ROUND.08 ブラカニ講座開幕
「超天才格ゲーマー植田くんとォっ!」
「リアルギャルゲーマン伏見氏のぉ!」
「初心者向けブラカニ講座~!!」
わぁ~っと歓声が聞こえてきそうな勢いで、植田と茶屋ヶ坂先輩の声が放課後の部室に響き渡る。なんスか先輩、リアルギャルゲーマンって。
戸に近い位置の長机の上には、既にいつでもブラカニが始められるようにセッティングが施されている。長机の前に座った委員長は、二人に囲まれて困ったように笑っていた。
どうしてこうなった……。いや、俺が軽率に放課後の部室に誘ったからか……。
「悪ィ、委員長……。この二人の事すっかり忘れてたわ……」
「ううん! むしろ、部外者なのに歓迎してもらえて嬉しいよ!」
「部外者なんてとんでもない! 星ヶ丘ちゃんはっ、俺達eスポ部のメンバーだよぉっ! ねっ、先輩!」
「うむうむ。我が部は、ゲームを愛する者であれば誰でもウェルカム! まっ、好きに過ごして行っておくんなまし~」
委員長にへらりと笑うと、先輩はすんなりと自身の定位置である窓際の席に戻っていった。
「よぉーし! それじゃあ早速やってこー!」
拳を突き上げ張り切る植田に付き合って、委員長も小さく拳を突き上げる。
あぁ……、本当に申し訳ない……。
「待て、植田。お前、初心者に教えられるのか?」
「ダ~イジョウブだって! 対戦しまくりゃ勝手に色々身に着くって!」
自信満々に胸を張る植田に対し、俺はやっぱりなと頭痛を覚える。
この植田と言う男。勉学に対してはやる気もなく非常に物覚えが悪いのに、こと格ゲーとなると異様なまでの物覚えの良さ、勘の鋭さを発揮するのだ。つまり、習うより慣れろでトップクラスまで上り詰めてしまった天性の才能持ちなのである。
感性のみで突き進む植田に初心者を教えるなど、無理寄りの無理目な話なのだ。
「分かった。お前は俺のセコンドな。お前は出来る男だからこそ、俺のサポートをしてくれ」
「えぇっ!? どしたの伏見!? やっだ、お前っ、オレの事そんな風に見てたの! そんな超才能の塊、天才、出来る男の植田クンだなんて照れるじゃん! OK! 出来るオレが出来ないお前の事、見守ってやるよ!」
ご機嫌な笑みを浮かべた植田が、親指を立てて委員長の隣から一歩引く。
クッソほど腹が立つが、余計な出しゃばりを抑えられたと思えば安いもんだ。
委員長の左隣の椅子を引いて座る。
ちらりと真横に送った視線ですまんと告げると、委員長がくすくすと笑った。なんだか少し、こそばゆい。
「えーと、んじゃ、始めるな。委員長、家でなに使って遊んでんの? やっぱりパット……えーと、普通のコントローラー?」
分かりやすく、伝わりやすくを意識して言葉を選ぶ。
委員長がどれほどゲームの知識があるのか分からないので、なるべく専門的な用語は避けたいところだ。
「アケコン使ってるよ。あのレバーの付いた」
「えっ!? アケコン!? もしかして星ヶ丘ちゃん、格ゲー経験者!?」
俺が驚く前に伏見が驚く。
思い当たる節として、もしかして弟さんの? と尋ねると、委員長はそうだと首を縦に振った。
「やるなら本格的な方が良いかなって。ほら、私って結構形から入っちゃうタイプだから」
「なるほど。んじゃ、ボタンの配置とかいじった? デフォルトのまま?」
「弄ってないからデフォルトのままだよ。イマイチどの配置が合うのか分からなくって……」
「OK。そこらへんも含めて、トレモやってくか」
タイトル画面からトレモ画面に移動する。デフォルトカラーのミナヅキを選択し、トレモが始まった。
まず教える事と言えば、各種技の確認からだろう。正直言って、俺も人に教えるという経験が無いので不安だが、技は知っておいて損はないだろう。
ブラカニは方向入力の他に、Aボタン、Bボタン、Cボタン、Dボタンの四種類のボタンを使って遊ぶゲームだ。A、B、Cは順に弱・中・強攻撃となり、Dボタンは特殊技ボタンとなっている。特殊技はその名の通り、各キャラクターに設定された特殊な技が出るボタンだ。中段技だったり、高速移動技だったり、設置物を置いたりとキャラの特徴を活かしたものとなっている。
各種ボタンの同時押しで投げや避けといった動作が出来るが、これはまぁ、最後で良いだろう。まずは各種単発通常攻撃の確認と、必殺技の確認だ。
「まずはA、B、Cそれぞれの確認からだな。立ち、しゃがみ、ジャンプでそれぞれ出してみ」
「やってみるね」
トレモ用のダミーの前で、委員長のミナヅキが動く。
レバーが時折斜めに入ってしまうのか、ミナヅキが曲線軌道を描いて跳ねていた。
「レバーって意外と繊細なんだよ。レバーがどの角度で斜め入力になるのか、覚えておくと良いかもな」
「斜めに入ってるかどうかっていうのは、ジャンプしてるかどうかで判断するのかな?」
「まぁ、それもあるけど、ほら、画面横の表示。これがボタンとキー入力を示してるんだ」
雪崩の様に表示される画面端の記号を指差す。
委員長がボタンを押すと対応したボタンが表示され、レバーで入力した方向も表示された。キー入力表示のお陰でコマンドミスをした時に、どうして間違えたのかも一目瞭然なのである。
「へぇ~! こんな機能があるんだね!」
流石最新作! と委員長は目を輝かせるが、この機能はブラエクにも搭載されている。そうか、トレモの設定も教える必要があるのか! 人に教えるっていうのは、思った以上に難しそうだ。
だが、隣で楽しそうにする委員長の為ならば、苦に感じる事は無いだろう。
俺は一つ一つ丁寧に伝えていこうと、気合を入れ直すのだった。
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