6・暴露の日

 私は10年以上、同じ夢を見続けていた。


 男の人が街を守る夢。


 武人兄ちゃんとの初対面の時から、その夢が加速していった。


 同じ夢と言ったけど、毎日見ている夢は少し、変化している所もある。


 でも、基本的に『1人の男の人』に焦点を当てられている。


 その人の人生を振り返るような夢だ。


 男の人は捨て子で。


 男の人は怖い人に拾われて。


 男の人は怖い人の言う事聞いて、他の生命を潰して。


 男の人は優しい女の人に出会って。


 女の人に救われ、男の人は平穏に暮らしていて。


 男の人の訪問地が戦場と化して。


 女の人が自分の命を代償にしてまで、男の人を生存させて……。


 振り返ると、夢の中の男の人って壮絶な人生を歩んでるんだなぁ、と思った。


 キリのいい所で目が覚めて、朝起きる。


 夢の中の話をするんだけど……家族にしかしなかった。


 学校ではいじめのトラウマがあって、できない。


 学校では大人しい真面目な子供として、振る舞っていた。


 それが[ラストコア]に来てから、医療のチェックを受けるようになり、私は夢の中の話を共有してくれる人が増えた。


 元々日記は書いていたけど、チェックを受けてから細かく書くようになった。


 私の事を理解してくれる人が増えたのは嬉しい。


 でも男の人は過酷な人生を歩んでて、私は心配だった。


   ☆☆☆


 ニシアの襲撃があった日の翌日。実際の時間は当日だが。


[ラストコア]本部の統制制御室では、上層部の緊急会議が開かれた。


 集まったのは宗太郎、ジェームズ、アレックス、武人と……傘下の各責任者数名だった。


 白井3兄妹とリュート一行はこの部屋にはいなかった。


「今回の重要事項をおさらいする。まず重要な[宇宙犯罪者]の撲滅が終わるまでは屋外のレジャー活動は禁止にする。外出時は私の許可をとるように」


 宗太郎はスラスラと述べた。


 傘下の責任者達は一斉にハイ! と大きく返事した。


「あともう1つ……。黒川、いいか?」


 宗太郎は武人を指名した。


「ええよ? まあ、いつもの内容やけどな」


 武人が前に立った。


「2点程言うわ。1つは《宇宙進出》を目指したい」


 周りがあー、と頷いていた。頭を掻く人もいた。


「難しい課題やと思う。でも今は強力な助っ人がおる。フレアランス家の王子一行や」

「そうか! 彼らは土星圏の出身!」


 責任者達の中の1人が言った。


「詳しい内容は王子には話している。大型宇宙船【フレアランス5】からの情報待ちだ。他の土星圏の星々からの応援を要請しているようだ」


 アレックスが説明した。これで周囲の人間達は納得した。


 武人はもう1つの事項を話した。


 それは動揺を誘う内容だ。


「申し訳ないんやけど、子供達の試用期間を延ばそうと思うんや。あと1月足らずで切れるんやけど、代わりに候補がおれへん。今は続投で行こうか思っとる」


 1人の責任者が不安な表情で手を挙げた。


「学校通っているのでしょう? そちらに専念させた方が……」

「終わってからでもいいやろ」


 武人は話を続けた。


「軍に頼んでも何もせえへんし、アイツらは信用せん。それにニシアの件でここも特定されとるようなもんや。とっとと宇宙へ上がってクーランを倒さんと意味がないんや」

「クーラン……?」

「[宇宙犯罪者]を束ねとる悪人、という認識でかめへん。追々わかってくる」


 責任者達は武人の言い分で、「クーラン」という人物をなんとなく解釈した。


 しかし、白井3兄妹の続投には納得いかなかった。


 他に支援や救援がない以上、選択肢はなかったので、認めざるを得なかった。


「あの子らは俺がちゃんと責任持つ。今回のは俺の失態や。生身の奴を仕留めとけば防げた」


 宗太郎が手を挙げた。


「続投だが……再び3か月の縛りになるがいいか?」

「かめへん。ジェームズは探してくれとるけど……見つからんやろ?」

「ちとハードルが高くてな」

「決まりや。俺からは以上や。宗太郎、後は頼むわ」


 武人は宗太郎に続きを振った。


「他に意見や質問はないか?」


 手を挙げる者はいなかった。


「よし、これで解散だ。各自持ち場へ戻ってくれ」


 宗太郎の一言で、多くの責任者達は統制制御室を出た。


 武人とアレックスも彼らに続けて出ていった。


 残ったのは宗太郎とジェームズのみだった。


「黒川に知らせなくていいのか?」


 宗太郎から話し始めた。


「俺が兵を集めてる事か?」


 ジェームズは宗太郎の意図を理解した。


「今後、クーランの指揮系統以外でも[宇宙犯罪者]は出るだろう……」

「ハードル高いのは事実さ。興味持つ奴はいるが、あっちの上層部が固くてなあ……」

「承認問題か」


 宗太郎とジェームズは兵集めに悩んでいた。


   ★★★


「ニシアも敗れて……俺が雇っているHRはあと3人か」

「ざっくりとした数で換算すると、だろう」


 火星圏タレス、[レッド研究所]。


 薄暗い部屋の中で、クーランはニヤニヤと笑っていた。


 答えに応じたマルロは、クーランの表情があまり心地よくなかった。


 見下しているようで。


「そんな部下の数まで管理できねぇだろ? 直系の部下じゃあるまいし」

「直系の部下も管理できない《オス》がよく言うよ」


 マルロはクーランのずさんな部分に呆れていた。


 すぐに話は別の話題へと切り替えた。


「で? 場所を特定したんだって?」


 クーランの気味悪い笑いは止まらない。


「もう手は回している。ニシアの小魚の解析データで場所は突き止めた」

「よく海へ……ってお前さんも水に強いんだったな」

「[ホルプレス]と一緒にするな。我が[ヒーストン]部隊は頭脳明晰でなければ一員になれないんだからな」


 マルロは正方形のディスクを部屋のベッドへ放り投げた。


「自慢の息子、取り戻したいんだろ? 必要分だけまとめたからな」

「子供みたいに投げるなよ……お前さんは見た目に反して、歳食ってるんだからな」

「余計なお世話だ。実力を示せば、見た目も歳も関係ない」


 クーランは面倒くさい仕草でディスクを拾った。


 体を動かすのが嫌いなのだ。


「ま、貴重な資源は頂いとくわ。ありがとよ」

「貴重源だと思ってないだろう」

「失礼だねぇ」


 クーランはマルロが素っ気ない態度を取る事は知っている。


 だから強い指摘はしないが、感想だけはつい述べてしまうのだった。


「お前さん達が動けば、俺は楽に過ごせるからな。頑張れよ?」

「頑張れ? すぐに終わる。情報が入り込んできたからな」

「やっぱ用意周到だお前さん」

「俺の部下達が優秀なだけだ」


 そう言ってマルロは部屋を後にした。


 ロッドの底をツンツン置きながら歩く姿は、クーランには見慣れた行為で。


「アイツで無理なら、俺も出るしかないな」

 と呟いた。


   ★★★


「マルロ・ヒーストン!」


 マルロは自分を呼んだ人物を探した。


 金髪の、高貴な《オス》がズンズン歩いてきた。


「貴様が出るとはどう言うつもりだ!」


 マルロは正直うるさいと感じていたが、この人物が誰なのかは知っていた。


「金星圏メイスのビウス・エクステラ……聞いたのか?」

「私が直に問いただした! 何故私ではなく貴様が……!」

「・・・」

「貴様は偵察だけをコソコソやれば良い! 前線は我々が出る!」


 身勝手な言い分だな、とマルロは思った。


 が、返事は冷静に返した。


「言っておくが、貴様はあの男に何かをもたらしたのか?」

「もてなし? それは結果だろう!」

「ではお前は何を持っている? 雄叫びのガキは偶然だが、ヒスロは並外れた肉体。ニシアは変幻自在の魔術師。俺は情報網に長けた指揮を兼ね備えている。土星圏のトンケも部下達の手腕がいい方だ。だがお前はなんだ? ただ突っ込むだけの能無しだろう」

「先手必勝には自信はある!」


 マルロは自分に向けて手を仰いだ。


 ビウスの考えを否定する意味だ。


「それは対策を練った上での考えだ。威力の高い敵が潜んでいるとか、そう言う情報がない限りは戦力温存の為に、最低限の戦略で攻めるべきだ」


 マルロはビウスに背を向けた。


「地球産のロボのパイロットも特定した」

「何……?」

「子供が乗っているんだ。しかも学は少しあるらしい。学校が存在しているからな」


 マルロはゆっくり歩き始めた。


「何か努力して奴に獲物を示さない以上、お前には振り向かないと思え」


 この発言時に、マルロは後ろをチラッと見ていた。


 ビウスの表情は険しかった。


   ☆☆☆


[ラストコア]スタッフ達の、外での宴会はしばらく中止になった。


 でも学校だけは行かないといけない。


 退屈だなぁ。[ラストコア]での勉強で単位認定でもしてくれたらいいのに。


 私は中学生だから自動的に数年で卒業するけど。


 朝は兄達と別れた後は、私は口を開かなかった。


 口利かないといけない理由がないから、静かに過ごそうと考えていた。


 すると私の席の前に、1人の男の子がやって来た。


 白い髪が特徴の、それ以外はごく普通の男の子だった。


「はじめまして。お名前聞かせてもいいかな?」


 もしかして、転校生? でもそれなら先に自己紹介の場を設けるはず……。


 男の子の近くにいた女子のグループの1人が口を挟んだ。


「あーその子、白井さんがいない日に来たから」


 私がいない日……。


[宇宙犯罪者]以外のHRの襲撃は平日が多いからなあ。


「でも白井さん、あんまり喋らないよ?」

「私達と話しようよ。丸井君の事、私達もっと知りたい」


 随分と心外だな、とは言っても事実だから私は彼女達を無視していた。


 でも丸井君は、彼女達の誘いを断った。


「白井さんが気になっただけです。ごめんなさい」

「あ、そうだったんだ! ごめんね?」

「じゃあまた今度、お話しましょう」


 彼女達は後ろを向いた。もうすぐ始業時間だし。


「あの、話って……」

「大した事はないです。君に興味があるってだけでは、理由になりませんか?」


 興味……? 私、何か変な事したのかな。


 夢の話は学校ではしていないよ?


「話すだけなら、いいよ」

「ありがとう。チャイムが鳴るまで日常会話でもしよう?」


 さっきの子達と同等の会話を?


「私、流行り物はよくわからないわ」

「じゃあ、昨日何したかとか。今朝何食べたとかでもいいよ?」

「毎朝パンだけどなぁ」


[ラストコア]に行く事は普通の人には内緒にしてくれと注意受けてるし。


 もういいや、食べ物紹介でもしよう。


 私は今まで食べて美味しかったパンを紹介した。


   ☆☆☆


『隊長、こちらが最新の、地球産ロボのパイロットのデータです』

「ご苦労」

『かなり踏み込んだ情報がありますけど、大丈夫でしょうか?』

「構わんさ。HRだろうがそうじゃなかろうが、中に生物が潜む。生物の核心をつくには、些細な情報も必要だ」

『やはり隊長はすごいです』


 銀色の光沢を持つ大型宇宙船[スイルシルバー]。


 天王星圏スイルのHRで[宇宙犯罪者]のマルロ・ヒーストンが乗っている船だ。


 マルロは今の通信を、彼にあてがわれた個室で聞いていた。


 下手に情報を拡散するのを防ぐ目的でだ。


 部下の[ヒーストン]の隊員達に流すのは、必要な情報のみ。


「パイロットは3人。子供で学生とはな……舐められたものだ」

『ニシアは奴が倒しましたが……』

「小魚の解析データに地球産のマシンらしき物があった。全ステージで出撃しているのは間違いない」


 マルロは小魚の残骸の破片を摘みながら通信相手に話した。


「猿とヒスロ戦では大活躍だった」

『ヒスロ・インフィ戦には同意しますが……あの猿は……』

「やられそうな距離まで近づき、手まで伸ばした。根性ある奴だ。その根性をへし折ってやりたい。絶望を見せたい。その隙に我々が勝利をする」


 そうすれば我々の天下だ、ハハハ。とマルロは笑った。


 通信相手以外に声を聞いていなかった。


   ☆☆☆


 誰かとお喋りするのが、こんなに楽しいとは思わなかった。


 丸井君との初対面の日に感じた事だった。


 下校の時も[ラストコア]に行った時も、この時はかなりウキウキで浮かれていたんだろう、と思った。


 あまり身が入らず、やる事だけやってすぐ帰宅。最近それが多くなった。


 丸井君は聞き上手だよ。どんなに些細な内容でも、共感を持ってくれる。


 2人の兄達も、未衣子に久々の友達ができた!と喜んでくれるし。


 嫌いな学校に楽しみができて、丸井君には感謝しかなかった。


 こんな充実した毎日が、続くといいなあ。


 私の頭はそんな願いでいっぱいだったのに。


 HRの襲撃があった。


 この日も学校で、丸井君と仲良くしながら勉強していた。


 襲撃は昼休みの最中。


 丸井君に先生への連絡をお願いしてから、現場に向かう予定だった。


 丸井君の周りを、白い光の輪が、台風のように現れた。


 吹き飛ばされないよう、私は必死に踏ん張った。


 輪は丸井君を包むように太くなっていき、一定時間経つと、輪は引き裂けてなくなった。


 輪の中にいたのは……丸井君ではなく、丸井君に似た、ロッドを持った和装の男の子だった。


「丸井……君?」


 私は仰天した。丸井君は魔法使いらしい。 

 もしかして共に戦うの? と期待していたのに。


 丸井君、だった魔法使いはロッドを一振りすると、光の弾を生み出した。


 光の弾は私に向かって、素早く迫ってきた。


 幸い、制服に切れ目がついただけで私は無事だった。


 背後のコンクリートの壁に……ひび割れが発生した。


「準備は整った。後は眠ってもらう」


 魔法使いの攻撃は終わらない。


 光の弾がまた出てきて、弾で私を傷つけようとする、筈だった。


「未衣子!」


 勇希兄ちゃんの声だ。


 おかしい……サイレンも鳴り出しているのに、どうして?


 勇希兄ちゃんが私の手を引っ張ったおかげで、二度目の攻撃をうまく回避した。


 結果、私達は屋上入口付近でこけてしまった。


「立てるか未衣子」

「大丈夫だけど……」

「すぐに転送するぞ! ジェット機を兄貴が誘導してんだ!」

「わかった!」


 勇希兄ちゃんが何で来たのかわからない。


 でも今は緊急事態。


 ブラウス隠してたペンダントを開けて、自分の身体を転送した。


 勇希兄ちゃんは腕時計型の《転送装置》を使った。


「しまった……!」

『戻れ。お前の任務は成功だ』

「あとは追わなくてもよろしいでしょうか?」

『愛嬌湾までわざわざ出向いたんだ。あちらもすぐに迎撃体制を取るだろう。人手が欲しい』

「わかりました。後は頼みます、隊長」

『必ず成功できる。心配するな』


   ☆☆☆


 愛嬌湾上空に、HRの軍団がやって来た。


 各々が魔法使いのロッドを右手に持っている。


 過去に、エスト戦に挑まれた経験のある武人は、この軍団を率いる者が誰か特定できた。


『マルロ……ヒーストン!』


 武人は既にHR形態【ブラッドガンナー】へと変身していた。


 武人は左右を見渡した。マルロを探すためだ。


 しかし、全て似たようなロボ形態の機体ばかりであった。


 数が多すぎるのもあってか、隈なく探す のが難しかった。


『またコソコソ隠れとるんかいな! 出て来いや! 出ないとその目の前のデカい宇宙船を撃ち抜くで!』


 武人は片手持ちの大砲を出した。



 撃墜予告を受けた宇宙船は静かだった。


『隊長、奴は隊長を……』

「奴の相手はしない。船本体でも武装はいくらでもある」


 汎用ミサイルを放て、とマルロは部下に指示を下した。


 ミサイルは様々な方向に散らばって飛んでいた。 マルロの味方は避けた。


 武人は……被害縮小の為撃ち落とした。


 ミサイルの数も多いので、あらかじめ[ラストコア]本部から射出されたAIもミサイル迎撃に参加した。


【ブラッドガンナー】は落ちなかったが、AIの落ちる様は確認できた。


 落ちるAIとすれ違いで【ホーンフレア5th】も飛んできた。


『黒川!』

『王子遅かったやん? 何かあったん?』

『すみません! 改修作業をしていて……』

『まあ、行き来せなあかんもんな……』


   ★★★


『隊長、今度は……』

「あの三角槍……土星圏ニコンの物だな」

『流石にまずいのでは……』

「土星人のロボはHRではない。ラルクを焦らせろ。俺は……別の所へ行く」


 マルロは指定席から立ち上がった。


 マルロは個室を出た後、通路奥のエレベーターに入った。


 この宇宙船は、エレベーター内にモニターがあった。


 彼が見たのは、3機のカラフルなジェット機が真正面に向かう映像だ。


 エレベーターが止まると、マルロはすぐに目の前の小型輸送機へ乗り移った。


「地球産ロボはどこに誘導した?」

『愛嬌市北部です』

「ならば北部へ向かう。それまで時間稼ぎしてくれ。俺は……【パスティーユ】を潰す」


 小型輸送機の前方、宇宙船の後部ハッチが開かれた。


 そこは、武人達からは死角の場所にあたり、彼らがマルロの行動を察知できないように工夫されていた。


(レーダーでバレるだろうが)


 マルロは敵に察知される可能性があると疑っていた。


 だがその対策をとるように、部下のHRを大量に配置したのだ。


 一言で言えば総力戦。後悔のない戦闘準備を進めてきた。


(電波障害も気づくだろうが、解除は不可能だ。よほどの実力者でない限り、電波に逆らえる者などいない)


 小型輸送機は発進した。


 その時に白い煙を排出した。


「地球産ロボへの支援がないよう、戦地の中心から離れて行動を取る。いいな?」

「わかりました」


 マルロを乗せた小型輸送機は、煙を出してから加速をつけた。


【パスティーユ】のジェット機は、直交で交わるように仕組まれていた。


   ☆☆☆


 ジェット機に乗って愛嬌湾に向かう途中、私達は何かを捉えていた。


 敵を表す、地図上の赤い光の点。


 赤い点の多くは、武人兄ちゃんと王子達の周りを囲んでいた。


 でも、地図をずっと眺めてると、奇妙な敵の行動も見つけた。


「中心地から、愛嬌湾から離れていく敵が1つ……?」

『未衣子? 何か言ったのか?』


 勇希兄ちゃんは私の声が聞こえていた。


「兄ちゃん達、地図をよく見て?」


 私は奇妙な敵の動きがあると兄達に教えようとしたが。


『ああ、俺も確認したよ? 1つだけ中心地から離れている点がある』


 和希兄ちゃんは既に発見していたようだ。


 なら話は早い。


「武人兄ちゃんや操縦士さん達に報告しよう? あの敵を野放しにするのはいけないわ」

『わかった、俺から……?』


 和希兄ちゃんが言うのをやめた。


 同時に、通信時によく聞くノイズが流れてきた。


 おかしいと気づいたのは、みんな同じだった。


『何だよ! これ! 通信が開かねえ!』

『落ち着け勇希! ……ノイズが酷くて反応しない……?』


 和希兄ちゃんが勇希兄ちゃんを抑えていたけど、通信障害には驚いた。


「他の回線も探るね!」

『他の回線も……駄目だ、これは……』

『愛嬌湾行こうぜ! 武人兄ちゃん達いるんだろ!』


 味方と合流……安全策を取るならこの案も考慮できるだろう。


 でも、私はここで言い出してしまった。


「追いかけよう。あの1点を」


 もちろん、兄達は戸惑った。


『何言ってんだよ! 俺達ずっと勝手な行動ばかり起こして……』

『地図が生きているのもおかしいが……確かにこの1点を見逃すと大変だろう。方向的に他県の市街地に進出するようだ』


 和希兄ちゃんが冷静に分析していた。


「だったら、他県に被害が及ぶ前に行こうよ!」

『でも避難は終わってるだろ?』

『被害ゼロにするには越した事はないだろう……ぶっちゃけ、武人さんと合流しても通信が復旧できるかは見通しがが立たない』

『そうだよな』


 勇希兄ちゃんはうつむいた。


『誘導する手もある。攻撃をかわしながら、最終的に合流コースへと繋げるルートが』

『そっか! おびき寄せるんだな!』

「まとめて倒せる!」


 和希兄ちゃんの奇策に、私と勇希兄ちゃんは乗った。


 結局、私達は他県へ向かう1体の敵を追いかけていった。


 最悪な事態を招くとは知らずに……。


   ☆☆☆


【ブラッドガンナー】と【ホーンフレア5th】は、マルロが率いる大群のHR[ヒーストン]を次々と落としていった。


 HR能力持ちとは言えど、歴戦を潜り抜けた武人と鍛え抜いたリュート達にとっては、恐る敵ではなかった。


 ところが2体共に、通信が入る。[ラストコア]の操縦士だ。


『黒川さん! 王子! サレンさん!』

『どうしたんや! 攻撃が激しい時に!』


[ラストコア]側の2体のロボは、周りの大勢の敵に苦戦していた。


 射出されたAIはあくまでも援護目的で全面的に当てにはできない。


 戦力比は[ラストコア]側が不利だった。


 だが連絡を聞き逃すわけにはいかない。


『子供達と連絡取れますか!』

『何!』

『確認するわ! ……何これ、通信障害?』

『何やて!』

『黒川さん達やリュートには繋がるのに、子供達だけどうして……!』

『妨害工作しよったな、アイツ』


 武人には張本人が誰なのか、見当がついていた。


『計画立てるのは上手いなホンマ』


 武人はリュートに聞いた。


『王子、サレンちゃん? ほとんど単騎合戦になるけど、捌けるか?』

『貴様、まさか……』

『大ボスを探そうと思うんや』

『ですが、どうやって……』


 操縦士が方法を問いただそうとした時。


 彼は輸送機のモニターの地図に目を落とした。


『これは!』

『何か発見したか?』


 武人が操縦士に尋ねた。


 すると、サレンも【ウインドアーチ】のモニターで確認した。


『1体だけ他県へ向かってるものがあるわ! それを……味方機が追いかけているよ!』

『何?』

『味方機は、子供達やな……サレンちゃん、他県に行ってるんやな?』

『え? 黒川さん!』


 サレンが動揺した。武人がこの場から抜ける恐れがあるとみたからだ。


 未だに[ヒーストン]の大軍の数はあまり減っていない。


 真正面の大型宇宙船以外にも5隻程、宇宙船が飛んでいる。


 愛嬌湾だけで被害が収まるとは思えない状況下だ。


 そんな中で武人がマルロらしき敵を追いかけるのだ。


『アレックスには大型AIを出してもらう。中心地はそれで凌ぐ』

『俺達は……』

『気が変わったわ。リュート達は俺に着いてくるんや。飛べるならスピードは持つやろ?』

『性能は上げましたから』

『大型AI……自分の方で許可を貰います』

『頼んだで』


【ブラッドガンナー】が北へダッシュし始めた。


【ホーンフレア5th】も、武人のあとを追った。


 周囲のHRを一瞬のスピードで爆発させた。


 道はまっすぐきれいに開かれた。


 2体共に、速度はMAX状態。


 時々敵の攻撃をくらったとしても、ダメージは軽かった。速くて命中できない。


[ヒーストン]の大軍は手を出せなかった。


   ☆☆☆


 中心地から離れている敵を追いかけると、下はもう他県を越えて日本海だった。


 たった1つ離れた赤い点の正体は、小型の輸送機だった。


 映像でも確認できるのに、赤い点は動くから距離は開いたまま。


 形はロケットのシャトルみたいだし、このまま宇宙へ逃げるつもりかな? と楽観視していたら、小型輸送機から反応が。


 地図の赤い光の点も1つ増えた。


 敵の増援は素早かった。このままぶつかるんじゃあ……と思うくらいには。


 でも合体した後の【パスティーユ・スカイ】とは数百メートル程の位置で止まった。


 敵のロボ……HRだろうけど。和と魔術師を彷彿させる容姿だった。


【ブラッドガンナー】よりは等身が1つ分低くみえるけど、小さいHRかな?


 白だけど光沢があって、見る人によれば銀色と判断できる眩しい機体色。


 ロボのボディの上に羽織る袴のようなコートは白だけど。


 あとは……【パスティーユ・フラワー】みたいにロボと同じ高さのロッドを右手に持っていた。


 ロッドの先は【フラワー】につけてある花のくす玉とは違って、立方体? のような形をしていた。


 白っぽくて眩しいし、距離が離れているのではっきりわからない。


『地球産ロボ、【パスティーユ】』

『え?』 『何?』


 敵のロボが私達の乗るロボの名称を知っている? 教えたつもりないのに。


『スピード型、攻撃特化型、広範囲戦略型の3パターンにチェンジできる多機能ロボ……』

『性能まで……!』

『これは序の口だよ』「!」


 多分、私達が驚いているのを見抜いているよ、この人。


『まあそれは後だ。広範囲戦略型のパターン、【フラワー】にチェンジしてもらえないかな?』


 チェンジを促してきた?


「どういう事……?」

『俺は自分と同じ能力の敵との差を開けたくなくてな。要は敵味方平等なハンデを設けたい』


 もしかしたら、この人は話し合ったら、わかり合えるかも。


「和希兄ちゃん、勇希兄ちゃん。私に任せて」

『未衣子、大丈夫か?』

「大丈夫だよ」

『相手の要求を飲まなくてもいいぜ! アイツは……』

「物分かりはすごくいいみたいだよ」

『むしろ危険性は高い気がするんだが……』

『チェンジをしないのならば、俺は撤退するぞ? どうする? 敵を逃すと大変なのは君達だろう?』


 会話をミュートにした方がいいと思える程の地獄耳だ、この人。


 この人の言う通りならば、私達はHR、誇張すると[宇宙犯罪者]なる問題児を逃してしまう恐れがある。


 そうなれば、地球が破壊されるかもだし、宇宙の星々も砕く残酷な結末が待っているだろう。


 そうは、させない。


「わかりました。すぐにやろう。兄ちゃん達」

『え』『わ、わかった』


 形態チェンジには、2段階の操作がある。


 コックピット右側の3色のボタンと手前に引くレバー。


 最初のオート操作の時は、この部分が動いているのを2、3回程見た。


 《熱融解》によってロボを変形させるので、分離して合体する必要はあまりない。


 ジェット機に戻ったりする時ぐらい。


 スイッチとレバーは3機全て、オンにしないといけない。


 モニター上でオンにしているかわかるので、深刻には考えていない。


 3機全てオンの状態になった。


【パスティーユ・スカイ】の全身が光る。


 形がわからない程白く発光して、数秒で【フラワー】に変わる。


 この操作は当然慣れていた。


 慣れていた、のに。


 以前の水中戦と、同じ轍を踏む羽目になるなんて、想像できなかった。


 チェンジなんて数秒で終わるから、攻撃するタイミングなんて一瞬でしかない。


 どうして、どうして稲妻が【パスティーユ】を縛ってくるの!


「きゃあああ!」

『罠だったか!』

『そうだろ!』


 私は悲鳴をあげた。今度もまた、機械がショートするのだろう。


 今や日本海上空。雲と同じ高さの位置で飛んでいる。


 雲? 私は意識を変えて、モニターをチラッと見た。


 すぐに後ろにもたれていた姿勢を戻した。


 自然の雲から、白い稲妻が【パスティーユ】に流れていたからだ。


 これを切断すれば、縛りの罠からは解放される。


 勇希兄ちゃんの空手の型みたいに引きちぎろうか?


 コックピット内がチカチカする中、私はすぐにロボを動かすレバーを握った。


『ふん。敵の指示に素直に従うとは、心が濁ってない証拠か』


 敵のロボの声だった。


『こんな甘い奴だとな』


 この人、私達を馬鹿にしてるの?


 ずっと舐められてばかりは嫌だ。


 私は左右のレバーをしっかり握った。


「和希兄ちゃん、勇希兄ちゃん! 踏ん張るよ!手伝って!」


 兄達にもレバー引いてもらうよう頼んだ。


 でもレバーが、固かった。電撃が強すぎたんだ。


 ひょっとしたら、壊れるかも。


   ★★★


『未衣子!』


 男の人の声がした。兄達から発した声ではなか った。


【パスティーユ】に突進するように、猛スピードで迫るロボがいた。


 あの黒いロボは見間違えるはずがない。


【ブラッドガンナー】。武人兄ちゃんが駆けつけてきた!


 兄ちゃんが退かすために、私達に体当たりをしてきた。


 体当たりで衝撃が走った。


 だけど、白い光が消え、【フラワー】へのチェンジに成功した。


 その引き換えに……【ブラッドガンナー】が電流を浴びてしまった。


『ぐあああああ!』

「兄ちゃん!」


 武人兄ちゃんは悲鳴をあげた。


 彼は人間みたいな姿以外、ロボから変身できない構造である。


 このままじゃあ、武人兄ちゃんがやられてしまう。


 何とか、叫び声が聞こえているうちに電撃を止めなきゃ……!


 そうだ、雲だ! 雲を消してみるしかない!


【フラワー】はロッドを上にあげて、薄桃の光の球を出した。


 前に振ると、光の球は分身して、【フラワー】を囲むように陣形をとった。


「行け!」


【フラワー】が3回転すると、光の球は八方に散っていった。


 雲に命中するのは容易い事だった。


 雲は弾けて消えたけど、電流は止まらない。


 武人兄ちゃんは未だ、電流に苦しんでいる。他に方法は……。


 考えようとした時、藍色の槍が雲に刺さ った。


 槍に電気が走り、避雷針代わりになった。


【ブラッドガンナー】が電流の縛りから解放された。


 力が抜けているのか、兄ちゃんが下に落ちる!


 私達が武人兄ちゃんを支えにいく……事はなかった。


 槍を投げた張本人、【ホーンフレア5th】が急いでキャッチした。


『まっすぐに飛び込んで……貴様らしくない! 何を考えている!』


 王子の叱責だった。


『責任取る、言うたからな……散々酷い目……合わせとる……』


 兄ちゃんは途切れ途切れに言った。


【ブラッドガンナー】は黒いロボだけど、黒い煙と多数の傷跡でボロボロなのは一目瞭然だった。


 武人兄ちゃんが、危ない! 私達は危険を感じていた。


 危険性を上乗せするかの如く、敵の白いロボがお喋りを始めた。


『お前達。そいつを庇う必要はないぞ。秘密を知れば尚更、やる気を削ぐさ』

「どう言う事?」

『戻るぞ君達! 愛嬌湾が荒れているんだ!』


 王子の叫び声がした。でもそんな気になれなかった。


『【ブラッドガンナー】の正体はラルク・トゥエラー。お前達が敵視している、[宇宙犯罪者]の1人だ。しかも、11の星を滅ぼした、超極悪人なんだよ』

『ラルク……?』

『[宇宙犯罪者]……だって?』


 兄達は敵のロボの説明に驚いた。私だって同じように驚いた。


『過去の話だ! 此奴の言葉に耳を貸すんじゃない!』

『外野は黙ってろ!』


 敵のロボはロッドを振るい、白く光る立方体を【ホーンフレア5th】にぶつけた。


『うおっ!』


 立方体は命中し、【ホーンフレア5th】は後ろに下がった。


『あの男はな、いい兄貴ぶりを装い、お前達を戦場に導く卑劣な罪人だ。学びの退屈さにつけ込んだ策略家だよ。平和を願う癖に、侵入者を徹底的に叩く矛盾。地球さえ良ければ、それでいいと思う自己中だよ』


 真っ白な電撃の光が、私達に襲いかかってきた。


 敵のロボの話の途中で。回避はしたけど。


『この星の学舎は素晴らしいぞ。優劣なしに教養や知識を学べるんだ。お前達はそれを放棄しようとしている。3人、学舎に潜入させたからな』

「まさか丸井君は……!」


 私は咄嗟に声が出た。


『《メス》……そうか。君が一番親しくしてくれたんだってね。周りに友達がいないから。どうだ? 僅かな期間のじゃれ合いは楽しかっただろう?』


 敵のロボの攻撃は止まらない。


 ロッドを振るだけで定位置に固定したままなのに。


 何度も繰り出されると、1発は攻撃を受けてしまった。


「ああっ!」

『未衣子!』

『君に友達がいないのは、《夢》のせいらしいな。同じ男が出る《夢》に周りが引き、挙句には乱暴に扱ってもいいレッテルを貼られた。良かったな。《夢》の男に出会えて。とんだ極悪人だったがな!』


 攻撃の威力が増してきた。


 何もかも見抜かれて、言い返せない。


 防がないといけないのに、気力がない。


 ダメージは受けるばかり。


『未衣子! 俺に変われ!』

『安心しろ。目的は達成した。お前達が俺に挑んでいる間に、本部に侵攻させた。命を取る気はない。おとなしく勉学に励むんだな。少年少女よ!』


 また攻撃をくらった。私は反動で頭を強く打った。ヘルメットで衝撃は軽かった。


 けど何故か、左目に赤い雫が見える……。


 きっと、前面ガラスが割れたんだ。破片が私の頭に刺さったのかな……?


『未衣子! しっかりしろ!』

『くっ、落ちるぞ!』


 兄達が必死に心配してくれた。でも意識が遠のく……。


【パスティーユ】は装甲優れてる筈なのに。 

   ☆☆☆


 マルロ・ヒーストンのHR形態【チタン・キュレン】は、真下に落ちゆく【パスティーユ・フラワー】を黙って見ていた。


『よろしいのですか?アレにトドメを刺さなくても……』

『あれだけ心を痛めつければ改心するさ。[ラストコア]とラルクさえ消えれば地球攻略は容易い』


 マルロ側の小型輸送機の操縦士は、マルロの答えに反論しなかった。


 ところが、報告はした。


『隊長! 緊急事態です! [ラストコア]本部の座標より超巨大兵器が……』

『地球産だ、大した事なかろう』

『それが……核を搭載した兵器で、地上を一瞬で消し飛ぶ効果が』

『気でも狂ったか!』


 マルロが凶変してからの、[ラストコア]の総司令官・西条宗太郎の行動は素早かった。


 彼は愛嬌市及び周辺の地域まで、警告の放送を流し始めた。


『天王星圏スイル、マルロ・ヒーストンに告ぐ。

 我ら[ラストコア]は捨て身の作戦に出る。

 日本一帯を焦土化する爆弾を起動させる。

 一般市民は全て避難行動に移した。

 地上には私と同志のみ残っている。

 問題はお前達だ。

 愛嬌湾上空に無数の仲間が存在している。

 消し飛んで困るのはお前達ではないか?

 覚悟を決めたなら、私は爆弾を起動させよう。

 スイッチ1つで全てが決まるようになっておる』

『くっ……!』


 マルロは悔しがった。


『どうします?』

『原始地球の破壊活動は……』

『クーランは破壊活動には賛同しておりますが?』

『奴とはだだの契約関係だ! ……いいだろう。撤退だ』


 マルロはロッドを上にあげた。


 愛嬌湾にいた彼の部下達が、一気に宇宙船へと格納されていく。


 マルロも小型輸送機に乗り、ロボ形態から少年の姿に戻った。


(綺麗な星のまま、残したかったのだがな。

まあ良い。次は本部とラルクを確実に仕留める。

ガキどもは……もう戦場に舞い戻らないだろうな)


 マルロはロッドを突きながら格納庫を後にした。

















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