第38話 観測局の上位者

観測局の番人を退けた夜。

牢の中で勇者候補たちは震えながらもまだ“存在”を保っていた。

だが、安心する暇なんてなかった。


――僕が“矛盾因子”として観測局の最上位にマークされたからだ。


◇ ◇ ◇


翌日。

街の空に、異様な光が走った。

紙片のような雲が広がり、そこに巨大な目の文様が浮かび上がる。

人々は地に伏し、「神の視線だ!」と叫んで祈り出した。


「神じゃない。観測局の上位者だ」

魔導書少女が無表情に告げる。

「番人が倒された報告を受け、直接干渉を始めました」


「おいおい待て、僕モブなんですけど!?」


「だからです」

少女は淡々と筆を走らせる。

「役割を拒否しながら存在する矛盾。上位者にとって最優先の検体」


僕は胃を押さえてしゃがみ込んだ。

いやもう本当に勘弁して……。


◇ ◇ ◇


その晩。

裏路地に現れたのは、黒衣の男女だった。

顔は仮面で覆われ、胸には紙片の紋章。

彼らは静かに名乗った。


「我ら、“上位観測官”。

歴史を乱す存在を回収する役目を担う」


リュカが剣を抜き、即座に前に立つ。

「……つまり、カレー肉まんを消しに来たってわけか」


「その名は記録に不要。

対象は“モブ勇者”。

修正のため、観測局へと送還する」


声は冷たく、感情がない。


◇ ◇ ◇


「ちょっと待て! 僕は何もしてない!

皿洗いしてただけで、勇者でも魔王でもない!」


「……何もしていないことが、矛盾だ」


ズバリ言われて、心臓が止まりかけた。


◇ ◇ ◇


次の瞬間、空から光の鎖が降り注いだ。

街路石に刻印が浮かび、僕の足元から紙片が舞い上がる。

体が勝手に分解されて記録に書き直されそうになる。


「やめろおおおおお!」


リュカが剣で鎖をはじき、魔導書少女が本を開いて相殺する。

しかし光の鎖は止まらない。

上位観測官は淡々と繰り返す。


「モブ勇者、送還開始」


◇ ◇ ◇


桶を抱えられない手が震える。

……僕は、どこまで巻き込まれるんだ。

いや、どこまで“生き残れる”んだ。


◇ ◇ ◇


次回、「送還の光」


お楽しみに。

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