2・復讐の日
太陽系。多くの星々が太陽の周りに散らばった宇宙。
1隻の宇宙船が、地球を目指してまっすぐに移動していた。
特殊な文字で[フレアランス5]と船の側面に描かれていた。
船内の最上階・ブリッジには船を操縦する乗組員達以外にも存在した。
藍色の髪の男が立っていた。
戦闘などの緊急事態ではないので、何も指揮するものはないのだが。
星々の光だけが照らす静かな宇宙を眺めていた。
緑色の髪の女が、2人分の飲料を持って彼に近づいた。
「まだ時間はかかるから、席についた方がいいよ?」
女は飲料を渡した。
「いや、なかなか落ち着かなくてな……」
「焦りは禁物よ? 土星圏から地球までは早くて3週間(地球時間換算)だから、休める時に休まないと」
「・・・」
「悩んでるの?」
「サレンのせいではない。どのみち、私は決着をつけなくてはならないんだ」
男は飲料を一口飲んだ。
再び船の窓から、宇宙を眺めた。
「父上が渋るのはよくわかる。私はこれから悪の血に染まるだろう」
「リュートにはあの人と因縁関係があるんでしょ? 利害関係がはっきりしてるなら、悪の血に染まったと言えないわ」
「だが星の民が納得するのか……」
「今更何言ってるの? 王の力もあるし、あなたはやり返す側よ。みんなも納得してくれると思うわ」
「・・・」
「第一、あなたに拾われた私が納得しているんだから。リュート、あなたの味方はいるわ」
「すまない、余計な事を考えてしまった」
男・リュートに笑みが戻った。
「やっぱり、少し休む」
「わかったわ。地球に降下する時に呼ぶね」
「ああ」
リュートは自動ドアを開き、ブリッジを後にした。出入り口とエレベーターは直結している構造だった。
(奴はこの手で……失われた同郷達が報われない)
リュートは飲料を強く握った。
☆☆☆
敵のロボを倒してからは、物事がスムーズに進んでいった。
私達は男の人・武人兄ちゃんに連れられて、[ラストコア]の本部にやって来た。
愛嬌湾の中に潜んでいるって言われたけど、詳しい場所はよくわからない。
本部の人でも所在地を知る人が少ないから当然だって言われた。
時間的に結構縛られた。
まず[ラストコア]の最高責任者である西条宗太郎総司令官と話をした。
西条司令とは地球が近々侵略される危機、この基地の設立経緯、さらに期間限定の契約についての説明がされた。
「3ヶ月は辛抱してほしい」
西条司令からそう頼まれた。
高校生で頭のいい和希兄ちゃんは沢山質問した。
侵略危機について武人兄ちゃんの様なロボがやってくる事。
設立経緯は10年前のレジャー施設襲撃事件がきっかけ。
契約は……多額の報酬を支払うなどの特典をつける事。
これらの内容が理解できた。
終始、西条司令と隣にいたおじさんは苦い顔をしていた。
子供に説明するのが難しいのかな?
おじさんは[ラストコア]の事務局長、ジェームズ・フェリーと言った。
ジェームズさんは私達の祖父母にも説明しに行く様で、困るなぁと唸っていた。
営業マンかな、と私は軽くとらえていた。
その後、私達はパイロットの資質があるかどうかの検査を行った。
身体検査や精神検査など。全身をくまなく調べたようで、司令の話よりも時間がかかった。
身体は私達全員、異常なし。
精神は……私が同じ夢しか見れない状態について、お医者さんは驚いたみたいだった。
もちろん、武人兄ちゃんと輸送機に乗っていた[ラストコア]の技術局長、アレックス・ヘイリーさんもお医者さん同様驚いた。
大した事ないですよ、と私は言ったけど。
「パイロットには心の変化も診るのは必要なんだ。黒川には報告しておく」
アレックスさんは返答した。
今度はこれからのタイムスケジュールについての説明だった。
とりあえず最初の1週間は全員参加で訓練を行うとの事で、学校は強制休暇になった。
その後は各自の計画に合わせて調整を入れるとの取り決めになった。
和希兄ちゃんは部活あるし、勇希兄ちゃんは空手の稽古をやってるから。
でも、私は2人の兄のように、取り立ててやってる部活や習い事はない。
勉強は学校通うと自然にするし、読書も隙間時間でできる。
家事手伝いも祖母に言われてやっているわけじゃない。
だから私は、毎日訓練を受けたい。
外出については勇希兄ちゃんに連れてもらおうと考えている。
公園で助けてくれた武人兄ちゃんと一緒に戦いたい。
私の決意は固まっている。
たとえ今が弱くても、強くなって武人兄ちゃんの隣に立ちたい。むしろ、彼を守りたい。
毎晩夢の中で見る彼に出会えたから。
ずっと側にいれたらいいな。
☆☆☆
[フレアランス5]の宇宙船は、ようやく地球圏まで辿り着いた。何事も無く静かに。
「奇跡みたいね」
「そうだな……」
休息を取っていたリュートは、サレンから到達の知らせを聞いてブリッジに来ていた。
彼自身の体調は、休む前より良くなった。
青く澄んだ星は目の前に広がる。
大気圏に突入し、降下すればリュート達の旅は終わりだ。
しかし、地球へ降りるには手続きが必要だった。
宇宙からの使者がする手続きは、役所届のような事務仕事ではなく、科学を利用した技術であった。
電波による発信作業。これを怠ってはいけない。
ただ電波を発信するだけではない。
地球人に知ってもらう為の情報が必要である。
それは言葉。言葉を拾って聞いてもらう仕組みだ。言葉のみならず、言語にも気をつけなくてはいけない。
地球の言葉で話すか、翻訳機械を使用するか選択しなくてはいけない。
「共通語は勉強した。うまく伝わればいいが」
「構文がしっかり固めていたら理解はしてくれるわ」
「問題は電波をキャッチできる基地が地球にあればですね。反応が無ければ……引き返すしかありません」
「武力行使は緊急時以外ご法度だからな……考えても無駄だ。やるしかない」
ブリッジの操縦士はある装置を起動させた。
四角い機械の箱。スピーカーかマイクみたく、上部に網状の穴が開けられていた。
下部には左右に動く針を使用した測定器だ。音量を測るものだった。
「王子、こちらは準備完了です。いつでもどうぞ」
「わかった」
リュートは装置の前に出た。
自身の懐から、小さな板を用意した。
小さな板には、小さな文字が綴られていた。
地球の共通語で使われるアルファベットではなく、象形文字のような文字が刻まれていた。
彼は深呼吸をする。そして文字を読み上げた。
☆☆☆
訓練開始から1週間が経った。
3人合同の必修訓練は、私個人の感想だと、辛かったけど楽しかった。
初めの1日2日は、訓練が終わった後にすぐ眠ってしまった。
勇希兄ちゃんが「ご飯食べろよ」と言って起こしに来てくれた。
栄養は大事なんだな、って改めて思ったよ。
つらい経験もあれば、楽しい経験もあったよ。
私達の乗る【パスティーユ】の仕組みや乗りこなしの技術とか……。
外宇宙の知識や教養など、学校や読書で味わえない体験がたくさんあった。
今までに取り組んだ中では、私の目を一番光らせた体験かもしれない。
2人の兄も同じ事言うかも。
訓練終了時、時刻は夕方5時を過ぎていた。
武人兄ちゃんとサポート役の人に「案内したい所がある」と言われ、やってきたのは[ラストコア]の統制制御室。
ここで情報収集したり命令を出したりしているらしい。
この日は西条司令とアレックスさんがいた。
もう1人、計器と格闘しているのか。つまみを回し続けているお兄さんがいた。
この人はオペレーターさんだった。
「情報が拾えました。宇宙からですね」
「可能性としたら、宇宙船が近くに佇んでいるな……」
「解析できるか?」
「大丈夫です。読み上げます」
『敬愛なる地球人よ。
我々は土星圏ニコンの王家・フレアランスの遣いの者である。
貴殿らとは話し合いの場を持ちたくて、ここにやってきた。
貴殿らに危害を加える事はない。
この電波を拾える者、どうか我々を導いてくださらないか』
以上、オペレーターさんが読み上げた。
「土星圏か……どう見る黒川」
アレックスさんが武人兄ちゃんに声をかけた。
「[ホルプレス]のような軍団はいそうにないと思うんやけど、一応確認した方がええなぁ」
[ホルプレス]。実は私達を襲った敵のロボだって、武人兄ちゃんから教わった。
宇宙ではそこまで強くないらしい。
でも武人兄ちゃんは、
『よう耐えた。乗られへん奴もおるからな』
と褒めてくれた。
それはさておき、西条司令らは武人兄ちゃんに判断をさせた。
この中で一番宇宙に詳しいのは武人兄ちゃんだからで。側で私達も、探りを入れるのかな、と考えていた。
「まずは[ホルプレス]共々、HRの奴等と関わってないかチェックや。それを先に電波に乗せや」
「ああ。そうしよう。確認次第、許可してもいいな」
「人型やったら余程のことやない限りは、地球を敵視せえへん。もししても防衛線は張れるから大丈夫や」
私達を見る武人兄ちゃん。
きっと、私達を頼りにしてくれているんだ。期待に応えなきゃ。
「気に入ったみたいだな」
「めちゃめちゃ頑張ってくれてる。今までの兵隊さんとは大違いや」
「最小限には抑えないとな。期間限定とはいえ、一般人で子供だから」
アレックスさんは哀しげに言った。
☆☆☆
[フレアランス5]のブリッジで、地球からの電波をキャッチした。
複数の操縦士達が電波の解析に勤しんだ。
サレンの計らいで再度休息を取っていたリュートも、電波を拾った事でルームに戻ってきた。
「状況は?」
「もうすぐ終わるわ。言語化してるの」
ピピピ、と音が鳴る。目の前のモニターは、様々な情報が散らばっている。
これらが何の意味かは専門家である操縦士しか、全てを理解できない。
「言語化、終了しました。データを…表示しました」
「読めるか?」
「此方の言語に翻訳しました。大丈夫です。読み上げます」
『フレアランス家の諸君。我々は外宇宙対策本部[ラストコア]である。
貴殿らの受入れに条件がある。
[ホルプレス]等、宇宙犯罪者指定HRは存在しているか?
貴殿らの返信によっては、受入れを拒否する可能性がある』
「HR、いや犯罪者の存在を知っている?」
リュートは疑問に感じた。
「地球の施設だけど電波を受信できる。地球でも相当機能を備えていると見て取れるわ」
「地球は各国で言論統制等の規制があり、それが技術の進歩も阻害されているようでして……」
サレンと操縦士が解説した。
「地球上では戦争が絶えないとは聞いたが……」
「私達ほど脅威的な能力は持ってないわ。もちろん技術力もね」
「そうだな……決断なのだが、そのようなHRとは結びつきはない。だから受け入れてほしいと」
「書き留めなくてもいいの?」
「答えるなら手短でいい。忘れないうちに発信する」
リュートは再度装置の前に立った。
☆☆☆
宇宙からの電波を受信してから数日後。
強制参加後も、私は毎日[ラストコア]に通っていた。
学校がある時は放課後に。
勇希兄ちゃんの空手を観に行くと、嘘をついて。
便利な機能がある。首にぶら下がっている六角箱のペンダント。
[ラストコア]まで飛ぶ《転送装置》だって。
ついでに通信機能もあるんだって。
流石に変身機能はないけど。
この日も[ラストコア]に通い、訓練や勉強をした。
勇希兄ちゃんは空手の稽古があり、和希兄ちゃんは高校生の勉強で忙しい。
自分も用事ないの? と聞かれたけど、私には兄みたく決まった用事はない。だから毎日行ける。
勉強に付き添ってくれたお姉さんが言った。
「今回もまた、宇宙からの贈り物が届いてるんだって」
お姉さんの同行で、私はまた統制制御室へやって来た。
案の定、武人兄ちゃんと西条司令、アレックスさんが奥に立っていた。
今回はジェームズさんも来ていたみたい。
ジェームズさんは私達をパイロットにする為に頭を下げた人。
祖父母に細かい契約内容を説明したらしい。
それはさておき。今回も聞けるんだから聞きたいなぁ。
「大した内容じゃないけどな」
「まあいいだろう。子供のうちに興味を持つのは」
ジェームズさんと西条司令が言った。
アレックスさんに見せられた贈り物がこちら。
『返答頂き感謝する。
こちらはHRは所属していない。
我が王家の人型機体を10機程。
全て手動操作である。
よって、着陸許可を頂きたい』
以前と同じく土星圏ニコンからの返信だって言われた。
着陸……この人達来るのかな?
「もうええやん。許可しようや」
「私は構わんが……場所を知られると困る。入場制限をしよう」
入場制限? どうやってするんだろう。
「巨大な宇宙船が来ているのだろう。まずそれは降りてもらう。海上ポイントを指示し、我々が誘導という形を取ろう」
アレックスさんの提案だ。
「派遣者の代表と外数人、案内すればいい。郷に入れば郷に従えだ。彼らには俺達の言う事を聞いて頂こう」
「もし聞かなかったらどうする?」
「やりたくはないが、武力でねじ伏せるしかない。黒川は連れて行くが……」
アレックスさんが私を見た。
困惑した表情だった。
アレックスさんの表情を察したのか、武人兄ちゃんが言った。
「いや、子供らはかめへん。来客を連れてくるだけやから」
「そうだな。では発進準備を進めます。もう一度電波の発信をお願いします」
「頼む」
アレックスさんは立ち上がり、武人兄ちゃんと統制制御室を出た。
2人の男性が出るのを見ていた私は、付き添いのお姉さんに聞かれた。
「未衣子ちゃんどうする? 今日は帰る?」
私はまだ興味が薄れていなかったから。
「いいえ、明日は学校休みなのでここに泊まります。兄達に連絡入れていいですか?」
そう言って、ペンダントの通信機能を使用した。
☆☆☆
『許可する。その代わり我々の指示に従ってもらいたい。
まず太平洋という巨大な海へ向かってくれ、指定ポイントは……』
この電波受信後、[フレアランス5]は太平洋の指定ポイントで固定した。
既にヘリが5機程、待ち構えていた。
ようやく通信回線が復帰した。
「私はフレアランス家の5代目後継者、リュート・フレアランス5thだ。受入許可感謝する」
『私は[ラストコア]技術局長、アレックス・ヘイリーだ。電波情報通り、我が本部の意向に従ってもらう』
4機のヘリが[フレアランス5]の周りを囲んだ。
宇宙船は大きくて運びづらい。そこで飛んでるだけのヘリを操縦しているアレックスは、次の指定をした。
『輸送機があれば、そちらを使用して頂きたい。案内するにはサイズが大きすぎる』
「わかった。サレン、小型宇宙船に私の機体を」
「了解!」
「本部には私とサレンで行く。皆の者は待機。船だけ隠せ」
[フレアランス5]から小型宇宙船が出てきた。
地球の飛行船の風船部分と似たつくりになっている。
上空で止まっているヘリの乗組員、アレックスと武人の感想だった。
武人は他にも、
(一星の王子様がわざわざここまで来るなんてなぁ……大層やなぁ)
とも思っていた。
アレックスの指示の元、4機のヘリは黒いフィルムを出して、ぐるぐると小型宇宙船の周りを回った。
基地を特定されない為の措置だった。
「厳重警戒をしいてるようね?」
「よほどHRの襲撃に苛まれているのだろう」
操縦席の窓がフィルムに覆われて、席内は暗くなった。
そこからの移動には、時間は掛からなかった。
先導する、アレックス達の乗る有人ヘリ。
すぐ後ろに対角線の交点に小型宇宙船を据えるようにして移動する無人ヘリ4機。
襲撃や事故もなく、全機高度を徐々に下げていき、着水を開始した。
[ラストコア]は海底内にあるからだ。
小型宇宙船を ”目隠し” されたリュートとサレンには、あっという間に移動した感覚だった。
「これでもHR襲撃には手こずるのか……」
「レーダーは追えないけど、大雑把な点は特定できたかな? 私」
サレンはなるほど、という顔をしていた。
ここは閉鎖しているが船着場になっていた。
4機の無人ヘリは、周りにいなくなっていた。
着場は幾つもあるので、別々の場所に仕舞われたのだ。
先導ヘリのアレックスが小型無線機でリュート達に降りるよう指示した。
小型宇宙船の操縦席は、すぐ横の非常扉で外に出られる。
あとは階段さえつければ、簡単に降りられる。
移動式の階段は[ラストコア]側で用意した。
おかげで、リュート達は基地内に降りられた。
アレックスとリュートは握手を交わした。
ここまでは……何事もなかったのだが。
アレックスの背後に男がやって来た。
彼はご存知の同乗者だったが、リュートは表情を一変してしまった。
「奴は……!」
リュートは自然と後ろに背負った物体を掴んでいた。
布に包まれていたので、それを外した。
すると、典型的な槍がリュートの手にあった。
サレンは咄嗟に驚いた。
アレックスに至っては後ろに滑ってしまって尻もちついた。
ところが、大して動揺しない者もいた。
ロボットとの戦いに慣れている武人にとって、リュートの突撃なんて十分かわせた。
だが無我夢中に、リュートは槍で刺そうとする。
矛先に血が付着しなかった。
サレンはやめて! と叫ぶ。
アレックスは壁に隠された小型AIを射出し、警報を鳴らせと連絡した。
「HRの不在確認をした癖に、貴様らは犯罪者を匿っているのか!」
「犯罪者……な」
リュートの怒鳴り声と武人の呟きである。
アレックスの命令したAIは2人を威嚇する。
所詮小型なので落とされた。
警報も鼓膜が破れそうな程に鳴り響く。
アレックスは壊す気かと強く叫んだ。
「リュート、落ち着いて!」
きゃあと喚いたサレンは、AIの威嚇をなんとか避けていた。
技術屋と側近が騒ぐ中、戦い慣れしている武人に焦りはなかった。
むしろ冷静にリュートと対峙していた。
「土星人の割には、細身の生物やな……アンタら」
「黒川! それ以上挑発するな!」
戦闘員と王子の対決に、飛び交うAI。
危険が多すぎてアレックスは不意に近づけなかった。
代わりに怒声で制止しようとしても、効果はない。場内が壊れて水が侵入する、という危険を感じた彼だったが。
ようやく対決が終わった。
宗太郎による艦内放送だった。
『リュート・フレアランス5th!』
リュートの身体がビクッとなった。
館内放送は大きい。煩わしい戦闘中でも耳に届く。
『我々の指示に従うとこちらは申した! これ以上、勝手な真似をされると、大型宇宙船もろとも貴殿らを追放する!』
「言われとんで? お前」
「くっ……!」
『話は別室で聞こう! 今は暴走するのはやめてくれ!』
リュートは槍を下ろす。
鎮静化した彼にサレンは近づいた。
「いくら地球でも、こう技術が進歩してる基地なら私達がやられるわ」
「サレン、私の過去は知っているだろう」
「機会をうかがいましょ? まずはここのトップに……」
リュート達はアレックスの後について、着場を離れた。
武人もジェームズの通信で、未衣子達の側に居てやれと指示があった。
2人は正反対の方角で去って行った。
(王子と女の子、どうも同じ星の民です、って姿に見えへんなぁ……裏になんかあるなぁコレは)
武人は疑問に感じた。
☆☆☆
「未衣子に呼ばれたら基地に警報鳴って戦闘があって……朝起きたら武人兄ちゃんが知らない人と戦闘かよ!」
「怒鳴るなガキ……両者折れねえから仕方ねえだろ」
勇希兄ちゃんとジェームズさんの声だ。
2人とも機嫌が悪そうであった。
対して和希兄ちゃんはここでも冷静だった。
「あの青いロボットは初めて見たなぁ……というか、自己紹介されてませんが?」
「事件があってよ。相手方は後で紹介するさ」
和希兄ちゃんとジェームズさんの会話だ。
今私達は訓練所の閲覧室のある建物の中に入っている。
ここは頑丈だからとジェームズさんが言った。
アレックスさんは向かいの、青いロボの後ろの建物に入ってるらしい。
「武人兄ちゃん、大丈夫なの?」
「あんまり暴れてほしくないけどなぁ。どうやら相手さん、黒川に因縁があるらしい」
ジェームズさんが説明した。
「決着をつけさせないと納得できないとな。条件をつけたのさ」
条件? 何だろう?
「[ラストコア]に協力する代わりに、黒川を倒したいとな」
倒す? って事はもしかして……。
「武人兄ちゃんが……?」
「あり得ないとは思うがな。アイツはHR、相手さんは生粋の宇宙人だ。力量では黒川が勝る」
ジェームズさんは言ったけど、何だかモヤモヤした。
「黒川は[ラストコア]の重要人物だ。もし奴が倒されそうになったら、こちらも救済措置を取るさ」
祖父母への説得でも尽力を尽くしてくれたジェームズさん。
初対面の時は苦い表情をしていたが、段々私達を気にかけるよう、言い方を変えてくれた。
そうだよね。兄ちゃんは生きるよ。
☆☆☆
武人とリュートの戦闘は、宗太郎とリュートの応接室での話し合いで決定した。
未衣子達の元へ行った筈の武人が、応接室にやって来た。
戦闘の標的である本人が、承諾したらええやんと言った。
後は普通に事を運んで行った。
武人とリュート、1対1の模擬戦という名目で始まる。
「リュート、私も援護しようか?」
「いや君はいい。これは私の問題だ」
サレンは未衣子達の建物と向かいの場所にいた。
だが彼女は仕える王子が気掛かりだった。
(HR相手じゃあ……大丈夫かしら)
彼女は技術仕官としてリュートの側にいた。
HRの力量は理解していた。
「流石に命の危険性があれば止める。君達も王子がいなくなったら大変だろう」
「ええ……彼が納得するか……」
「そこは難しいな……」
サレンの隣にアレックスがいた。
彼は複数のPCを自身の前に配置し、戦闘を全方位で捉えようとした。
メガホン代わりの無線機も所持している。
無線機は戦闘の合図でもあった。
『これより、【ブラッドガンナー】対【ホーンフレア5th】の戦闘を開始する。急なスケジュール調整の為、1本取れば勝ちという一発勝負とする』
『な……倒したら勝利ではないのか!』
『それもよしとするが……他の方法で制しても勝敗を決める』
機体【ホーンフレア5th】に搭乗したリュートはアレックスからのルールについて落胆した。
『ふーん。タマ取るつもりやったんか? まあ、独力で挑む勇気には讃えとくわ』
『結構だ。ルールはまだ良い。貴様の後ろにいるのは何だ? どうみても子供ではないのか?』
リュートはモニターから未衣子達を捉えていた。
『期待の新人や。俺達の戦闘観てもらう』
『静かにしろ! さっさと始めるぞ。時間がない』
アレックスは戦闘を開始して、とっとと終わらせかった。
『合図はこちらでする。準備はいいな? お二方』
当のお二方は肯定の返事した。
アレックスは左手で赤いボタンに触れた。
まだ押していない、サイレン音のスイッチ。
彼の合図が、ボタンを押す事を促すサインになった。
『戦闘、開始!』
ブウゥゥゥゥ、と基地内にサイレンが鳴った。
2機のロボットは接近するため、地面を蹴って加速をつけた。
☆☆☆
速い、速すぎる。
訓練の時に付き添ってくれた武人兄ちゃんとは、動きが違う。
私達がロボの操作に慣れるよう、訓練時に武人兄ちゃんは的になってくれたけど、今は全然違う。
お互い激突するのかと思ったら、兄ちゃんは飛んで、両手の銃で弾を乱射し始めた。
対するリュート王子? のロボは素早くかわす。
周りに火花が飛び散ったけど、弾の威力は弱かった。燃えていないから。
武人兄ちゃんが着地した後、今度は王子のロボが飛び上がった。
槍の特性を活かして、真上から兄ちゃんを刺しにかかった。
でも兄ちゃんは後ろに下がって避けた。
王子のロボは槍を二回左右に振って、今度は叩こうとした。
危ない! と一瞬思ったけど、武人兄ちゃんは右腕でダメージを軽減した。
受け止めた槍を退けて、左手で再び乱射。
頭部に向かったのだけど、王子のロボはうまく首を振って、弾を避けた。
『中々やるな』
兄ちゃんが言った。
「すげぇ……空手より動きが速え……」
「かなり乱射しているけど、弾切れが無いのが不思議だなあ……」
先に勇希兄ちゃんが、次に和希兄ちゃんが言った。
元軍人のジェームズさんは、
「王子とくれば大体お飾りなんだが……コイツは本物だ。かなり鍛えてきたな」
相手方を褒めていた。
『【ホルプレス】の連中とやったら、お前は勝てたやろうな?』
『あんな奴らを相手にはしない! 私の標的は貴様だけだ!』
『ほう……せやったら、コレはどうや?』
武人兄ちゃんは左手の銃を変えた。
さっきの銃よりも大型の銃。
それを王子のロボ、真正面に放とうとした。
真っ赤で大きな火の球がボォン! と炸裂した。
王子のロボは読み取っていたのか、真っ先に銃口から離れていた。なので火の球に焼かれていない。
しかし、着地をすると。
右脚の関節部分から、電気の光が見えた。
『くっ……?』
王子のロボは立っていたが、右脚だけ立ち方が変だった。
『ほー。さっきの球は感電効果もあって立たれへん奴おるけど、よう立てたなあ』
『何を……』
『お前にはミスもあるわ。今いる演習場の地面は浸水対策でな、硬めにしてるんや』
『しまった!』
王子は武人兄ちゃんの指摘で、自分の失態に気づいた。
地面が硬いのは私も知ってる。
王子のロボの右脚から、バチバチと火花も出ていた。動きにくそう。
でも王子は諦めなかった。
『これくらいでは止めないぞ!』
『ほう。強いなお前』
武人兄ちゃんは未だピンピンしている。
銃を小型に切り替えて弾を乱射した。
王子のロボも必死にかわした。
武人兄ちゃんは行動も素早かった。
負傷気味の王子のロボに接近戦を仕掛けようとする。
『遠くから狙う方が勝ちやすいけどなぁ。近接戦しか無理そうやし』
すると、兄ちゃんの一言で癇に障ったのだろうか。
王子のロボは腰に付けた小さな矢をたくさん、兄ちゃんに投げつけた!
矢は自動的に加速をつけて目標に向かっていった。
武人兄ちゃんが動くと矢も目標へまっしぐら。
かわしきれないと見た兄ちゃんは今持っている銃で矢を壊していった。
『くっ、飛ぶしかないのか……だが……』
王子のロボは上を見た。
演習場は基地内であって、天井があった。
武人兄ちゃんから教わった知識として、
『槍使いはジャンプして刺してくるのが得意』
と聞かされていた。
この敷地内では、王子のロボの方が不利だった。
それでもロボは必死に逃げ回りながらももがく。
今度は反対側に付けていた矢を投げたが、それも兄ちゃんに撃ち落とされた。
王子のロボの動きは、段々鈍くなっていった。
関節部分を放置すると、全体の動作に支障が出てくると、私達は兄ちゃんから聞いていた。
「もう槍を丸投げするしかねぇだろ……」
「だが相手さんは手薄になっちまう……奴が勝利するには、一か八かの賭けに出るしかねえな」
「武人さんが接近した所で突くとか……どのみちリスクが高そうですね」
勇希兄ちゃん、ジェームズさん、和希兄ちゃんと会話が進んだ。
私は黙って戦闘を観ていた。
鈍足になった王子のロボに、武人兄ちゃんの打った弾が被弾!
キィィィと滑る音を立てて、ロボは停止してしまった。
武人兄ちゃんも接近する速度を落とした。
ほとんど兄ちゃんの勝利は確実。
でも、何でこんなにモヤモヤするんだろう。
私達が不安な目で観てる中、武人兄ちゃんが近づくと、王子のロボは槍で胸元を刺そうとした!
それもパワーが足りず、兄ちゃんに槍を掴まれてしまった。
『もう俺の勝ちや。もう降参し? ルールでは1本取ったら勝負が決まんねんから』
武人兄ちゃんは小型銃を向けたまま降参を促した。
でも王子は諦めが悪かった。
『恥晒しなどいらん! だったら私を撃て!』
その後、空気が重くなった感じがした。
兄ちゃんが放った一言で。
『可愛い娘もおって、民からも慕われとるのに……ええわ。お前の思い通りにさしたる』
撃たれるのは王子である。
だけど、私達もジェームズさんも息をのんだ。
最悪の場面に出くわしてしまったと。
兄ちゃんが銃のレバーを引こうとすると。
敵襲のサイレンが鳴った。
☆☆☆
『緊急事態! 緊急事態! 地球に多数のロボット降下予定! 種別はHR【ホルプレス】!』
警告は繰り返し流された。
【ホーンフレア5th】の胸元をぶち抜こうとした【ブラ ッドガンナー】は、銃を下ろした。
『命拾いしたな。今後は言葉に気をつけや』
武人は後ろを向いた。
『子供達とジェット機を乗せとき! 後で俺も向かうわ!』
「子供を戦わせるのか貴様!」
『今は急用や。それに、あの子らは地球の希望なんや』
武人は【ブラッドガンナー】の状態で去っていった。
【ホーンフレア5th】は動けないままだ。
『お前は彼女と一緒に戦闘観ときや!』
去り際に武人は叫んだ。
代わりに、演習場の建物内にいたサレンが泣いた。
彼女は戦闘中、ずっとリュートを応援し続けた。
『リュート!』
「サレン、私はなんて惨めな戦を……」
『助かってよかったよ……私、ヒヤヒヤしていたから』
「君と民には、迷惑をかけた……」
リュートが後悔するも、今は緊急事態。
アレックスが運搬用のAIを用意した。
『ロボを回収する。ハッチは開くか?』
「被害は脚部のみ。脱出機能は作動する」
リュートは【ホーンフレア5th】の胸部のハッチを開いた。
ロボの運搬が終わるまで、リュートはじっとしていた。
【ホーンフレア5th】は無事、建物内に収容された。
リュートは自力で降りた。
サレンとアレックスが彼を迎えてくれた。
「リュート!」と呼んだサレンはすぐに抱きついて、泣いた。
アレックスは負傷した機体を確認していた。
「こちらの部品で補修できるなら、こちらでも出そう」
サレンはアレックスの方へ振り向いた。
「ええ。できればそれがありがたいです」
「黒川は穏やかそうに見えるが……琴線に触れると静かにキレる事もあるんだ」
「アレックスさん、手の震えがすごかったですよ?」
「よくないパターンだが、どちらも失わずにすんだのは幸いだ」
アレックスはリュートの前に近づいた。
同時に頭を下げた。
「再戦を望むなら、今度は王子が有利な環境で戦闘できるよう、調整する。今回はこんな環境で申し訳ない」
「私も気が立っていた。今でも納得いかない点があるが……」
「黒川も30だ。奴も今の戦闘で水に流すだろう」
アレックスは目の前の複数のPCを操作した。
「理解頂けるかどうかわからないが、我々[ラストコア]の戦闘を見て欲しい」
リュートとサレンはPCを覗いた。
赤種と青種の【ホルプレス】に囲まれながらも、1機で挑む【パスティーユ】。
【フラワー】が光の弾を多数繰り出す所だ。
「これって、戦えるの?」
「今回が初陣だろう」
「何だと!」
リュートが声を上げた。
だがアレックスは話を続けた。
「実戦でだ。訓練は実施しているし、オート操縦だが【ホルプレス】と出会っているんだ。あの子達は」
「確かに、攻撃の仕掛け方は知ってるみたいね?」
「【ホルプレス】の青種が全て潰された?」
「【フラワー】は広範囲型の戦闘形態だからな。大多数の敵を蹴散らすにはもってこいなんだ」
PCの映像では、【ホルプレス】の赤種しか残っていない。
これも【パスティーユ・スカイ】に変わり、素早い剣術で大多数を倒した。
締めの1機。リーダー格の【ホルプレス】は【パスティーユ・サニー】の格闘技で一気に潰した。
[ラストコア]の勝利。武人は参加してない。
「これが……希望……」
乗ったのはあの子供達のはずなのに。
それからリュートには、後悔と疑念が残されたままだった。
☆☆☆☆☆
ここまでが『ミコロボ』シリーズの最初の導入部分です。
ここから先は、《共闘》ルートと《反転》ルートに分かれます。
《共闘》ルートは武人兄ちゃんと一緒に戦いますが、《反転》ルートは……。
公開次第にはなりますが、お好きなルートをどうぞ。
個人的には……。
《共闘》ルートを全部読んでから《反転》ルートを読む
のがオススメです。
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