ROUND.11 群れの中の委員長

 それから週末までの三日間、委員長は毎日eスポ部に顔を出してくれた。

 休み時間にこっそりと、こんなに連続して部室に顔を出して支障は無いのかと尋ねると、委員長は今はブラカニがしたいのだと笑顔で答えてくれた。


「友達もみんな私の性格を知ってくれてるから、ブラカニにハマってるって言うと笑顔で応援してくれるんだよ」

「あー、あの、好きになったらとことんってやつ?」

「そう! 私ね、音ゲーもハマりたての時も、毎日譜面と睨めっこして、毎日ボタン連打してたんだよ」


 委員長が指先を動かすジェスチャーを交え、伝えてくる。


「そしたら一か月くらいで難しい曲も出来るようになって、やり過ぎ! って、ちょっと引かれちゃったんだぁ……」


 めそっと委員長がしょげる。

 音ゲーは守備範囲外だが、初心者が一カ月で難しい曲をクリアー出来るようになったら、そりゃビビられるのも致し方なしか……?


「まぁ、委員長がそれだけ音ゲーに向いてたんだろうな。難しいってどんくらい?」

「最大レベル50の内の、43だったかな」

「それは引かれてもしゃーねぇわぁ……」

「えーっ! 伏見君もそう言うの~!?」

「いや、だって、始めて一カ月の初心者が辿り着けるレベル帯じゃないだろ、それ」

「それは……毎日寝る時間とか削って遊んでたし?」


 バツが悪そうな様子に、当時の委員長が如何に無茶な生活をしていたかが伺い知れる。


「ま、あんまり根詰めすぎても上手くいかないのが格ゲーだ。ある程度、ゆるいほうが長続きすると思う」

「うん。ストーリーもまだ途中だし、まずはそっちを優先しているよ!」

「そっか。ま、メッセージでも伝えたけど、部室にはいつでも来てくれて構わないから。好きにトレモなりなんなりしに来てくれよ」


 今日はバイトで俺は行けないけれど、と付け足すと、委員長は眉を八の字にして小さく頷いた。その顔付きがまるで寂しそうに見えるのは、きっと不安だからだろう。俺抜きで過ごす、植田と茶屋ヶ坂先輩と一緒の空間というのが。


 俺というストッパーがいなければ、あの二人はどこまでも羽ばたくからな……勝手に。




 委員長に別れを告げて、学校を後にする。

 バイト中に考えていたのは、明後日の大会の事だった。

 明後日はゲーセンでブラカニのフリープレイ+オフライン大会が行われる。当然、俺と植田も参加する予定だ。前回の大会では運よく準決勝まで辿り着けたが、今回は決勝まで行きたい。


 ただ今回の大会は2on2で行われるという事なので、少しばかり不安もある。植田の野郎が寝坊してこないかどうかという点だ。まぁ、来なければ斡旋枠で登録すりゃいいだけだが、誰と組むことになるのか当日その瞬間まで分からないというのが、少しばかりの不安要素でもある。


 人付き合いが良いワケではない俺には、ゲーセンだけの友達というのは少ない。うーん……折角だから、少しくらいはコミュニケーション取ってみるべきか。でも、対戦が出来ればそれで困らないンだよなぁ……。


 そんなことを考えていたら、バイトの時間はあっという間に終わっていた。家に帰った後は、トレモと対戦に勤しむばかり。寝る間も惜しんで行う対戦は最高だぜ!




 学校が休みでバイトは夜から。なので、土曜日もバイトの時間まではトレモ対戦漬けで過ごす。

 行き詰ったら合間合間にアケモを遊んでシナリオを読む。キャラクターの背景を知ると、愛着が増すもんだ。今ではすっかりムツキの漢気に魅せられてしまっている。十二人の殺し合いに掛ける願いが、ヤヨイが化け物扱いされない世界の創生とかどんだけ愛が重たいんだコイツは……泣けるぜ。


 不意にスマホに目をやるも、今日は委員長からの連絡はまだ無い。いや、まだって言い方もおかしいな? 別に連絡を取り合う約束はしていない。何を期待してるんだ俺は……!? いかんいかん。集中集中。


 丁度アケモが終わったので、トレモに戻る。

 ちょうど癒し枠であるサツキのストーリーを堪能し、元気も出たところだ。(コメディチックに殺し合いを止める為に走り回る姿が描かれており、サツキがとにかく元気いっぱいで宜しい)バイトまではまだ時間がある。取り合えず、まずは苦手なキャラの苦手に感じる部分を克服する事から始めよう。画面端の見えない起き攻めとか、画面中央での表裏択プラス上中下段択とか本当に勘弁してほしい。


 そうして宣言通りにトレモに引きこもる。トレモにのめり込み過ぎてついうっかりバイトに遅刻しそうになるが、それだけ集中していたという事だ。良しとしよう。

 バイト先でも脳内シミュレーションはバッチリだ。作業的な仕事の時間が多いお陰で、考え事が捗るぜ。




 そして迎えた翌日。

 大会という事で、いつもよりも賑わう格ゲーコーナー。そこで俺は意外過ぎる人物の姿を目にするのだった。


「い、委員長……!?」

「あっ、伏見君!」


 格ゲーマーの群れの中、所在なさげに立ち尽くす委員長を見つけたのだった。

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