第八章 再び遺跡探索 (2)

 探索隊は初聖遺跡の大門の前に来た。初聖遺跡の門は、地表から突き出した三角形の建造物だ。ファンが前に出て、手を門に添え、「付与」の魔力を放つと、門板は三方向に滑るように開いた。


「謎解き、いらないのか?」ウェリスは驚いて言った。初聖遺跡なら最難関の門の謎があると思っていたのだ。


「来訪者が解けなかったら困るってことか?」ディワンは言った。「こんなに人の進入を歓迎する遺跡、初めて見たな」


 門の内側には、下方へと続くらせん状のスロープが伸びている。通路の両脇の壁には、彼らの進行に合わせて青い灯が点灯する。彼らは酸素マスクを装着して進んだ。


「この調子だと、専門知識がなくても記憶方塊が取れてしまうかもしれん」ディワンが言った。


「だから聖兵には、内側まではパトロールさせていないのでしょうな」デベが言った。遏令アツレイが隠しておきたい秘密を、聖兵がうっかり持ち出す可能性があるからだ。


「ってことは、ここでは敵に遭遇する心配はなさそうだね」ファンは機械馬に乗り先頭を進みながら、銃口を下げている。


 ディワンは犬の腹を脚で軽く締めた。犬は小走りでファンを追い越し、隊の先頭へと進んだ。


 ディワンは前方を見渡した。


 青い灯がスロープの下へと順に点いていった。その先にあるはずの外環居住区──無数の住居が並ぶはずの場所──は存在せず、そこにはただひとつ、巨大な広場が広がっている。


 広場の床一面には、数百機はあろうかという四足の機械兵が並んでいる。


 広場の青い灯がともると同時に、機械兵たちは重い足踏みの音を響かせ、赤く光るレンズで探索隊を見据えた。


「銃はここに置いていこうぞ」ディワンが言った。「下で暴発なんてしたら、たぶん生きて帰れないぞ」敵に遭遇しても、機械兵の陰に隠れて戦わせればいい。


 全員がその案に同意した。


 犬たちは機械兵の群れに怯え、広場へ足を踏み入れようとしなかった。探索隊は銃と犬をその場に残し、機械馬二台のみを連れて広場の奥へと向かった。


「記憶方塊の運搬に使えるな」そう言ってディワンは、クレーンなどの装備を機械馬の背に積み替えた。その一方で、ここまで特異な構造を持つ遺跡なのだから、そもそも記憶方塊が存在しない可能性もある、と心で思っている。


 機械兵たちは左右へと身を引き、探索隊に通路を空けた。


「機械兵って、破壊行為を防ぐためのものよね? 上古人って、ここにあるものが後世の人に壊されるって予想して、それで守るために、こんなにたくさんの機械兵を配置したのかな?」ドフヤが問いかけた。


「たぶん、君の推測は正しいよ」ユーロが答える。「実際、遏令もここの情報は人に知られたくないと思ってるだろうしね。今日は、何があっても真相を掴んで帰る」


「門番が見えた。位置が違うな」ディワンが言った。


 機械兵の海の向こう側、第二の門の前には、二体の巨大な獅子身人面の機械獣が立ち塞がっている。


 探索隊は機械獣の前で足を止め、いつものように問いかけを待った。だが、機械獣は何も言わなかった。


 ディワンは機械獣の顔を見上げて言った。「目が閉じてる。直接通ろう」


 巨大な機械獣の体には、無数の機械人が取り付いていて、機械獣の損傷箇所を修復している。その傷は、銃弾や砲撃によるものと思われる凹みだ。


 ファンが第二の門に手を伸ばした。今回は魔力を意図的に放つことなく、門は自然に開いた。


「この門、軽いぞ。必要な魔力がほとんどない。誰でも開けられるかもしれないな」ファンが言った。


「本当に、誰でも入れるんです」デベの声がわずかに震えていた。教皇が命をかけて守れと言った、穢れた罪人に触れさせてはならないとされた神聖なもの、その実態は、誰にでも分け与えられるべきものだったのだ。


「外環居住区はもうなかったし、中環の工場も農場もないんだな」ウェリスが小さくつぶやいた。


 門の先には分かれ道のない長い廊下が続いている。壁の両側に並んだ青い小型灯が一斉に点灯し、通路の奥にある第三の門へと探索隊を導いている。


 第二の門を通過した瞬間、探索隊は「ブン」という音を聞いたような気がした。目に見えぬ圧力が、彼らを包み込んだように感じられた。


 そして、機械馬の動きが次第に鈍くなり、ついには完全に停止した。搭載されている灯りも消えてしまった。


 ファンは足を止め、機械馬の様子を調べる。


「壊れたのか?」ディワンは緊張しながら尋ねた。不要になった機械体を寄せ集めて作ったからか?


 デベも慌てて機械馬を確認した。彼は体重が重く、犬には乗れない。機械馬がないと困るんだ。


「壊れてない。こんなの初めてだ。魔力が消えた」ファンが機械馬に「付与」の魔力を大量に流し込むと、灯りは再び点いた。しかしそれもすぐに暗くなり始めた。灯りが消える前に、ファンは機械馬たちを急いで第二の門の外に戻した。


「こいつらは中に入れられない」ファンが言った。「この部屋、何かおかしい」


「了解」ディワンが深くため息をついた。「なら、もう人力で運ぶしかない。行こう!」






 第三の扉も、触れただけで開いた。彼らは最後の部屋へと足を踏み入れた。


 空気の成分は正常だった。皆がマスクを外した。


 最後の部屋は、一般的な遺跡の核心室に似ている。青く半透明な壁と天井から光が漏れている。床も同様に発光しており、下には工場がなかった。


 ディワンは心の中で思った。やっぱり、ここには記憶方塊はなかったか。


 部屋の奥の階段の上には、本来そこにあるはずの光球はなかった。代わりに、三体の機械人がいる。中央には王のような存在が玉座に座り、入口の方を向いている。その背後左右には、護衛のような二体が立っている。さらに彼らの後ろと壁際には、大量の四足機械兵が並び、赤く光る目で来訪者を見つめている。


 機械人の背後の壁には、壁一面に広がる巨大な壁画が描かれている。


 彼らの誰も、階段の上にいるあのような機械人を見たことがなかった。


 一般的な機械人は、人類の四肢と頭部と胴体に対応する構造を持つだけの存在だ。手は人の手ではなく、物を掴める金属の爪。足は人の足ではなく、車輪と関節のついた伸縮棒。顔は人の顔ではなく、複数のレンズを埋め込んだ球体……機能重視の金属外装には、個体を識別できるような特徴は何一つない。通常の機械人は服を着ていない。人々は機械人に自分で作った服を着せたり、帽子をかぶせたりして、少しでも特別に、少しでも人間らしく見せることを好む。


 しかし、ここにいる機械人たちは、細密な金属の糸で織られた衣装を身にまとっている。ディワンはその服装を知っている。中央の機械人が着ているのは、上古人のズボン姿の普段着に、白い実験用ローブを重ねた服。両脇の二体は、上古人の警備服を着ている。彼らの外見は、人類に近づけるために細部まで作り込まれている。服の袖から伸びた手は、五本の指がついた人類のような形で、金属爪ではない。顔も滑らかな金属の球体ではなく、人類の彫像のように五官が造形されている。中央の機械人の顔には、ほんのりとした微笑まで浮かんでいる。


 彼らは、皆、上古人の体型だった。


 中央の座る機械人は女性型で、繊細な金属の糸で短髪が再現されている。その厳かながらも優しい表情は、皆を導いて歌う多産神廟の司祭を思わせる。それは、人々に信頼され、大きな役割を担う者だけが持つ表情だ。


 後方に立つ二体の銃を手にした機械人は男性型で、その髪は女性型よりもさらに短く、頭皮に沿って刈り込まれている。彼らの表情に怒気はないが、宝を守る者としての威厳が漲っている。


「これは、上古人の女王とその護衛なの?」ドフヤが尋ねた。


「わからない。ここにあるものは、すべて予想外だ」ディワンは首を振った。


 ディワンが先頭に立って進むと、上古語の音声が響き始めた。


「識別:人類。第一記憶庫へようこそ。識別:六名。心電感応伝達システムを起動します」


 機械の女は手を上げた。まるで主人が客を迎えるかのように、手のひらを上に向けて彼らへ差し出す仕草だ。続いて、その体から女性の声の上古語が発され始めた。「未来の人類の皆さん、ようこそ。あなたたちの言語はすでに変化しているかもしれません。そのため、私の言葉が理解できない可能性があります。それでも、私の想いを伝えようと努めます。私はあなたたちを傷つけるつもりはありません。どうか、協力してください。私との意思疎通の方法を学んでください。恐れないでください。これは、あなたたちを害するものではありません」


「手を握れってこと?」ドフヤが尋ねた。彼女は上古語は理解できないが、機械の女の声には敵意がないことだけは感じ取れた。


「協力しろって言ってたんだし、何か指示があるんじゃない?」ユーロが言った。


「物理化された心電感応波動を受け入れてください」機械の女は言った。


 彼女が差し出した手のひらに、青い光の球体が浮かび上がった。


 それは記憶核心のように見えた。ただ、少し小さい。ディワン、ユーロ、そしてウェリスがそれを目にすると、すぐに歩み寄って光焰との接続を試みた。


 だが、光球は突然まばゆく光り、六本の長い光焰を伸ばして全員に襲いかかった。


 ディワン、ユーロ、ウェリスはすぐに打たれた。


 ファンはドフヤを引き寄せようと手を伸ばしたが、ふたりとも光焰に撃たれた。


 デベは後方へ跳んだが、光焰は彼が立っていた場所に先に撃ち込まれ、すぐに向きを変えてデベを追い、命中させた。


 光焰は彼らと記憶核心を接続した。そして彼らは、存在しない声を耳にした。言語は上古語だったにもかかわらず、ドフヤ、ファン、デベも含む全員が、その意味を理解することができる。


「皆さんが今体験しているのは、心電感応による通信方式です。この通信方式は言語を使うものとは異なり、意念を直接あなた方に伝えるものです。言語の壁を乗り越えることができます」


「つまり『読取』の魔力ってことか」ディワンが眉をしかめて 言った。


 ただし、この記憶核心に必要な魔力は極めて少なく、ドフヤですら読取が可能だった。


 光焰はディワンの腕に絡みついている。彼は腕を揺らしてみる。すると、その手の動きに合わせて、光焰もふわりと動いた。


 どうやら、光焰は彼らに絡みつく気でいるらしい。


 存在しない声が語り続けた。「自己紹介をさせてください。私は、あなたたちよりもずっと昔の時代に生きていた人類です。あなたたちがこの場所に到達した時点で、私はすでに長い年月を経て亡くなっています。私の過去については、今は問い詰めないでください。それらのことは、いつか必ずあなたたちにも分かる時が訪れます。


 あなたたちが今、どの程度の技術を持っているのか、私には分かりません。ですが、私の時代よりも後退している可能性が高いと推測しています。この場所の入口を見つけたとき、見慣れない素材に驚いたかもしれません」


「別に驚かないよ。その素材はぼくたちもよく使う。ただ、同じ扉を作るのは難しいけどね」ウェリスが言った。


「ここへ来るまでの道中で、あなたたちはさまざまなものを目にしたでしょう。


 それらは、おそらくあなたたちの技術水準を超えているものです。そして、もしかするとそれらは神によって創られたものだと思ったかもしれません」


「僕たちはそう思っていません。ただ、そんな嘘を広めようとしている人はいます」デベが言った。


「あなたたちに伝えたいことがあります。これらのすべては、人類が創り上げたものです。神とは一切関係ありません。あなたたちにも、同じことが可能です。今、どうすればそれが可能になるのかを伝えましょう」


「この人、私たちが基本的な機械蛾も作れないと思ってるんじゃない?」ユーロが言った。「たしかに、作れないものは多いけど、思ってるよりはずっとすごいんだからね」


「私たちは、各地に『記憶庫』を建設しました。あなたたちが記憶庫の扉を開き、中へ入れば、そこで私たちの技術を学ぶことができます」


「遺跡のことだな」ファンが言った。


「あなたたちは、先ほど心電感応能力を使いました。それは、記憶庫にある情報を得るために欠かせない能力です。この感覚に慣れてください。そして、自ら接続を起こす訓練をしてください。今から、接続をいったん解除します。あなたたち自身で、再び接続してみてください」


 光焰が消え、ディワンはすぐに光球へと近づき、再び接続した。


 存在しない声が語り続けた。「よくできました。では、もう一度」


 ディワンが接続した光焰は、再び消えた。彼はいら立ちながらもう一度接続した。


「何これ、幼稚園の授業か?」ディワンがぼやいた。


 記憶光球が六本の光焰を放ち、全員と再び接続した。


「記憶庫に入り、私たちの技術を得るには、念動力も使えるようにならなければなりません」機械の女がもう片方の手を持ち上げた。彼女の手のひらには、小さな機械蛾が乗っている。「念動力の使い方は簡単です。どうぞ蛾に触れて、蛾が空を舞い上がる様子を思い描いてみてください」


 ファンが眉をひそめ、数歩前に進んで機械蛾に触れて「付与」の魔力を放つ。蛾は瞬時に跳ね上がり、部屋の中を高速で円を描いて飛び回っていった。


 存在しない声が語り続けた。「もう一度」


 機械蛾は床へ落ちた。


「ほんとに、私たちが何もできないと思ってるんだね」ユーロが言った。


 ファンは、機械の女に言われた練習を丁寧にこなし、蛾を指定された方向へ飛ばそうとしている。


 暇すぎて、ディワンの意識は機械の女性の背後にある壁画へと移った。しばらく見つめていると、それが普通の壁画ではないことに気がついた。「なあ、あれ、遺跡の分布図じゃないか?」


 ユーロとウェリスが目を凝らして確認する。


 それは確かに地図だった。上古人式の記法で描かれてはいたが、主要な山脈や河川の位置は明確で、現在の地形図と照らし合わせることができる。地形に若干の違いはあったものの、照合の結果、ユーロもウェリスも肯定的な結論を出した。


「そうね。数字が添えられた小さな点は全部、遺跡の所在地よ。数字は遺跡の番号ってところかな。私たちがまだ知らない遺跡が、かなりの数あるみたいね。この地図、暗記するわ。だんなも覚えておいて。帰ったら照合しましょう」ユーロが言った。


「番号がわかれば、扉の開放ももっと早くなるだろうね」ウェリスが言った。


 災厄研究会では以前から、遺跡番号と扉を開ける際の課題の難易度には関係があると気づいていた。番号が小さいほど難易度が低い。ただし、遺跡番号は内部に入らなければ判明しない。


「ここが『1番』ってことは、もしかして、この場所が始まりなのかも。もともとはここから順番に、番号に沿って遺跡を開けていく仕組みだったんじゃない?」ユーロが言った。


 ディワンは目を見開いた。その推測は理にかなっている 。そして、ここに簡単に入れた理由も説明がつく。


 この場所はもともと、後世の人々が“最初の一歩”を踏み出すために作られていた。ここで興味を掻き立て、他の遺跡への挑戦へと導く。それが本来の意図だったのだろう。


 だが、実際には現代の人々が偶然どこかの遺跡を開け、その中にあった技術に惹かれ、他の遺跡をどう開けるかを夢中で研究し始めた。そして、“始点”には踏み込むことなくという状況で、次々と他の遺跡を開け、その内部に眠る技術を学んでいったのだった。


「私の家、ここだよ」ドフヤは地図の上で、自分の生まれ故郷を探し当てた。そのすぐ近くには、遏令があった。


「ここが遏令です。そして、ここにも遺跡があります。たぶんこれは、大聖堂の地下にある終聖遺跡ですな」デベが遏令の位置を指さしながら言った。そこに記された遺跡のマークには数字がなく、代わりに四つのバツ印が描かれている。


「つまり、この地図以外に、オレたちの知らない情報って何もないか?」ディワンはそう思案した。けれど、この地図だけでも十分な収穫だった。


 ファンは、機械の女性から課された練習課題を終えた。


 存在しない声が語り続けた。「私の背後にある地図には、記憶庫の位置が記されています。順番に扉を開き、記憶庫へ入ることができます。扉の解除方法は、念動力によって鍵を開けることです。扉の形状は──」


 その瞬間、全員の眼前に、実際には存在しない光景が広がった。


 それは、遺跡入口の金属製プレートだ。彼らの視界には今いる部屋の風景もそのまま見えているが、同時に機械の女性が示した別の景色も重ねて見えている。


 三人の解析員はこうした感覚には慣れている。「読取」の魔力を使う時と同じ現象なのだ。ドフヤにとっては視覚の重なりが少々眩暈を起こすほどだ。


 存在しない声は、映像に合わせて、扉の解除手順を丁寧に説明し始めた。最も基本的な設計概念や、記憶方塊についての概要、機械人が仕える部屋の使い方なども解説された。


 そして、こう付け加えた。「次の謎を覚えてください。これは通過のための暗号です。『朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足で歩く。その動物は何か?』答えは『人間』です」


 存在しない声は、遺跡攻略の手引き を一通り 話し終えると、続けて言った。「記憶庫の内容は、皆さんの生活を改善するために役立つものです。これは私たち『未来機関』から、知識を求める人々への贈り物です。ぜひ、この贈り物を有効に活用してください。そして最後に、もう一つ大切な話があります──」


「ん?」ディワンは地図を記憶しながら、耳を傾けた。


「──『大死亡』についてです」


 ディワンは機械の女性の方へ顔を向けた。他の者も、同じように彼女を見た。


 それは、災厄のことなのだろうか?


「数十年ごとに、地球の人口が七十億に達すると、世界中でランダムに半数の人類が死亡します。身体に疾患はなく、突然死します。もしこの現象が、今もなお皆さんの時代に続いているのであれば──」


「数十年じゃない! 数年おきよ!」ドフヤが言った。


「彼女、人口って言ったか? ってことは、災厄の発生条件は人口に依存してるってことか?」ディワンが言った。


「地図上に、四つのバツ印が記された場所へ向かい、記憶庫へ入ってください」


 全員の視界に、目の前には存在しない映像が重ねて映し出された。それは、機械の女性の背後にある地図に描かれた四つのバツ印の場所だ。終聖遺跡のマークが、そこに見えている。


「核心室に到達したら、宝石に向かって『止まれ』と伝えてください。どんな言語でも構いません。それによって、『大死亡』は永遠に発生しなくなります」


 全員が、その言葉に凍りついた。


「それだけで?」ディワンが、呟いた。


「その記憶庫は、この場所と同じく簡単に入ることができます。そのまま最奥の部屋に進み、浮かぶ青い石に向かって『止まれ』と伝えてください。その場所には危険はありません。それに、医師までいるのです。言葉を伝え終えた後、さらにもう一つの部屋が現れます。その部屋では、私たちの時代に何が起きたのかを知ることができます。祝福を送ります。私の目が届かない未来で、人類がなお繁栄していることを願っています。これでメッセージを終了します」


 機械の女性は腕を下げ、光球と機械蛾を収めた。


 二秒間、沈黙が場を支配し、誰もが反応の仕方を見失っていた。


 そして、デベが最初に口を開いた。「終聖遺跡へ行きましょう。どうしても行かなくてはなりません」


「あっ……そうか」ディワンはようやく我に返った。「彼女が言ってたのは人口──つまり、災厄の発生頻度が加速度的に早まっているのは、人類の繁殖力が進化によって強まったせいなんだ」


「じゃあ、災厄の時期が早まったのは遏令のせいじゃないってことか。でも、じゃあ彼らはどうして人を殺してるの? 災厄が終わったばかりなのに、そんなやり方で時間稼ぎする必要なんてないはずよ」ユーロが言った。


「災厄が迫ってから殺し始めたんじゃ、間に合わないって思ったのかもしれない」ファンはうつむき、足元を見ながら口を開いた。「人口が七十億に達すると、ランダムに半数が死ぬ。そうなると、自分にとって大切な人が生き残るように、他の全員を殺してしまいたくなる気持ちも、そんなにおかしなことじゃない」そう言ってから、ファンはそっとドフヤに目を向けた。


「たった一言『止まれ』って言えばよかったなんて」ドフヤは歯を食いしばり、固く握った拳が震えている。泣きそうな気持ちを押しのけるほど、怒りの感情が膨れ上がっている。誰もその一言を伝えなかったせいで、ルルリは死んだ。その事実を隠し続けてきた遏令を、彼女は決して許せない。なぜそれを隠す必要があったのか、彼女は想像できない。


「帰ろう」ウェリスが言った。「これを、みんなに伝えないといけない」


「……ああ」ディワンは力強くうなずいた。


 みんなに伝えなければならない。今まさに 進行中のこの戦争。遏令を絶対に倒し、大聖堂を攻略する必要がある!

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