ROUND.07 やる気があるのならば
バイトを終えてひと段落。
飯もさっさと済ませて、早速トレモに取り掛かる。
今日はミナヅキのコンボ練習もそこそこに、ムツキで確反をしっかり取る練習を行う。対戦していてクソほど苦手に感じるカンナヅキ(中距離キャラ、高速中段交えた分からん起き攻めで殺すタイプ)の起き攻め対策に力を注ぐ。
意識すれば中段は意外と立てるが、問題は弾だ。ダウン後設置されるクソデカ弾のエフェクトで、物理的に見えなくなる瞬間が発生する。ド派手なエフェクト、演出の弊害ともいえる。早く修正してくれ。
トレモのレコード機能を使ってCPUカンナヅキに起き攻めを三パターン程覚えさせ、ランダム再生でひたすら相手にし続ける。実際の所、アドリブを交えて起き攻めしくる奴ばかりなので、とにかく動きに慣れる為にしているという感じだ。
二時間ほどトレモして、いざネット対戦するかとメニュー画面に戻る。不意にスマホに目を向けるが、今夜は委員長からのメッセージは来ていない。
クッ……、俺は一体何を期待しているっていうんだ愚か者がよぉ!
まぁ、今日はきっとブラナイ本を熟読していて俺にメッセージするどころではないのだろう。隅々まで読み込もうと思うと、マジで一晩を要するボリュームだからな。
代わりと言っては何だが、いつの間にか届いていた植田からのメッセージに返信しておく。
どうやら今日もピノマンと遊んでいるらしい。書いてあるピノマンへの怨嗟の声に、グッジョブと親指を立てたスタンプを押して返しておく。勿論このグッジョブはピノマンへ向けてのものだ。
スマホを置いて再びレバーを握る。
今日はやる気があるのでランクマに籠るぜ。濁らないが目標だ。いざ――!
まぁ、そう言って結局めちゃくちゃに濁って沈むんだが。
メンタルってどうやったら鍛えられるんだ……。
翌日、昨日の散々なランクマの内容を若干引き摺りながら登校して、机に突っ伏す。
負けが込むと気持ちが焦っていけない。負けた時こそ冷静になれよ、俺。しかしそれが出来ないから濁るわけで……ッ! 減るランクマポイントに誰もが追い詰められる。ランクマと書いて地獄と読むのかもしれない。
「おはよう、伏見君!」
「おぉ……、委員長、はよ」
「朝からすごい顔してるね……何かあったの?」
「ブラカニのランクマで濁った……あ、ランクマってランクマッチな。ネット対戦で世界中のプレイヤーと戦って、ポイントを稼ぐモードなんだがな……」
「それ、私も昨日やってみたよ」
「……おぉん!?」
委員長の発言に思わず目が覚める。
うへぇ。でけぇ声が出てしまった。まずい。注目されてしまう。
慌てる俺とは対照的に、委員長は動じることなくニコニコと話の続きを始めていた。
「ものは試しにっていろんなモード触ってみたんだけど、ランクマッチっていうの選んでも何も起こらなくて……」
「そりゃ、委員長が遊んでるのはブラエクだろ? ブラエクのランクマにはもう人は残ってないからなァ」
単純なネット対戦であれば、人は居ると思うが、流石にランクマには居ない。新作が出れば、みんな新作に移ってしまうのだから。
「委員長にはまだ対戦は早いと思うから、ある意味助かったな」
「そっかぁ……。まずは練習して、伏見君みたいにミナヅキをカッコ良く動かせる様にならなきゃ、だね!」
「……連打だけじゃなくて?」
「うん。ちゃんと自分の思う様に、カッコ良く動かせるようになりたいなって」
意外過ぎて驚いてしまった。
キャラ萌え勢からガチ勢になる人も少なくはないが、委員長がそのタイプには思えなかったからだ。
「昨日、伏見君が読んでいた本と他のブラナイ本を買って帰ったんだけどね。それを読んでいたら、伏見君がミナヅキを使っていたのを思い出して。カッコ良かったし、あれだけ動かせたらゲーム自体も楽しいんだろうなぁ~って思ったの!」
有言実行。既にブラカニ本を買っただけでは無く、他の関連書籍も買っている事に驚く。
本人曰く、好きな物にはとことんハマるタイプとの事だが、どうやらこの行動力を見るに本当の事らしい。
「だから伏見君! お願い! 私にミナヅキの動かし方を教えてください!」
「それは良いけど……委員長、ちょっと、周り……」
「へ?」
ようやく俺から視線を外して、委員長は周囲を見渡した。
朝から俺に絡む委員長と言う珍しい構図に、クラス中の注目が集まっていたのだ。それに気が付いた委員長は顔を赤く染めると、小声でごめんなさいと呟き、恥ずかしそうに俺の席から離れて行ってしまった。
元々、俺と委員長には接点がない。同じクラスに所属しているというだけで関りも薄かった同士が急に親しげに話していれば、そりゃ色々と勘繰られてしまうりも無理はない。リスク管理を怠ってしまった結果だ。
……いや、別に悪いことしてるわけじゃないんだけど。
ほら、恥ずかしいだろ。色々と。
クラスメイトの視線から逃げる様に机に突っ伏し、その場をやり過ごす。俯きながら、こそこそとスマホのメッセージアプリを立ち上げた。
『マジでやる気があるなら放課後、eスポ部の部室にお越しください』
自分で入力しておいてなんだが、すげぇ胡散臭いメッセージになってしまった……。
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