ハイシン少女
とつじ
第1話 片恋
放課後、教科書を机に置いたまま、僕はベッドに寝転がってスマホをいじっていた。宿題をやる気なんて全然出なくて、ただなんとなくYouTubeを流して時間を潰す。ゲーム実況や音楽、くだらないバラエティ動画……どれも頭に入ってこない。
スクロールしていると、ふと目に留まる配信サムネイルがあった。
「ハイシン少女、学生時代の恋を語ります」
制服のような衣装を着た女の子のイラストが、サムネの中央で微笑んでいる。正直、少しダサいとすら思った。でも、なぜか親指が勝手に画面を押していた。
動画が開くと、落ち着いた声がイヤホンから流れ込んできた。
「こんばんは、皆さま。今宵も少しだけ、私のお話にお付き合いくださいませ」
その瞬間、体が少し強張った。想像よりもずっと大人びていて、けれどどこか頼りなげで、聞いているだけで胸の奥をくすぐられる声だった。
画面には、髪を肩で揺らす少女が映っている。目元は優しく笑っているのに、どこか寂しげだ。制服を模した衣装は不思議と似合っていて、僕は思わず姿勢を起こしていた。
「本日は……学生時代に、私が心を惹かれていた方のお話をいたしましょう」
敬語で、淡々としているのに、ひどく丁寧で優しい。
その声に耳を澄ませるうちに、僕はもうスマホを置くこともできなくなっていた。
「彼女は、とても真面目で、目立たないタイプでしたの。クラスの隅で本を読んでいることが多くて……でも、時折、皆と笑っている姿を見ると、それもまた素敵で」
頰が、心臓が、熱を持つ。
「背が高くて、声が低くて、落ち着いていて、どこか孤独をまとっている方でしたの。、、、だから、どこか気になってしまって。」
、画面に吸い寄せられるように身を乗り出す。声の端にかすかな切なさが含まれているのを、無意識に拾っていた。
「放課後、一緒に机を並べて宿題をしたこともございますし、体育のあとに髪を結び直す仕草を見たことも……小さなことばかりでしたけれど、私には鮮明に残っておりますの」
断片的な思い出のひとつひとつが、僕の胸をじわじわと熱く締めつける。触れられるはずもないのに、手を伸ばしたくなる気持ちが込み上げる。
「……そして、少し揉めたこともございましたの。些細なことでしたけれど、あの時は本当に悲しかった……」
核心には触れずに濁すその語り方が、逆に想像を掻き立てる。僕は無意識に、彼女の話す孤独な想いの矛先に自分を重ねていた。
——もし、その時隣に居たのが僕だったら。
小さな妄想が胸の中で膨らむ。画面の向こうの少女に手を伸ばすことはできないのに、心の奥で無理やり近づこうとする自分がいる。
気付けば、僕の指は「チャンネル登録」の赤いボタンに触れようとしていた。
僕はもう、この配信から目を離すことができなかった。
偶然の出会い――それが、僕にとって初めての、危うくも甘い恋の始まりだった。
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