エイダバトルの方がもっと明確にルールが決まっていたが、それはゲームと現実の自由度の違いによるもの。勝敗の条件もほとんど同じだったが、バトリング・オブ・エイダには一つだけ勝敗の条件が追加されていた。だが、その程度。

 そんな2つの競技だが、戦法が全く違ったのだ。

 バトリング・オブ・エイダの戦法。それは、戦闘モードと偵察モードの切り替えにある。

 いかに偵察モードの時間を長く維持してエネルギーに余裕を持たせ、戦闘モードで敵のエネルギーを削り切るか。もしくは、偵察モード中の相手に攻撃を与えて大ダメージを与えるか。

 バトリング・オブ・エイダでのエイダにはエネルギーゲージのほかにHPがあり、このどちらかが全損すると負け、というルールだった。

 エネルギーゲージは戦闘モード中に攻撃を貰うか、戦闘モードで居ると減っていき、HPは戦闘モード中、偵察モード中のどちらでも攻撃を貰えば減っていくが、戦闘モード中はダメージが殆どカットされる。

 故に、上級者やランカーの間では、僅かな偵察モードへの切り替えが勝利につながっていた。

 互いに攻撃に当たる時は戦闘モードになり、攻撃をする時も戦闘モードになる。戦闘モードで互いに殴り合いながら、隙を見て回復し、それを咎めるために攻撃をする。そんな駆け引きがあった。

 だが、エイダバトルは違う。

 如何に攻撃を当てて如何に早く相手のエネルギーを全損させるか。これだけなのだ。

 八紘からしてみれば、浅い。そうとしか言えない駆け引きだ。

 

「……はぁ、駄目だ。見てても凄いなんて思えねぇ。実戦同様の効果が出る模擬弾はすげーと思うけどさ……」


 授業合間のつかの間の休み時間。

 八紘はスマホでエイダバトルの大会の動画を見た。

 去年のエイダバトル全国大会。その高校生の部の決勝戦だ。

 エイダバトルは各高校の部活やエイダバトルについて教えている塾教室等からチームでランキングに名前を登録し、一定の期間でチームごとに対戦を繰り広げる。その対戦相手は片方のチームが片方のチームに依頼する事により成立する。

 そうして成立した試合で戦闘を行い、規定回数以上戦闘を行った中で最も勝率が高かったチームが全国大会への切符を手にすることができる。

 動画に映っているチームは、互いに勝率は70%台。戦闘回数も100を超えており、ゲームのように手軽に戦闘ができない現実においては十分な戦闘回数を誇っている。

 だが、それでも。

 

「なんだ、八紘。エイダバトルに興味出たのか?」

「昨日あんなことがあったしな。でも、やっぱ駄目だ」


 行けたとしてもは中級者程度。ランカーには程遠い。そうとしか思えなかった。

 偵察モードに切り替えるだけでどれだけ逆転の芽が出ていたか分からない。それぐらいの接戦だった。

 接戦だからこそ、偵察モードは必要なのだ。

 けれど、ケガをするかもしれない。危険行為になるかもしれない。そんな価値観のせいでエイダバトルはただの戦闘モードによる殴り合いになってしまっている。

 こんなの、ジャイアントキリングも起こりやしない。ただ武装の性能と機体の性能、それからパイロットの性能がいいやつが勝つだけだ。

 

「そうか……まぁ、いいんじゃないか? 将来的にはダンジョンに潜るつもりはあるんだろ?」

「あるけど、それだけだな。それに、こういうのを見る限り、ダンジョン探索もすっげーつまんなくなりそう」

「俺からしちゃ、この大会も十分異次元の戦いに見えるんだけどなぁ……」

「ンな事ねぇよ。まず、この場面なんざ攻撃が避けられたのにエネルギーが無いから無理に反撃に出てアドを稼ごうとしている。この場面だってそうだ。こっちなんてカウンターを貰ったからって焦って攻撃をまた仕掛けている。一度下がってエネルギーの回復をしない以上、こんな殴り合いばっかだ」

「うん、分からん!」

「そうか鳥頭」


 直球の罵倒を返した所で次の授業の先生がドアから入ってくる。

 社会人を経験した身としては、こんな1時間に何度も教室間を移動しては自分の仕事もやって勉強も教えて、とご苦労な事だ、なんて思いつつ授業は真面目に受ける。

 こういう高校時代の勉強は案外社会人になっても使う時がある。

 そういう時に欠片でも勉強したことを覚えておけば、将来的に多少は楽ができる。

 もっとも、そんなことが理解できるのは一度社会の荒波に飲まれた人間くらいであり、まだまだ温い環境にいると理解できていない学生たちには到底理解できないことだ。

 そんな事を思考の端で考えながらも授業を受けて。

 気が付けばチャイムが鳴り、昼休みの時間になる。

 

「だぁー疲れた……やっぱ50分も勉強し続けるって拷問だろ、拷問……」

「なぁ、九朗。知ってるか? 本当に拷問(仕事)ってな、50分程度じゃ休ませてくれねぇんだぜ……」

「えっ、何その疲れ果てたおっさんみたいな言葉。とりあえず俺、購買で飯買ってくるけど、八紘は?」

「今日は予め買ってきた。ほれ、駅前のあの弁当屋のやつ」

「うわマジ? あそこいつも売り切れてるのに」

「運が良かったからな。ほら、敗北者はとっととパン買ってこい」

「クソがよぉ……」


 他愛ない男子高校生の会話をして、九朗が購買にパンを買いに行くのを見送る。

 暫くは暇つぶしにエイダバトルの動画でももう一度見てみようか、なんて思いながら携帯を取り出した。



****



 あとがきになります。

 

Q:なんでエイダバトルだけ野球やサッカーと違った大会方式なの?

A:作者の力量不足であり、こっちの方が話的に面白いかなと思ったため。勝率出していった方が強者感出るじゃん?

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