第三話 無頼漢大地に立つ
グエッ!!!!
ヒキガエルのような音を漏らし、背中から着地した衝撃で周りの木の枝がワサワサと揺れた。
目の前が白黒になったようにちかちかとし、頭でも打ったのか些かの気持ち悪さがえっほえっほと頭の中を駆け巡る。
しかし、落ちた時は頭が下になっておったのに、着地は背中からって一体どうなっとるんだ。
グラグラと揺れる頭を抑えながらむくりと体を起こし周囲を見てみるものの、辺り一面何も無し。
いや、人間のいるような物は無し、というところだ。
ゆっくりと深呼吸をする。
歌舞伎町のゲロと小便と生ごみと、女の安っぽい化粧品やらホストだとかいった連中の、香水のきつい匂いとは無縁の、澄んだ自然の匂いが肺を満たす。
都会の喧騒や傍迷惑なバイクを吹かす音や、ギラギラと飾り付けて軽薄な音楽を垂れ流す、ホストやらキャバ嬢の募集の街宣トラックだのとは無縁の、そよそよと穏やかな風が頬を撫で、それにつられて草木がささやかに揺れ、鳥の鳴くような声のする、豊かな自然の音。
揺れる頭を癒すほどに、心地良い空気だった。
ゆっくり立ち上がり周囲を見回してみると、どうやらここは小高い丘のようになっているようだ。
全く方向も状況も分からん密林の中や、山の中に降り立たなかったのは不幸中の幸い。
更に視線の先には川が流れているのが見て取れるから、水場探しに困る事もない。
あの地獄のような学園で過ごしたサバイバル訓練を思い出せば、こんなの三食飯付き最上級スイートルームだぜ。
ふふ、あの青瓢箪め。融通の利かなさそうなお役所野郎と思っていたが、随分と気の利く野郎じゃねぇか。
川があるという事は、それに沿って探せば恐らくは町や村など、何某かの人の気配には当たるだろう。
若しくは、水を求めての旅人か、そうでなくとも、魚や動物は見つけられるだろうから食うには困らん。
まずはこの丘を目印として、探索をする他あるまい。
◇◇◇
タンパク質の焦げる匂い
ゆらゆらと立ち上がる黒煙
血の匂い
川沿いを歩き、ちんけな木造の建物の群れが見え、近づいていくたびに強まる。
争いの匂い
日はまだ高く、頭上に聳える。
しかし、眼前の村には、闇が横たわっていた。
倒された柵を抜け、役に立たなくなった木の門をくぐり、焼け終わった家の残骸と、メソメソとすすり泣く声。
肉塊となった男、打ち付けられた赤ん坊
胸糞の悪い、悲しみと、悲憤。
異邦人には目もくれず、泣いたり喚いたり、粛々と片づけたり。
まるで、こんなものは地震か台風か津波みたいな、いつかはくるものとして諦めているような。
死人の目をしている。
全ては終わった、ここからどうやって生活しようか、冬までになんとなるだろうか、そしたら春は、税はどうするか。
ぼろ布を継ぎ接ぎにした服を着た生き残りたちが暗い顔で嘆く。
村に横たわる絶望を縫って歩き、広場に着くと。
地獄だった。
血溜まり。
折り重なるように積みあがる死体。
悪戯に切り落とされた耳や鼻。
立ち尽くし、握りしめた拳から、血が滴る。
「.....あ、あのう」
声が掛けられた。
しわがれた、弱々しい、悲嘆と諦めに満ちた声。
190cmの、俺の胸程の高さほども無い老人だった。
「おう.....なんだ?」
「あなたは.....旅のお方でしょうか」
違う。
「.....俺は、世界を救いに来た男だ」
「.....はぁ?」
燻った煙と、パチパチとまだ焼ける音が、通り過ぎた。
◇◇◇
ならず者、食いつめもの、それらが徒党を組んだ盗賊団。
そういう輩に、この村は襲われたらしい。
奪い、犯し、殺す。
そんな外道どもに。
村長から語られる、この世界の残酷さ。
誰も助けになど来てくれない冷徹さ。
弱いものは弱いまま虐げられる無慈悲さ。
どこまでも、反吐の出るこの世界のルール。
クソッタレな常識。
許しちゃおけねぇ。
こんな非道を、こんな横暴を、たとえ世界が許しても、この権藤資隆の魂が。
赦しちゃおけねぇ。
「じいさん、そいつらは俺がこの手で血祭りにあげてやる。だから安心しな」
「い、いや、しかし、これはこの村の事ですから旅のお方には関係が....」
「権藤資隆」
「っえ?」
すぅっと息を吸う。
大きな体が、更に巨大になる。
「俺の名は!!元・
ビリビリと空気が震える。
空がひび割れるように音を立てた気がした。
余りの声量にのけ反る長老。
何事かと集まり始める村人。
横たわる闇に、一条の光が降りた。
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