第16話 炎獄の余韻
ガルドの肉体が消滅すると同時に現れた黒い霧。それは空中で渦巻き次第に人の形へと変わっていった。
「ほう……ガルドを倒したのか。流石だね」
新たに姿を現したのは黒髪に緑色の瞳を持った青年だった。その顔つきは美しくどこか知的さも感じさせる。
「貴様……七死司祭の一人か?」
レティシアが厳しい表情で問いただす。
「その通りだ。僕はイグニス。『暗影の賢者』と呼ばれている」
イグニスは軽く礼をしてから冷笑を浮かべた。
「だけど……残念ながら今日は戦うつもりはない」
その言葉に全員が困惑する。
「どういう意味だ?」
航希が問い詰めるとイグニスは肩をすくめた。
「言葉通りさ。今の君たちの力を見るだけで満足なんだ。それに……僕にはまだ準備がある」
そう言い残すと彼の体は再び霧状になり虚空へと消えていった。
「なんだったんだ……?」
アッシュが首を傾げるが誰も答えられなかった。
。ただ一つ確かなことは七死司祭はそれぞれ独自の目的と手段を持っていること。そして彼らが全員揃えば計り知れない脅威となる可能性が高いということだった。
その後しばらく休息を取った航希たちは改めて今後の対策を話し合うことにした。
「とりあえずレイナとガルドを倒したことであと五人になりました」
ハルトが資料を確認しながら説明する。
「残りの司祭たちについて分かっていることは少ないですがこれまでの行動パターンから推測できることがあります」
彼の話によれば各司祭には特徴的な魔法や能力があり単独での戦闘力も極めて高いという。
「問題は……彼らが同時に動いているのか個別に活動しているのかということです」
ハルトの懸念に航希も同意した。
「確かに……もし彼らが協力して動くようになったらかなり厄介だな」
「それだけでなく……七死司祭の上に立つ存在も気になります」
レティシアが重々しい口調で言う。
「確か……『終焉の王』という者でしたね」
エルミナが記憶を辿るように呟く。
「そうだ。深淵教団を統べる最高指導者……その力は未知数だが恐らく七死司祭の比ではないだろう」
レティシアの言葉に全員が沈黙する。
その時宿屋の外から賑やかな声が聞こえてきた。
「あれ?何だろう?」
フィオネが窓を開けるとそこには小さな行列ができていた。
「おーい!旅の吟遊詩人が来たぞ!」
村人たちが集まり楽しそうに歌を聴いているようだ。
「こういう時こそ民の心を勇気づけることが重要ですから」
エルミナが優しく微笑む。
「そうだな。俺たちだって休憩は必要だ。少し様子を見てみようか」
航希の提案で全員で外に出ることにした。
宿屋を出ると暖かな日差しが差し込み人々の笑顔で溢れていた。中央では金色の髪にエメラルドのような瞳を持った女性が美しい歌声を披露していた。
「綺麗な声ですね……」
フィオネが感嘆の声を上げる。
「あれは……リリア?いや違うか」
航希が目を凝らすとその吟遊詩人は以前会ったリリアとは似ているようで別人だと気づいた。
「初めまして。私はアメリアと言います。旅の吟遊詩人です」
近づいてきた航希たちに彼女は穏やかな微笑みを向けた。
「こんにちは。素敵な歌ですね」
エルミナが丁寧に挨拶する。
「ありがとうございます。この村の人々はとても親切で嬉しいです」
アメリアは嬉しそうに答えると何かを感じ取ったような表情を浮かべた。
「あなた方……特別な使命をお持ちですね」
その言葉に航希たちは驚いた。
「なぜそれを……?」
レティシアが警戒心を露わにする。
「私の歌声には人の心を探る力があります」
アメリアは淡々と説明した。「あなた方が戦っている相手……それは普通の敵ではありませんね」
「深淵教団のことか……?」
航希が尋ねると彼女は頷いた。
「ええ。そして……あなた方は七つの災厄に対抗しようとしている。違いますか?」
その洞察力に全員が驚きを隠せなかった。
「どうしてそこまで分かるんですか?」
ハルトが興味深そうに問いかける。
「私の一族には古来より予言者の血が流れています。私はその力を少し受け継いでいるんです」
アメリアは静かに語ると航希に向き直った。
「あなたには大きな運命が宿っています。しかし……同時に多くの悲劇も招く可能性がある」
その言葉に航希の胸がざわついた。
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