第四話 卑劣漢現る

 墓を掘り、瓦礫を片付け、弔う。


 大きな穴、小さな穴、この村に刻まれた、悲しみの傷跡。


 それでも、無慈悲に時間は流れる。

 この悲しみなど知った事かとでもいうように。

 遺された者たちは、明日を生きねばならない。


 しかし、人間とは案外と強いものである。

 つい数刻前までメソメソと悲嘆に暮れていた空気も、明日の飯、明日の生き死にに目を向ければ、否が応でも前を向き、どうなるか分からない明日に向かって歩き始める。


「じいさん、行きがかりの船だ。俺も手伝うぜ」


 盗賊団の非道に怒りその復讐を誓ったが、この村人たちがまずは安心して飯を食い、ゆっくりと眠れなければ本末転倒。

 すぐにでも殴り込みをかけに行くところだった俺の頭を、この村人たちの明日を生きる姿勢が冷やしてくれた。


 そう言って、村の復興に手を貸した。


 暴虐により村人の数は減り、抵抗をした男たちの悉くが、今はあの簡素な墓の中。

 男手の減った村からしてみれば、あちらも渡りに船だったのだろう、詰襟の改造学ランに学帽の、得体のしれない風体の男を快く迎え入れた。


 生き残った村の男衆は少年か、若しくは老人か、後はちらほらと壮年の者がいるくらいで、よくよく見てみれば、その壮年の男も背が高い奴はそういない。


 体格も多少はがっちりとしているが、鍛えてつけたようなものではなく、力仕事で結果としてそういう肉体になった。


 つまりは、あくせくと働く貧乏人。

 どいつもこいつも粗末な服を着ている。

 海外の時代劇みたいな、古臭い感じの。

 中世ってやつか? ロビンフッドとかアーサー王伝説だとか、そういう古い時代の服装。


 こりゃあ、パチンコもYouTubeも期待できそうにないな。


 どんな世界に飛ばされるかなんて聞いちゃあいなかったが、どうでもいい。

 弱い奴が虐げられる、クソみてぇな世界。

 それが分かれば十分だ。


 村を手伝う中で、じろじろと見られたり、ヒソヒソと何やら話している奴もいたが、黙って村の復興を手伝う異邦人を、悪いようには思わんらしい。


 少しずつ、話しかけてくる奴が現れ始めた。


 "ゴンドウ様"


 なんて最初は呼ばれたが、そんなこそばゆい呼ばれ方なんてされたら落ち着かねぇんで、今じゃ呼び捨てだ。


 そうして数日が経ち、荒れた村をどうにか片付けた時に奴は来た。


 ◇◇◇


 痛ましい傷跡が残るものの、身を寄せ合い助け合えば、飲み食いと雨露を凌げる程度になった村に、この世界の冷酷で、冷徹で、無慈悲な現実が牙を剥いた。


「私は徴税官のエンゲスである!! 村の代表者よ、我が前に出よ!!」


 馬上に座る悪趣味に飾り立てた仕立ての服をまとい、見下し、粘ついた薄笑いをした口から吐き出される、キンキンとした耳につく甲高い不快な声。


 はは~っと言いながら、時代劇さながらに跪く長老。

 それに続く数名の男衆。


 遠からず近からず、この緊迫した状況を家の戸の陰から、心配そうに見守る女子供達。


「こんな時にゴンドウがいたら…」

「川へ水浴びに行ってしまったばかりだぞ…」


 戸の陰から口々に、この村の救世主の不在を嘆く声。


「ふむ、随分と数が少ないようだな?」


 村人の人数の事なのか、はたまた徴収するはずの税の事なのか、どちらとも取れる嫌味な物言い。


「はっ、それが…まさについ数日前に、この村は盗賊団に襲われたばかりでございます。奴らに悉くが奪いつくされ、明日を生きるのも苦労しておる有様でございます....」


「ほう、盗賊団とな?」


 チラリと随伴してきた兵士に目をやる。


「数年前から近隣を騒がせている者たちかと....しかし、生かさず殺さずで、根こそぎ奪うと言った事は聞いておりませぬ」


「ふむ、生かさず殺さず、か。であるのに、今回は根こそぎ略奪しておると…確かこの村は、前回の徴税は不作だとかで猶予を与えられておったなぁ? 今回も不作だったのか? それとも、隠しておるのか!!」


「いえ! そのようなことは! しっかりと猶予をいただいた分も保管しておりました!!」


「ではその税はどこにある!!」


 うぐぅ....


 退くも地獄、進むも地獄。

 もはや問答ではない詰問。

 聞く耳を持たない、最初から答えの決まっている尋問。


 闇が薄らいだと思った村にまた、新たな闇が覆いかぶさった。


「黙るという事は我が言い分を認めたという事、貴様ら! この村の隅々まで調べろ!! 床板一枚残さず徹底的にだ!!」


 その一言をきっかけに、兵士が一斉に散らばった。


 戸を蹴破り、縋る女を殴り飛ばし、甕を割り、棚を壊し、床板を引き剝がす。

 これでは兵士というよりも盗賊、ならず者の類。


 悲鳴を上げ逃げる村人、今まさに、ほんの数日前まで行われていた蛮行が、再び繰り返されていた。


 僅かばかり残った未来を紡ぐための種籾も、明日を凌ぐための野菜も、希望も、一切合切が暴虐の波に飲み込まれようとしていたその時。


 ────吹き飛んだ。


 法の皮を被ったならず者たちが、まるで藁のように、嵐に吹き飛ばされる木の枝のように。


 村人たちの、悲痛と、怒りと、正義をぶつけられたように。


 吹き飛ばされた兵士たちの恐怖の瞳の先に立つ大男。


「俺の名は!! 権藤資隆!! この狼藉、許しちゃおけねぇ!!」


 詰め襟の改造学ランに、彫りの深い顔立ち、生命力を感じさせる太い眉。


 そして、不動明王のように、激しい怒りに燃える野獣の如き眼光。


 異世界転生者 権藤資隆の参上である。

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