第33話 消された勇者候補の行方

勇者候補が十数人、ある晩まるごと姿を消した。

勇者ギルドは「神の試練」と言い張り、観測局は沈黙。

けれど噂は止まらず、街はざわめき続けていた。


◇ ◇ ◇


「……候補たちは、まだ生きている」


裏路地で、ヴァルドが低い声で言った。

夜風に煙草の火が揺れる。


「ギルドは“存在しなかった”ことにしようとしてる。

観測局の手を借りてな」


「じゃあ、どこに?」


「地下牢か、それとも……舞台の裏か」


彼はそれ以上言わず、煙を吐き出した。

曖昧に濁された言葉が、逆に真実味を帯びていた。


◇ ◇ ◇


数日後。

市場の外れで怪しい噂を耳にした。


「夜中、城壁の外に連れていかれる人影を見た」

「声を塞がれたまま、馬車に押し込まれて……」


僕の背筋が凍った。

候補たちは処分されたんじゃなく、どこかへ移送されている?


◇ ◇ ◇


夜。

酒場金獅子亭の裏口で、リュカが待っていた。

息を詰め、真剣な目で言う。


「……俺の耳にも入った。

候補たちは“観測局の施設”に送られているらしい」


「施設?」


「この世界の歴史を整えるために、逸脱した存在を閉じ込める場所だ。

行き場のない勇者や、消された魔王候補が集められる……」


リュカの声が震えていた。

それは他人事ではなく、自分もいずれ放り込まれる恐怖を感じているからだ。


◇ ◇ ◇


「……やっぱりおかしい人ですね」


魔導書少女が影から現れ、本を開いた。

ページに新たな記録が刻まれていく。


“勇者候補、消失。行方:観測局収容施設。観測継続中”


「観測って……じゃあ、あの人たちはまだ……?」


少女は無表情のまま言った。

「生きています。けれど“物語にはいない”」


……生きているのに、存在しない。

その矛盾が、胃の奥にずしりと落ちた。


◇ ◇ ◇


桶の泡がぱちんと弾ける。

僕は思わず、その音に救いを求めてしまった。


◇ ◇ ◇


次回、「観測局収容施設への潜入」


お楽しみに。

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