ROUND.13 初陣
トーナメント表の一番上。
つまり、いきなりの一試合目だということに息を飲む。
相手チーム『バナせばええんや』は大会常連の二人組、S木さんとヒロさんのチームだ。過去、本人達と対戦をした事があるが、どちらもバナしとは無縁の落ち着いたプレイスタイルを取ってくる強敵だ。
実力的には俺と五分と言えるが、五分だからこそ恐ろしい。
「委員長、いきなり試合だ。まずは俺から出る」
「えっ、あー、私、先に出るつもりでいたよ?」
「イッ!? そうなの!?」
たまらず驚く。当たり前に、トップバッターは俺のつもりでいたというのに。
「だって私、確実に負けるよ? だったら確実に勝てる伏見君が後の方が、無難でしょ?」
「いや、そりゃ勝ち負けの観点で行ったらそうかもしれんけど……トップバッターだぜ?」
「うーん、何だろうね。私、そういうのはあまり気にならないタイプなんだよねぇ」
言われて妙に納得する。
委員長が委員長を務めているのは、何も今に始まったことではない。人伝に聞いた話ではあるがその人柄から、小学校高学年からずっと学級委員長を務めているのだと言う。クラスを纏めるリーダー的な存在として、嫌味なく自然と振舞える委員長なのである。つまり本人の性質的に、人前に立つことや率先してなにかを行う事に対しての抵抗が少ない、というのは十分に考えられる話と言えた。
それに良く考えれば、二番手の方がプレッシャーはでかいかもしれない。委員長の後は、俺がなんとかすりゃ良いだけだし。
「分かった。じゃ、委員長、頼む」
「うん! 勝てないけれど、少しでもダメージ与えられるように頑張るね!」
低めの目標だが、今はそれで十分だと思う。
筐体を挟んで向こう側に、対戦相手が姿を見せる。黒っぽい衣服に身を包んだ、背丈の高い成人男性二人組だ。眼鏡を掛けた男……ヒロさんが前に出る。
「よろしくお願いしまーす」
筐体の向こう側からかけられた言葉に、委員長が深々と頭を下げる。
「よろしくお願いします」
委員長に釣られてヒロさんも頭を下げた。いつも大会で見る光景よりも随分とキッチリとした雰囲気の中、二人が席に着く。
「大丈夫だ、委員長。気楽に行こう!」
「もちろん! 伏見君が控えていてくれるから、全然怖くないよ!」
「お、おう! 任せとけ!」
委員長から向けられる期待に、ドキリと動揺してしまう。
他人からこんなにも期待を寄せられたことは、果たして今まであっただろうか。嬉しくて、少し気恥ずかしい。
……おっと。今はそんな自分の感情なんか後だ。今は委員長の応援だ!
「頑張れェ~、委員長ちゃぁーん!」
「頑張れー!」
「気楽にね~」
植田の声援も飛んでくる。それに釣られるかの様に、他の参加者さんからも声援が飛び交う。その声はほとんどが女性陣からで、新規の女性プレイヤーである委員長に対して好意的に見てくれている事が分かった。
どこか和やかな雰囲気の中、筐体の画面が切り替わり、キャラ選択画面へ遷移する。委員長はミナヅキを選び、相手は筋骨隆々の男キャラ、ハクロを選んでいた。
ハクロは超インファイター型キャラクターだ。ゲーム中の出番としては、メインキャラクター十二人の殺し合いの外側に絡む存在として描かれている。白髪の狂人、願いを叩き潰す者の異名の通り、素手でぶん殴ってくるファイトスタイルだ。
近中遠なんでもござれなミナヅキとはそこまで相性が悪いという訳では無いが、とにかく懐に入られてからの攻めが恐ろしい。ハクロ独自のラッシュコンボ、崩しからの高火力コンボで一気に勝負が決まってしまう事も珍しくはない。
『Over Night. Duel!』
ついに対戦が始まってしまった。
ヒロさんはどうするだろうか。見るからに初心者と分かる相手にも……あー、手加減しないタイプだーッ!
開幕からステップで距離を詰めて、ミナヅキの懐に入り込む。A>A>2C……パンチを刻んで足払いから必殺技で拾って繋げるのが定石で、例に漏れずヒロさんのハクロもまた足払いからのコンボで攻めてくる。
まだ開幕でゲージも溜まっていないので三割程度のダメージで済んでいるが、持続の長いしゃがみB重ねからの起き攻めがまたキツイ。何とか委員長は下段をガードするが、切り返すことが出来ずにあっという間に画面端へ追いやられ、崩されて一ラウンド一気に取られてしまっていた。
い、委員長、大丈夫か……?
何も出来ず、何も分からず終わったであろう事に不快感を抱いていやしないかと、そっと顔を覗き込む。
するとそこには、大きく見開いた眼を爛々と輝かせる少女の顔があった。
その顔付きにたまらず息を飲む。
委員長……楽しそう……なのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます