第3話「月下の執行人と血の渇き」
「――その“いいモノ”とやら、詳しくお聞かせ願えるかしら」
俺の静かな問いに、男の顔が恐怖に歪む。
掴んだ腕から伝わる骨の軋む音に、他のチンピラ共が怯えているのが分かった。
(さて、ヒアリングの時間だ。穏便に、だが確実に情報を引き出す。営業の基本だな)
俺は男の瞳をじっと見つめ、意識を集中させる。
「あなたたちが狙っているような子たちは、どこにいるのかしら?」
優しく、しかし抗いがたい力(ちから)を言葉に込めて尋ねると、男は虚ろな目でぽつりぽつりと話し始めた。
「……広場に……いつも溜まってる……家出してきたようなガキが……」
「そう。ありがとう」
俺は男の意識を刈り取ると、その場を静かに立ち去った。
まずは情報収集だ。
今の俺には、この街の地理も、闇のルールも分からない。
俺が向かったのは、煌びやかな大通りから一本外れた広場――
いわゆる「東横キッズ」たちが集まる場所だった。
彼ら彼女らは、この街の光と闇の境界線にいる。
きっと何か知っているはずだ。
「少し、話を聞かせてくれるかしら」
最初は警戒していた少年少女たちも、俺がその瞳を覗き込み、穏やかに語りかけると、堰を切ったように話し始めた。
最近、仲間が何人か行方不明になっていること。
最後に目撃されたのが、怪しい男に声をかけられて雑居ビルに入っていくところだった、と。
礼を言ってその場を離れ、教えてもらった雑居ビルへと向かう。
ネオンの光も届かない路地裏に立つ、古びたビル。間違いない、ここだ。
俺は躊躇なくビルの裏口を蹴破った。
地下の空きテナント。
そこには、檻に閉じ込められた少年少女たちと、それを囲む数人の男。
そして、その中心に立つ、他の連中とは明らかに格の違う、痩身の男がいた。
こいつがアジトの責任者か。そして、別の記憶があの男は吸血鬼だと警鐘を鳴らす。
俺は一瞬で距離を詰め、部下たちを蹂躙する。
関節を外し、意識を刈り取る。悲鳴を上げる暇も与えない。
「お前は、まさか、九条の犬か」
(九条?誰だ?そう思った時に記憶が流れ込む)
「九条さんの名前を知っているという事は、あなたは吸血鬼ね」
部屋の奥にいた痩身の男――吸血鬼――が、赤い瞳を俺に向けた。
俺は檻の鍵を破壊すると、震える少年少女たちに告げた。
「今のうちに逃げなさい。ここは私に任せて」
少年少女たちが駆け出して行く。
それを見て、吸血鬼は忌々しげに舌打ちすると、凄まじい速度で窓から逃走を図った。
「逃がさん!」
俺は後を追おうとすると、吸血鬼の男は落ちていたフォークを拾って、逃げていく少年の一人に投げた。
フォークがまるでダーツの矢のように、少年の右肩に刺さり、態勢を崩した。
俺は、慌てて、少年を庇う位置に移動すると、吸血鬼の男はにやりと笑って、逃げて行った。
「くっ……!」
俺は追跡を諦め、少年に駆け寄った。
「大丈夫?」
私は肩に刺さった、フォークを抜き、傷口にハンカチを当てた。
「う、うん……ありがとう、お姉さん」
少年は、痛みに顔を歪めている。当てたハンカチが赤く染まる。
その瞬間。
ツン、と鼻腔を刺す、濃厚な鉄の香り。
俺の喉が、ゴクリと鳴った。
まずい。
喉の奥が燃えるような、猛烈な渇きが襲ってきた。
――血が、欲しい。
目の前の、助けるべき存在が、“ご馳走”に見える。
俺は歯を食いしばり、少年から視線を逸らした。
「……立てる? 肩を貸すわ」
声を震わせながら少年を立たせ、他の子供たちと共にビルの外へ出す。
「もう大丈夫。まっすぐ帰りなさい」
彼らの姿が見えなくなると同時に、俺は壁に手をついて崩れ落ちた。
渇きが全身を支配する。理性が焼き切れそうだ。
俺はふらつく足で自宅へと戻る。
冷たい夜風が肌を撫でる。だが、渇きは収まらない。
どうすればいい――そう思った時、俺は無意識に窓から空を見上げていた。
雲間から差し込む、清らかな月の光。
なぜか、その光に焦がれるような感覚があった。
俺はスーツのジャケットを脱ぎ、月光がその身に降り注ぐまま、目を閉じた。
月の光が、肌から浸透してくるような、不思議な感覚。
燃えるようだった喉の渇きが、少しずつ、少しずつ癒されていく。
血を求める本能が、静かな光によって鎮められていく。
「……なるほどな」
これが、吸血姫(おれ)の生き方か。
敵は取り逃がした。助けきれていない少女もいる。
だが、今はただ――。
俺はしばし、月光の優しい愛撫に身を委ねていた。
もしかして、全身、月の光を浴びた方がもっと効率がいいんじゃね?
いつもの下心が浮かぶ。この時点では頭痛はこない。よっしゃ、セーフ。
頭痛が来ないか、びくびくしながら、上空の月を見つめながら、カットソーと、パンツを脱いで下着姿になる。
俺は恐る恐る、視線を自分の身体へと、下していくと———
おい、前より、モザイクの範囲広がってねえか?なんも見えねえ
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この作品は師旅煩悩という作品のスピンオフです
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