理由を聞いた
そうして携帯で動画を見始めて数分か、数十秒か。ふと八紘は教室のドアの方を見た。なんとなく視線を感じたからだ。
そこにいたのは。
「あれ? 七海か?」
昨日会ったばかりの七海だった。
片手には小さな弁当箱が見える。
このクラスに友達ができたのだろうか、なんて思いながら視線を送っていると、七海もその視線に気づいたのか、八紘の方を見て、小さく笑顔を浮かべると教師の中に入ってきた。
そしてそのまま九朗の席に座る。
「よいしょっと」
「あれ? このクラスに用事があったんじゃないのか?」
「ううん。やっくんとお昼食べれたらいいなーって思って覗いてただけ」
「あらま。それじゃあ追い返せないな。一緒に食うか」
「うん」
あらやだこの幼馴染可愛い。
内心ではそんなことを思いながらも表面上は冷静に。
取り出しておいた弁当をそのまま広げると、八紘の弁当は男子学生が好みそうな真っ茶色+白米。七海は可愛らしいザ・女の子と言えそうな弁当の中身が見れた。
うーん、この女子力の差。
「あれ? やっくん、おばさんにお弁当作ってもらってないの?」
「言ってなかったっけ。お袋も親父も海外に単身赴任。今、あの家には俺一人なんだよ」
「えっ、そうだったの? 言ってくれたらご飯作りにとか行ったのに」
「いやいや、流石に七海の家からウチまでは遠いだろ? 迷惑だからさ」
「そんなことないのに……」
「は? 可愛すぎだろ惚れちまうわちくしょうめ」
「へ?」
「何でもない。それよりも腹減ったからとっとと食おうぜ」
「食おうぜじゃねぇんだよ抜け駆け野郎がよ」
一瞬本音が漏れたが、努めて冷静にソレを無かったことにして弁当に箸を付けようとしたが、その直前に横からぶん殴られる。
幼馴染との逢引きを邪魔するとは何者だ。
邪知暴虐の愚か者を成敗してやろうと視線を向ければ、そこにはパンを抱えた九朗が居た。
あっ忘れてた。
「お前俺の事忘れてただろ。あと、えっと……楠さんだっけ。そこ俺の席な」
「あっ、そうだったんだ。ごめんね、今退くから」
「いや、別に今日はいいよ。もう座ってるし、言わなかった八紘が悪い」
「お前なぁ。こういう時は何も言わずにそっと屋上で一人寂しくパンをかじるのがお約束だろ?」
「レムリアインパクト俺式を叩き込まれたくなきゃ黙ってろリア充が」
「うるせぇ俺にだってハイパーボリアゼロドライブ俺式がある。やってみろよ」
なんて言いながらも2人は親友。不敵な笑い声を上げながらもこの話は一旦横に置いておいた。
「で、八紘。お前、楠さんとはどんな関係よ。昨日聞きそびれちまったから今聞いとく」
「小学校の時からの幼馴染だよ」
「ふーん。で、それが高校で奇跡の再開って事か?」
「偶々選んだ高校が同じで、一昨日それが分かったんだよね」
「そうそう。あと、月イチくらいで普通に一緒に遊びに出かけたりはしてた」
「は? …………待てよ、お前そういえば中学の時から月に一回くらいは付き合いが悪い日があったよな?」
「バレちまっちゃぁ仕方ない。お前は消さねばならなくなった」
「それはこっちのセリフだ。我ら非リアの誓いを忘れたか」
「そんなもの俺は誓っちゃぁいない。悔しけりゃガールフレンドの1人や2人見つけてくるんだな非リアぁ?」
「殺してぇ……!!」
無駄に息が合っている二人の漫才染みた会話に七海は置いてきぼりだ。
だが、置いてきぼりではあっても2人が仲良くじゃれているのは理解しているのか、苦笑している。
とはいえこれ以上置いてきぼりにするのは流石によろしくない。
一旦ここは停戦の儀として八紘は弁当の唐揚げを。九朗は買ってきた焼きそばパンの焼きそば部分を互いに交換し、話を切り替える。
「で、七海。お前昨日、燕谷と一緒にいたよな? 燕谷とは飯食わないのか?」
と、言いながら八紘は焼きそばで白米を食べる。
「確かに。教室の外にもいなかったけど」
と、言いながら九朗は掌の上に落とされた唐揚げを口に運び、油でベッタベタになった手を八紘のブレザーの裾で拭った。直後、八紘に思いっきりつま先を踏まれて悶絶した。
「ツッコミどころ」
七海がつぶやいた。
数秒の中でアクションがあまりにも多すぎる。
「え、えっとぉ……燕谷さんは部室でエイダを弄ってるから、そっちでご飯食べるって」
「わざわざ昼休みに? 勤勉だねぇ」
「うん、行動力は本当に凄いと思う。けど、結果がね……」
「あー……まぁ、うん。昨日の様子を見りゃ分かるが、良くはないんだろ?」
「燕谷さんにも事情があるから……なるべく早く強くなりたいんだって」
ふーん、と生返事を返して七海に続きを話すように促す。
しかし、七海は首を横に振った。
「これ以上はわたしからは言えないかな……ちょっとディープな問題だから」
「ディープ、ねぇ」
想像はできないが、まぁ、問題の重さなんて個々人それぞれだ。
こちらから変に根掘り葉掘り聞くようなものでもない。
だが。
「弾みとは言え俺の話題を出したんだ。エイダ関連の、本人にとっちゃ一大事が起きてるんだな? で、七海はそれを聞いた、と」
「……うん。もしもやっくんの力が借りれたら、って口に出ちゃって」
やっぱりそういう事か。八紘は頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます