卍で世界征服。

先仲ルイ

第1話 卍で逃亡生活

 全日本高校生超格闘大会決勝で「毒りんご」の用いた武技は会場を一挙に爆発させた。

 爆風は市内へ甚大な損壊を与え、全国指名手配となった毒りんごは未だ逃亡中であった。


「一生このまま、逃げ続けるか。それとも……」

 下水の流れる地下道で、毒りんごは一人呟いた。生まれながらの金髪を下水の泥で染めようとする。悪臭に鼻をつまみ実践するが、効果は喜ばしいものではない。汚れた金髪になったのだ。

「捕まるワケにはいかない。苦痛には耐えられるが、この技をオレ以外に知られるのはマズい」

 この国では、特殊な力を発現させる人間はいとも容易く捕らえられ、人体実験の対象となる。超格闘大会の実質的な開催理由もそこだ。社会的に弱い高校生を集め、チカラを出し合い戦わせる。

 毒りんごは、罠だと知って参加した。背に腹は代えられない。彼には金が必要だった。7年目を覚まさない母の、延命治療が打ち切られようとしている。彼には金が必要だった。目に余るほどの大金が。───優勝賞金、1億円が。


「いたぞ!毒りんごだ!」

 背後からの声に慌てて振り返る。おいおい、こんなとこまで追ってくるのかよ。

「生きていればどんな手段を使っても構わん!捕らえろ!」

 一列に並んだ3000人の兵士が狭い下水道を走り出す。狙いはこのオレ、毒りんご。大規模な人員投入……どうあっても捕まえたいらしい。前方からも大量の兵士が現れ、気付けば完全に包囲されていた。

「……許せよ、母さん。オレはな。アンタより先に死ぬわけには、いかねえんだ」

 毒りんごは掌を地面に向け、と……繋がる。


「───マンジ。」


 その夜、下水は街に溢れ、毒りんごは再び姿を消した。

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