秋風と稲荷の少女

ねこすけ

秋風と稲荷の少女

秋空と稲荷の少女

「あ!誠太くん来た、一緒に遊ぼう!」

 とても小さく、ボロっちい稲荷神社に僕と遊んでくれる女の子がいた。名前は……確か、シロコだったような気がする。ひとりぼっちでいつも泣いていた僕と一緒に遊んでくれる唯一の存在であるシロコは僕にとっては神様のようにさえ感じるほどだった。

「うん!遊ぼう、シロコちゃん」

 もうずっと昔のことで夢も見ることがあるけれど、その姿はぼんやりとボヤけてしまっていた。

 ――――――

「おかえり、誠太。会社のことは忘れて、ゆっくりとしなさい」

 もう髪が真っ白な母にそんなことを言ってもらうとますます気が重くなる。

ボクは今、会社を辞めて田舎の実家へと帰ってきた。会社では責任のなすりつけやパワハラ、いじめなどによって精神はすり減ってきてしまった。

「久しぶりにあの小さな稲荷神社へと行くか……」

 重い足取りとは反対に、秋風は涼しく踊りながら通り抜けていく。

「確か、この道を右に……あ、あった……って!?」

 小さい頃からいつもシロコと遊んでいた稲荷神社は、周りに生えている紅葉を残して取り壊されている最中だった。

狛狐は片方が壊れ、もう一つもなんとか原型を留めているが直すことはできないほどにヒビ割れていた。僕は呆気に取られて眺めていると、聞いたことのある可愛らしい声が聞こえてきた。

「久しぶり、誠太くん。一緒に遊ぼうよ!」

 あの時の声より弱いが、間違いなくシロコの声だ。なぜか、姿は昔と全く同じで、時間がシロコは止まっているようだった。

「シロコ!?なんでここに居るの?」

 僕のこの質問にシロコは優しく、それ以外に寂しげな笑みを浮かべてから言った

「最後はね、誠太くんと遊びたくって……秋風が伝えてくれたんだ、誠太くんがもうすぐ来るよ。って」

 シロコは僕にそう言いながら手を差し伸べた。

「ねえ、誠太くん……遊ぼ?」

「うん、遊ぼうシロコちゃん」

 今までのストレスや苦しみを忘れるように、忘れるためにシロコとたくさん遊んだ。紅葉の落ち葉をかけたり、かけ返したり……まるで子供みたいに遊んでいた。狛狐が崩れていく小さな音さえ耳に入らない程に。

「誠太くん……ごめんね、もう終わりみたい。私ももう消えなくちゃ」

 涙を流し、寂しげにシロコはそう言った。

「な、なんで?シロコちゃん、どういうこと!?」

 シロコは僕に抱きついてから「今まで秘密にしててごめんね」と言い、話しだした。

「私、この神社の狛狐なんだよ。いつもひとりぼっちだった誠太くんを、最初はいたずらで話し始めたんだ……でも、あんなに嬉しそうにするんだもん、それに私も寂しかったんだ。遊ぶのすごく楽しかった」

 シロコはそう言い終わった後「じゃあね、バイバイ」

 そんな声を最後に狛狐が崩れ落ちた瞬間、シロコの姿も砂のように消え去った。

 ――――――

「誠太、もう良いんか?東京に帰るんかぇ?」

 母さんは僕を心配そうに見ていた。でも、僕は不安な気持ちなど無かった。心の中でキシシッとあの頃と同じ笑い方をしているあの頃のままのシロコがいるからだ。

「それじゃ、母さん。ありがとう」

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秋風と稲荷の少女 ねこすけ @iloveyoumetoo

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