第4話 地獄で涼んでる(馬ごと)

翌日。コキュートス短期バイト二日目である。

稼ぎに来ているので大物は嬉しいが恐ろしい、根本的には監獄から囚人が抜けだしていること自体が歓迎されざる状態、待機場所の静かな様子はそんな複雑な心情が現れるようだ。他の班にはいかにも力自慢である巨体の悪魔も見られるが、本当に実力者であればこんな短期バイトをしていないという説がある。逆に好き好んでこんな短期バイトを渡り歩く変人の力自慢もいるようだが、やはり例外だろう。コキュートス管理局が短期バイトを集める狙いは『それらの悪魔でも対処可能な程度』の仕事のアウトソーシングで、独自の兵力はより強力で厄介な相手に割くためだと言われている。つまり、最も厄介で強大である第四円ジュデッカの『魔王』鎮圧可能な状態を維持するためのリソースづくり。

だから魔王直下の近衛兵隊が差し向けられているのは、何か奇妙な事態のはずなのだった。


「今年ってなんか変わったこととか、ある?」


ピクシーに聞いてみるが、少し考えたあと「別に?」と返ってくる。そんなことだろうと思ったが、私の方はただ気になるばかりである。ちょっと変わった只ならないことが起きている興味深さと、狼さんがその辺にいるらしいということと。さすがにコキュートスは広いので適当にやっていてすれ違うのは難しいだろうが、何かの騒ぎが絡んでいるならそこに集約していそうな気がする。


「円によって変わったりするのかな、難易度とかさ」

「そりゃあ違うかな」


第一円:カイーナ:血縁者への裏切り(旧約聖書のカイン)・第二円:アンテノーラ:祖国への反逆(イーリアスのアンテノール)・第三円:トロメア:賓客への裏切り(マカバイ記のトロメオ)-この領域の魂は、地上において肉体が生きたまま悪霊に支配される現象が起こる(なんでまた?)・第四円:ジュデッカ:恩ある主への反逆(使徒ユダ)-ここではルシフェルが腰まで氷に漬かり、3つの顔でユダとブルータスとガイウス・カッシウス・ロンギヌスを噛み砕いているというのはつとに有名だが、うちの魔界は辺境の弱小の地獄なのでこの辺はレプリカだと思っていい。少なくとも第四円に噛み砕き悪魔がいることは、危険要因だ。


「飛びぬけては第四円だろうけど、別にどこが楽ってこともないんじゃないかな。あ、第一円の方が多少は寒くないかも」


あまり期待できない程度の差だと思われる。

それほど実のある内容はもらえなさそうだと、雑談を切り上げる。そろそろ業務開始の時間になりそうだ。


「無駄口はそれくらいに、口を閉じて。舌が凍るよ。ゲートを開ける時が一番寒気がキツイんだ」


凍れる罪人たちの群れをリストと照合する簡単なお仕事を黙々とこなしながら、そろそろ脱獄犯を捕まえたいなと思っていた頃合いにその穴は見つかった。標準的な人間の大きさに氷の墓穴は空洞を呈して、居ない者の名を支給されたリストと突き合わせる。「ガヌロンでは」「シャルルマーニュ十二勇士の」「うん」いいぞ、有名人だ。

「シャルルマーニュ十二勇士とはいえ、さっきまで氷漬けで黒紫になっていた人間なんか大した脅威ではないでしょ」


私が舐めたことを言うので、セペエレは首を振って

「物語に語られる夢の方なイメージこそ地獄に居るべき『ガヌロン』、地獄でのまやかしの生を、凍えた肉塊が夢見るもの。つまり、みじめな凍った屍であってもおそらく馬に乗った武将がうろついているんです」


愛剣ミュルグレス、黄金の柄には聖遺物を納める聖剣『死の剣』、そんな名刀を佩いてシャルルマーニュ麾下の武将を務め、ひとりサラゴザのマルシル王の降伏受け入れに賛成し、他の十二勇士は大反対だというのに意見を通させた多分弁舌巧みな男が、どれほどの武将か。


「いずれにしてもこれならいいボーナスになると思うよぉ、捕まえようね!」


ピクシーが元気に鼓舞した。


「死体の夢でもなんでもいいけど、勝てると思う?」

「勝てそうじゃないですか?一応人間対悪魔軍団ですし」


言っていることが早速矛盾している。

穴があることを確認したうえで、次の確認地点へ向かうために移動を始めた。コキュートスの暗がりにおいて道らしき道はないので、壁伝いに進んでいくのが一番冴えたやり方で、それ以外は遭難ルートだ。雑談で気を散らすのはよろしくないものの、前後の班員が存在しているかを確かめる必要は常にある。


「ペンギンはどう、そういうのシバくの得意?」

後ろに尋ねると、「くぁーっ」との回答だった。得意そうだ。


壁伝いにじりじり進むうち、先頭のピクシーがぴたりと立ち止まる。静かにと静止されてからよく見ると、足跡がある。馬の蹄だろう。いやに整然として、遭難ルートたる闇の奥に誘う。野良馬とは珍しい、そんなわけがあるまい。


「まさに彼、騎士たるガヌロンでは」

「馬ごと地獄で涼んでるわけ?」

「言ったでしょう、おそらく馬に乗った武将がうろついてると」


しかし私たちは金を稼ぎに来た短期労働者、追わない理由はない。ゴブリンがロープを回してきた、互いを繋いで遭難防止である。確認を取って、ピクシーが先導しルートを外れる。作り物のような美しさで残る蹄鉄の足跡を辿ると、雪に覆われた草地、大小の丘が視界を遮り、荒涼とした高地の気配が立ち上ってくる。さながら、さしずめ、ピレネー山脈のロンスヴァルことイバニエタ峠。


「これも夢?」

「うーん、どういうことだろう。コキュートスの地形がこうも変質するほど」

「たかがガヌロンだろ」

「そうなんですよ」


悪魔同士でぼそぼそ話していると、思いのほか近くに気配を感じて振り返る。悪寒だけが残っている。ぐるり見回すと追っていた一直線の足跡が乱れている、いや、囲まれているのだ。我々の周りを不可視の馬が周回している。


「おおい、既に囲まれている」


ゴブリンが荷物から魔術式のカンテラを取り出し明かりを灯す。汎用的な範囲で、長くは保たないが魔性の闇を照らす。案の定くっきりと大きな影が現れるが、織り込み済みである。


不可視の馬上から振り下ろされる斬撃に合わせてペンギンがフォークを振り上げて弾く。私も装備品のシャベルに手をかけていたが、反応速度が間に合っていない。力自慢でもないのだし、大人しくペンギンに任せて魔術式でも展開しておこうかの頃合いにセペエレがちょっとした魔法陣を描き終わっていた。


「これは、守護?」「そう」「これからどうする……」


たかがちょっと卑怯な人間の騎士の亡者なのだが、妙にただならぬ雰囲気で舐めて飛びかかるとその死の剣で真っ二つになりそうな予感があり、おそらく予感を信じた方がいい。数では完全にこちらが勝っているのだが、このままだと馬上から蹂躙されるばかりで何の優位性も発揮していない。そこで、ペンギンがフィジカル的に強いのではと思われるので囮になってもらい魔術的に補助していこう、というような作戦を相手が至近距離でぐるぐる回っているただ中で話してどうするというのか?逆説的に話せることは一つしかない。


「『ガンガンいこうぜ』で」


ゴブリンが渋い顔でため息をついている。小鬼風情に呆れられるとは世も末だ。

私も何も策がないわけではない。先日のテペなんとかのように一撃必殺を決めればいいのだ。ガヌロンの場合のそれとは、おそらく馬によって引き裂かれる八つ裂き刑での末路を再現することだろう。もう一頭馬が要る。セペエレの描いた魔法陣は丁度いい具合で、これを利用したら五分ほど。いや十分ほどあればいい。


「十分くらい召喚儀式するから頼まあ」


ペンギンが頷いて陣の外に飛び出し、フォークを高跳び棒に跳躍する。ペンギンが飛んでいる。不可視の騎士に取り付いてチャンバラを始めたようだった。


「うちらはどうする」

「見づらくてしゃーない」

「困るなあ、見えないの」


残った仲間がぼんやり話している。ピクシー姉さんがはたと気づいた様相で荷物をひっくり返し、小さな小袋(ピクシーサイズの小袋など、もはや小小小小小袋ではある)を手に掲げたと思ったらタイミングをはかって、投げた。輝く砂がまき散らされ、輝くものが現れる。グリッターまみれの騎士である。


「見える見える」

「見やすくなった」


だからといって何かを始めるでもないのだが。

見やすくなった騎士は馬上でナイフを振り回し、ペンギンが機敏にそれを避ける。翻弄しているがこの一対一では攻め手に欠けているようで、まさにペンギンに気を取られている今攻めたらどうなんだと思われるが仲間たちは静観している。私は「白き輝く鉛の王子、吹き渡る風の天秤の王子、」と呪いを唱えるのに忙しい。


さすがのペンギンも集中が乱れたのか、それを騎士が逃さなかったのか、ペンギンの体勢が崩れ空中に放り出される。息をのむ間に騎士は死の剣、金色の柄(グリッターまみれ)に手をかけ、無防備なペンギンを切り落とさんとする。スローモーに見える世界でペンギンが捌かれるのを確信した瞬間、銃声を聞いた。

どの虚空から放たれた銃弾か確認する余裕はないまま、グリッターで輝く騎士が右肩を押さえる結果を確認する。考えられるとすれば他の第二円を回っている短期労働仲間だが、報酬目当ての悪魔どもだというのにそんな気の利いたスナイパーがいるのか。だが、疑問を反芻するときではない。召喚の儀が終わったからである。


「お出でなさいませ、偉大なる君主、王子、オロバス!」


白い霧、あるいは雲がたちこめる。仄かに光る魔力を帯びた煙。書き足された魔法陣の中心で半人半馬の高貴な姿が浮かび上がる。銀の蹄は上品に、赤い鬣は禍々しい、ゴエティアの悪魔、大貴族のオロバス。真実を告げ、誠実であり、契約者を敵対者から守護する。


「汝が召喚者か」

「はあい。私、一介の悪魔、下賤の輩の喚ぶ声にもお応えいただき、その寛大な御心に感謝します、殿下」


一礼。上級貴族たる高貴な方がこんなところで油売ってて大丈夫か、という声もあるだろうが、こういうのって大体いい感じで力の残滓とかで対応しているのみで、大悪魔様の本体はもっと遠いか深いか高いかの領域でまんじりと横たわっているか、まんじりともせず天使と戦争してるかしているので安心してほしい。


「佳い、契約であるからには、互いに相応であればよい。何を求めるものか」

馬の頭から地割れのような吐息のような合成音声のような、聞き取りづらい声で発せられた。

「誠実なる王子、その志しを尊敬いたします。公平な契約を約束しましょう。私は敵対するコキュートスの亡者ガヌロンの排斥を求めます」

「では対価は何であるか」

「木星のいと高き精神、錆なき錫の殿下は何を求めるのでしょう」

「心を捧げよ」

「承知いたしました。けがれなき魂のひとつを差し出します」


私も悪魔なので魂のひとつふたつ財布入れている。下っ端の悪魔なのでそんなに余裕はないため、承知いたしましたとか言っているがこれがダメなら魂ローンを魔界消費者金融に融通してもらわなければならない。実は崖っぷちである。


「佳い」


ひとこと承諾を下賜され、銀の蹄と赤い鬣の二足歩行の白馬がこの凍える幻想ロンスヴァルに立つ。ピクシーのグリッターに輝く不可視の騎士は右肩から流血し、ミュルグレスを血に染めている。血濡れた「死の剣」を横なぎに振り、それを銀の蹄が弾く。本来であれば聖遺物をその柄に収めた聖剣の格であろうミュルグレスも、地獄の罪人が振るっていては神秘性ランクダウンに違いない。


オロバスは銀に輝く手綱を取り出すと、その紐をガヌロンの首にかける、さながらカウボーイの縄投げのように。首が引かれる。馬に首を繋いではどちらかというと市中引き回しだが、きらめく首が身体から離れて宙を舞った。

素早い決着。今がチャンスだ、


「ほら、ゲットだぜを」

「あ、」


あ、ではない。ピクシーは氷結弾を首無しになった騎士へ投げ当てる。やはり難なく氷結し、それと同時に変化があった。周辺の荒涼とした丘が広がるイバニエタ峠風のテクスチャがはぎ取られ、コキュートスとしての本来、無量の闇がおし広がる氷の大地が戻ってきたのだ。このバイトは初めての身ではあるが、寡聞にしてこの現象は知らない。


「契約は履行された」

「左様にございます」

「なればこれにて」


オロバスの方もさっさと帰っていき、


「あらっ、これって、ちょっと、遭難じゃない?」


私たちといえば、目印のない闇の真ん中に置き去りになっていた。


遭難した時ほど慌てて動くものではない。そういえば、どこからかの銃声の答えも出てはいない。銃が届く範囲には誰かが潜んでいるということだ。よもやこんなコキュートスの闇に紛れて専門のスナイパーが居るわけもあるまいし、もみ合う馬上の人物を狙い正しくガヌロンに当てたのだとしたらそれなりに近い距離に陣取っているだろう。手で三角形をつくる、四代元素は火のサイン。冥府の闇とて火を灯せば、さすがに、数メートルくらいは顕になるべきだ。手を掲げて頭上に大きく火をつくる。

遠くはあるが顔くらい見える。200メートルくらいか300メートルは離れているか、正直この火で数百メートルを照らしているのがびっくりである。何にせよそこに壁のように聳える構造体があり、その陰を頼るように人影があった。遭難と銃声をダブル解決したということだ。

そこで豆粒よりもはっきり見える程度にわかる顔はすっきり整った顔の毛並みの良い八番狼である。手に小銃を構えており、因果関係は明白。ほとんど魔王城内と変わらない制服、どんな生地の服なのか。


「八番!」


あ、の口で八番はそそくさと壁の陰に隠れた。それでいいわけがないだろう。

遭難しかけている状況的にも壁際へ向かうべきである。まあ彼女がいるということは、既知のルート上の場所とみてよさそうだ。そのまま班員を連れて向かう。


そこそこの距離はあるので撤収されていても無理なからぬと考えていたが、見知った狼たちは座り込んでこそこそ喋っていた。火を掲げて挨拶する。「こんにちは狼さんたち」


「ハロー」


笑っているのか何なのかよくわからない顔で応じてきた。居ると思っていた三番狼である。


「聞いてたよ。街で二番に会った」

「なんだ……二番はなんて」


大した話はしていない。首をぐるっと回して何を言われたか思い出してみる。


「あんた趣味が悪いって」

「良いと言われる心当たりがない」


私もそう思う。いい彼氏が魔界に堕ちているわけないだろう。

ピクシーが耳元で知り合いか尋ねてきたのでそうと答えて仕切り直す。あまりいちゃついていたのでは、態度減点の恐れがある。


「ルート外れちゃったから場所教えてよ」

ん、と返事は可でも不可でもない。目を閉じて「んん」と渋っている。

「対価は何」

「おい、減るもんじゃなしケチくさいぞ」

「心を」


急に何をふざけているのか。らしくない、わけではないが、勤務中に戯けるのは珍しい。


「常に無償の愛を捧げてませんかね」

「違う違う」

なぜか鼻で笑って首を振り、

「けがれた魂を一つ」


承前のやりとりを意趣返しする、いかにも彼がやりそうなことだ、ところがずっと違和感を帯びている。

私は頭上に掲げた火を、三番の前に差し出した。

反射的にしても素早く仰け反り、


「急になんだ」

「そうだよねえ」


そりゃあ数百メートルを照らすよくわからない火なんかヒトに向けるものではないし、私も極力、彼に火なんか向けないで暮らしてきた。誰でも。

火を退けてから、はたと周囲の方で違和感に気がつく。八番はどこだ。


あまり顧みていなかった背後へ振り向く。想定外とすべきか、八番はいつの間にか私たちの背後に回っており、そのうえペンギンを羽交い締めしているところだった。文字通り。大した物音も立てずあの凶暴なペンギンを捕縛しているのはさすがに近衛兵ということか。


「なぜペンギンを?」

一番の疑問点なので真っ先に尋ねてみたが、答えようとして「うーん」と唸っているのも想定外である。不意を突いてペンギンを捕まえたのだろうに、なんだか悠長だ。


「ご存じない?監獄『白熱の火炉』から脱獄したてホヤホヤのド注意ペンギンの話を」

「知らない」


返答してから、いや、新聞で見たと思い出す。新聞沙汰になるような凶暴ペンギンであったのか。しかしいくら新聞にマグショットが掲載されていたといってもペンギンの顔など見分けがつかない。


「ここは地獄とて、王命で捕らえられていた脱獄犯なので」

「このペンギンを追って来てたり?」

「いやいや、そんなそんな」


ペンギンがバタついているが八番はびくともせずいつも通り朗らかに話している。話しすぎだろうと思っているとやはり、三番が制止をかけてきた。


「行くぞ八番」

「行くぞって、狼さんたち、ペンギンをどうするの」

「貴様らチームメイトを種族名で呼んでんのか?」


三番が片眉を上げて呆れているのは結構今更だが、彼が無口なのと秘密主義が多いのと、それで都合がよかったに過ぎない。


「『こちら』で身柄拘束させてもらうに決まってるだろう、管理局にも通してある」


無言でバタつくペンギンと目を合わせる。彼がいなければ諸々のボーナスはなかったであろう。

あまり飲み込めていない班員たちに彼らが魔王麾下の近衛兵隊でペンギンは新聞に載ってた脱獄犯だと伝えると、「あ~見たかも」などと言いながら魔王軍相手では従うだけだよね~という雰囲気になる。もとからペンギン一羽のために反抗するような絆は結んでいないと思うが。


「じゃあ……ここでお別れだね……」

「さいなら」

「バーガー差し入れするよ」


狼はどういう関係値なんだと言いながらペンギンにペンギンサイズの拘束具を嵌め、本当に去ろうとするところに待ったをかける。


「道を教えろっての!」

「ああ」


彼は八番、と指示して、八番は「うちらはね、位置情報管理システム使わせてもらってるからね」とか言いながら私のアナログ地図に印をつける。


「どうもありがとね。八番」

「このくらい、いいでしょ」

「二番も」


一瞬沈黙の後、「なぜ?」とその三番の顔から返答。


「カマをかけたんだけど、それなら図星だね。さすがに三番本人だったら『あ?』しか言ってくれないからな」


おそらく二番狼の返答語彙に「あ?」はなかったのだと思われる。八番と顔を見合わせて「そうなのか」「はい」とかすり合わせている。


「油断を誘うのに知り合いの顔がいいだろうと、少しばかり手慣らしを兼ねてやらせてもらった。私は『そういうシェイプシフター』で、ゆえに近衛兵隊である」


二番の、低い女性の声で応じてきた。そういうシェイプシフターと言われてもわかっていないのだが、とりあえずで頷く。


「どこで分かった?」

「いや、そう言うとずっとらしくなかったような」

「厳しいな」「きっとモノマネ芸人みたいなもんで、それっぽい発言感を出しすぎている」「厳しいな……」「っていうか拳銃持ってきてないでしょ。それは絶対ないね」「貴様も今気づいたのだろう」


やいやい採点をしていたら逆に八番が「そこまで」と止めてきた。二番も普段はスパイ活動に使用しているであろう能力で、よく知った同僚に化けてその場でバレたのは悔しかったに違いない。瑕疵があったとすればその慢心であろう。

「じゃあ三番によろしく」

ペンギンが抜けた穴をどうするか私たちは考えないといけないが、ひとまず今日はノルマを最低限こなすべきだろう。八番につけてもらった印を頼りに、もとのルートへ戻って労働を再開した。

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