第32話 勇者候補集団失踪事件
勇者ギルドと観測局が手を組んだ――その噂が流れてから数日後。
街をさらに揺るがすニュースが飛び込んできた。
「勇者候補たちが……消えた!」
◇ ◇ ◇
市場は朝から大騒ぎだった。
パン屋の主人は「神の罰だ!」と叫び、魚屋は「また魔王の仕業だ!」と騒ぐ。
けれど詳しく聞けば、勇者候補として登録された十数人が、ある晩まるごと姿を消したという。
「誘拐か?」
「いや、観測局が回収したんだろ」
「もしくは、勇者の座を奪い合って共倒れしたのかも」
真偽不明の噂が飛び交い、人々の不安をあおっていた。
◇ ◇ ◇
夜の
勇者ギルドの使者が現れた。
銀の鎧を光らせ、声を張り上げる。
「候補者たちは“神の試練”を受けるために選ばれただけだ。
恐れることはない!」
……どう見ても誤魔化しだ。
客たちも半信半疑で、ざわめきは収まらなかった。
◇ ◇ ◇
僕は皿を洗いながら、思わず呟いた。
「勇者って、そんなに量産されて、そんなに消えていく存在なのか……」
横で酒を飲んでいたヴァルドが、鼻で笑う。
「勇者は役だ。役者が消えれば、新しい役者が立つ。ただそれだけだ」
「でも、消えた人たちは……」
「……物語に“退場”させられただけだ」
ヴァルドの目は鋭く、どこか哀しげだった。
◇ ◇ ◇
その時、魔導書少女が静かに本を開いた。
“勇者候補、集団失踪。観測局の関与、確定”
僕は思わず叫んだ。
「やっぱり観測局じゃないか!」
少女はページから目を離さず、淡々と答える。
「逸脱する勇者は不要です。
選ばれなかった者は、最初から“存在しなかった”ことにされる」
「……ひどすぎる」
桶の泡がぱちんと弾ける音だけが、虚しく響いた。
◇ ◇ ◇
次回、「消された勇者候補の行方」
お楽しみに。
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