第15話 炎の支配者

ガルドと名乗る青年は宿屋の外に集まった群衆に向けて手を挙げた。

「おい。お前たち。危険だから下がっていろ。邪魔だからな」

その言葉と共に彼の体から赤い光が放たれると群衆は一斉に逃げ出し始めた。

「さて……これで存分に楽しめるな」

ガルドは楽しそうに笑いながら指を鳴らす。すると彼の周りに無数の炎の槍が浮かび上がった。

「くっ……みんな!構えろ!」

レティシアの叫び声と共に全員が武器を構えた。

「炎獄弾!」

ガルドが手を振ると数十本の炎の槍が宿屋目掛けて飛来した。

「させません!」


ノヴァが翼を広げ巨大な氷の壁を生成する。しかし炎と氷が激突した瞬間爆発的な蒸気が立ち上り視界が遮られた。

「今だ!攻撃開始!」

レティシアが号令をかけると同時にフィオネの矢とアッシュの大斧がガルドへと向かう。

「甘いな」

しかしガルドは片手でそれらを薙ぎ払ってしまった。その腕は高熱を帯びており触れることすら出来ない。

「なんてパワーだ……」

航希が驚嘆の声を漏らす中ハルトが冷静に分析した。

「彼は火属性のエキスパートだ。直接攻撃は難しいかもしれない」

「ではどうすれば……」


航希が指輪に意識を集中する。新たな図形が浮かび上がり直感的に理解した。

「水属性の力を使えば……」

「出来るのですか?」エルミナが不安そうな顔をする。

「試してみるしかない!」

航希が両手を前に突き出すと指輪が輝き青白い光の球体が形成されていく。

「バブル・シールド!」

航希の叫びと共に無数の泡がガルドを取り囲んだ。それらは炎の槍に触れると同時に蒸発し煙幕を生成した。


「小賢しい技だな」

ガルドは苛立ちを露わにするがその隙にレティシアとアッシュが肉薄した。

「雷鳴斬!」

レティシアの刃から紫電が放たれガルドの体を貫いた。しかし……。

「それがどうした?」

ガルドは全くダメージを受けていない様子でレティシアを蹴り飛ばした。

「ぐっ……!」

「レティシア!」


航希が駆け寄ろうとするが次の瞬間ガルドは天に向かって両手を掲げた。

「炎獄解放……焼け尽くせ!」

その言葉と共に空から降り注ぐ無数の火の玉。それらは次々と地面に着弾し爆発を引き起こした。

「ノヴァ!最大防御だ!」

航希の命令で銀色の竜が光り輝くシールドを展開した。しかし連続する爆発の威力は凄まじく少しずつ亀裂が入り始めていた。

「このままでは全滅だ……」


フィオネが唇を噛みしめる。その時……。

「航希さん!彼の弱点を見つけました!」

ハルトが叫ぶと同時に手帳のようなものを投げてくる。それを受け取った航希は急いでページを捲った。

「ガルドの弱点……それは……」

航希は息を呑んだ。そこには意外な事実が書かれていた。

「彼は左膝に致命的な損傷を持っている?そんな馬鹿な……あれだけの力で……?」

疑問に思いつつも航希はチャンスだと感じた。そして素早く皆に作戦を伝える。

「アッシュさん。ガルドの注意を引いてください。レティシアさんは左側から攻めて欲しい。そして……」


航希が指輪に意識を集中すると新たな図形が浮かび上がる。それは先ほどよりも複雑で繊細なものだった。

「エルミナさん。フィオネさん。合わせてくれ!」

航希の合図と共に三人はガルドに向けて同時攻撃を仕掛けた。

「雷槍!」

エルミナの杖から放たれた稲妻がガルドの右半身に命中する。

「風刃!」

フィオネの矢が超高速で左半身を掠める。

そして—

「ハイドロ・カッター!」


航希の掌から放たれた水流が弧を描きながらガルドの左膝を目掛けて飛翔する。

「な……なんだと!?」

初めてガルドの顔に焦りの色が浮かぶ。そして次の瞬間……。

パシャーン!

水の刃が左膝に接触した瞬間赤い液体が迸った。それは血ではなく何かの油のようなものだった。

「しまった……!」

ガルドが後退しようとするが既に遅かった。アッシュの斧がその隙に脇腹を捉える。

「ぐぉぉ……!」

痛みに苦しむガルドの姿を見るのは初めてだった。

「今だ!全員で畳み掛ける!」

レティシアの号令で全員が力を振り絞る。連続攻撃を浴びせ続けるうちにガルドの体からは徐々に力が失われていった。

「おのれぇぇ……!」

最後の抵抗として火球を放とうとしたガルドだがその手が途中で止まる。

「くそ……こんなところで……終わるわけには……」

彼の瞳に絶望の色が浮かぶ。そして……ゆっくりと地面に崩れ落ちた。


静寂が訪れる。ガルドの体からは完全に生命の鼓動が消えていた。


「勝った……のか?」アッシュが呆然と呟く。


「ああ。間違いない。倒したんだ」

航希が安堵の息を吐く。しかしすぐに緊張が走った。


ガルドの体から黒い霧が立ち上り始める。それは先程までの炎とは全く異なる冷たく禍々しい雰囲気を持っていた。


「これは……」

航希が警戒する中レティシアが前に出にでた。



「次はどんな敵が出てくるんだ……」

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