ROUND.12 二人で一緒に

「どうして委員長がここに……?」

「遊びに来たら、ブラカニのイベントやってるの見掛けたの。折角だから参加してみようかなって!」


 イベント……いや確かにイベントだが、委員長の思うようなイベントとはきっと違う。既に参加費500円を払って名前を書いたとの事で、俺は思わず低く唸ってしまった。


「うーん、イベントと言えばイベントなんだが……大会なんだよな、これ」

「えっ!? 大会!?」


 分かりづらいかもしれないが、と前置きして筐体の上の方を指差す。貼られたポップには、フリープレイ+2on2大会開催の旨が記されていた。


「ほ、本当だ……やだ私ったら、確認もしないで勢いだけで突っ走っちゃった……っ」


 両手を頬に添えて、委員長は顔を俯かせ気味にして恥ずかしそうに頬を赤らめた。

 いかん。俺としたことが委員長に恥をかかせてしまったか!? リカバリーを、早急にリカバリーをしなければならない! 返金処理をして辞退をすれば済む話かもしれないが、折角の行動力を失敗だのとは思って欲しく無いし、恥ずかしさから心が離れてしまっても悲しい。


 俺に出来る事と言えば、これしかない――!


「大丈夫だ、委員長。俺と組んで大会出よう」

「そんな! 私、まだ全然動かせないから、大会に出ても足引っ張るだけだよ!」

「大丈夫、大丈夫。ここの大会、大会って言っても和気あいあいとした雰囲気のモンだし、主催者さんの方針で初心者大歓迎なんだよ。足引っ張るとか考えなくて良いから、気楽に記念参加って事でどう?」

「……こんな初心者が伏見君と組んでて、他の参加者さんにおかしく思われないかな……?」

「それこそ安心してくれよ。ブラナイ勢はいつでも新規を歓迎している人ばかりだ。暖かい眼差しが待ってるってもんよ」


 これはブラナイ勢に限った話では無いのだが、新規プレイヤーというのは界隈に新しい風を吹き込んでくれる貴重な存在なのだ。まぁ、時折とんでもねぇ~人格破綻新規勢のせいで界隈がゴチャゴチャになることもあるが、これは新規勢に限った話ではないし、委員長に限ってはそれは絶対にないと断言できる。

 何よりも、大会は大会主催者さんの方針が絶対だ。

 故にこの場には、初心者を笑うようなプレイヤーは一人もいない。


「そこまで言うなら……ちょっと怖いけど、折角だもんね。参加してみるよ! それに……、伏見君となら安心かなっ!」


 委員長が安堵したように笑ってくれて、俺も一安心だ。

 いうて、俺が委員長の安心材料になれるのかどうかは甚だ疑問が残るが。


「うし。じゃあ、俺もエントリーしてくるわ。あ、因みに委員長、プレイヤーネームなんて名前で登録したんだ?」


 聞くと、委員長は少し照れたような顔を俺に向け、おずおずと口を開いた。


「思い浮かばなかったから取り合えず、委員長……にしておいたの」

「おっ、だったら普段通り、委員長って呼べるな」


 俺は本名そのままのフシミを名乗っているので、お互い普段通りに会話も出来そうだ。


「チーム名はなんか要望あるか?」

「チーム名? そっか、そういうのも決めなきゃならないんだね……! えぇと……どうしよう?」


 いきなりチーム名決めるってなったら、そりゃ困るよな。

 そうだなァ、と俺も考え込み、これはどうかと無難なものを口にする。


「委員長とフシミ」

「そのまんま過ぎるよ! 委員長アピールするのは流石に恥ずかしいかな……」

「そっか。じゃ、eスポ部出張版とかどうよ?」

「良いと思う! だけど私、部員じゃないのにeスポ部を名乗って大丈夫かな?」

「? 委員長、もう立派なeスポ部部員だろ」

「……! そっ、そっか! 大丈夫なら、うん! それでいこう!」


 委員長の許可を得たので、自身のエントリーがてらチームとしてもエントリーを済ませる。

 開始時間を二人で待っていると、エントリー締め切り時間ギリギリになって植田が姿を見せた。今日はチームを組めない事情を説明すると、二つ返事で了承してくれた。


「なんなら星ヶ丘ちゃん、オレと組もうよ! 優勝まで導くよォ!」


 適当に言っているように聞こえるが、植田の実力的に優勝は現実的な話だったりする。ちらりと視線を委員長に送ると、困ったように笑って首を横に振っていた。


「ありがとう。今日は伏見君と組むね! 植田君には、また次の機会に頼んでも良いかな?」

「もっちろーん! おい、伏見ィ! お前、オレを差し置いて星ヶ丘ちゃんと組むからには、ちゃんと勝てよ!」

「言われずとも、そのつもりに決まってる。お前は斡旋枠か?」

「それがさ~、今日、他に一人って人いないみたいだから、オレ一人二役になっちまったよ!」

「マジか。……それは流石に悪ィことしたな」

「まっ、ハンデとしてちょうど良いよね! オレ、強いから! んじゃっ、決勝で会おうぜ~!」


 豪快に笑いながら、植田は他の格ゲー仲間の元へと向かっていった。あの人懐こいお茶らけた性格と確かな実力で、植田はこの界隈では割と顔が広かったりする。

 なのにチームは必ず俺と組みたがる。不思議だ……。


「植田君、本当に一人で大丈夫かな?」

「大丈夫、大丈夫。お、トーナメント表が出てるな」


 運営サイドの人達によって、ホワイトボードに手書きのトーナメント表が張り出される。今どきアプリを使わずに手書きのトーナメント表を使うのは、主催者さんのこだわりなのだそうだ。今日の参加チームは全十六チーム。つまり三十二人ものプレイヤーがこの場に集まっている事になる。

 張り出されたトーナメント表に目を向けて、俺は自分のチーム名を探すのだった。

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