第2話 侵蝕

配信が終わったあと、スマホの画面を消しても、心の中にはまだハイシン少女の声が残っていた。夜闇が部屋を染める中、ベッドに沈み込み、僕は思わず深呼吸する。

「……やばい、」

画面越しだったのに、胸の奥に熱が残り、鼓動がまだ速い。頬が火照り、指先が勝手に震える。思わず目を閉じて、ハイシン少女が語る想い人の話を反芻する。画面の中の彼女の声、微笑み、仕草のひとつひとつが、鮮明に脳裏に思い浮かぶ。

「手を取ってあげたくなる……」

心の中で、彼女の温もりを想像し、僕は甘い余韻に浸った。

名前も知らなければ、直接会ったこともないのに、なぜかこんなにも惹かれてしまう自分がいる。

翌朝、目覚めるとカーテン越しの光が部屋に差し込んでいた。ベッドの中で伸びをしながら、昨夜の余韻がまだ胸に残っているのを感じる。

教科書をカバンに詰め、今日も学校か……とぼんやり思いながら、心の片隅でハイシン少女の声が繰り返し再生される。あの落ち着いた声、微笑み、仕草――一瞬たりとも、頭から離れない。

登校の途中、街路樹の影や朝日が差し込む歩道を歩きながらも、僕の意識はまだ昨夜の配信に引きずられていた。人々の足音やざわめきが耳に入るが、頭の中ではあの声が繰り返される。

教室に入ると、周囲の騒がしい声が一瞬気になったけれど、机に座ると無意識に背筋を伸ばし、心の奥でハイシン少女の声を探すようにしていた。隣の席のクラスメイトがノートを取り出す仕草や、ふと窓の外を見上げる動作さえ、彼女の話した想い人の姿と重なってしまい、自然に頬が熱くなる。

先生の声が耳に届いても、授業内容にはほとんど集中できず、視線は時折自分のノートや窓の外にさまよう。心の中で繰り返される「彼女は、あの時こうしていた」という小さな映像の断片に、胸がざわつく。

昼休みになり、教室のざわめきの中で友達が話しかけてくる。内容はゲームの話や昨日の出来事のこと。でも僕の意識は半分も耳に入らず、頭の中でハイシン少女が語るあの笑顔や声を反芻していた。

「……今日も、また配信あるかな」

気付くと、僕はスマホを握りしめる手に力が入っていた。画面越しの彼女の存在は、もう日常の隅々にまで入り込んで、放課後まで胸をくすぐり続けるのだと、確かに感じていた。

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