第29話 文化祭

 僕がミランダに告白してから三ヶ月ほど経ったが交換日記からの進展は無いが、それでも充実した毎日であった。


 時たまアイカが色々きいてきたが、ミランダのイジメの事には触れないように相談に乗ってもらっていた。


 アイカのアドバイスは的確だったが時にはからかうような事もあるがアドバイスのお陰でミランダとの交換日記はその間隔は間を空けなくなり、楽しい毎日を迎えられていた。


「君は面白半分かもしれないけど僕は真剣なんだからね!」


「分かっているわよ。私も楽しませてもらっているけど私だって遊び半分でアドバイスしているわけじゃないからね」


 アイカは誇らしげに胸をはっているが、毎度何かを奢らされるのは納得できないが、アイカのアドバイスがなかったらここまでミランダとの仲が進展する事も無かったのも正直なところなのであまり強くも出れなかった。



 そんな中、学校は文化祭が近づきいつもとは違う雰囲気に包まれ、皆がソワソワしていた。


「アレクは文化祭では何をやりたい?」


 クラスメイトに声をかけられたが何をやりたいかと聞かれても何も浮かばなかった。


 そんなときアクシデントが起きてしまった。


 その生徒には悪気はなかったのかもしれないが、間違えて僕の鞄を開いてしまった。


 そこに見たことのない厚めの日記帳を見つけてしまい、それを取り出してしまった。


「なんだこれは?」


 表紙には何も書いていないのが気になったのか、ページを開いてしまった。


「おいおい、これ見てみろよ。これって交換日記ってやつだろう!」


 そのクラスメイトは周りのクラスメイトに交換日記を見せてしまった。


 その内容に周りのクラスメイトは歓声を上げても僕をからかうような雰囲気がクラス中に広がってしまった。


「止めてくれよ」


 そうは言っても僕は何も出来ずにその場に座り込み動けなくなってしまった。


「嫌がってるだろう。止めろよ」


 それはアイカの声であった。その半端ない迫力に教室は一瞬で静かになってしまった。


「そう言う、人が本当に大事にしているものを面白半分でからかう奴らは許さないよ」


「アイカ」


 僕は自分の事なのに力なくアイカの名前を呼ぶのが精一杯だった。


「アイカ、あんたなんでそんな奴の肩を持つんだい?」


 クラスではアイカとの仲のいい女子が何かに反応するかのようにアイカに声をかけた。


「別に深い意味は無いけどあんまりガキっぽいのが腹が立っただけだよ」


 周りの雰囲気にアイカも引くに引けなくなっていた。アイカにしては珍しく顔を赤くしているのを見て先程の女子が何かに気がついたようだ。


「そう言えばあんた達たまにコソコソしてることあるよね」


 僕もアイカも何も言えなくなってしまったのが面白いのか、最初に交換日記を見つけた生徒が交換日記を読み、相手がミランダであることを知ってしまった。


「読むんじゃない」


 アイカの願いは届かなかった。


 その話しはその日の内に学校中に広まり、その日を境にミランダが学校に来なくなってしまった。


 交換日記以外に連絡を取る方法が無い僕はどうする事も出来なくなってしまった。


 僕の雰囲気とアイカの迫力にクラスの生徒は反省したが時すでに遅しだった。


 その事は教師達の耳にも入っており、アイカがミランダの住所を教師に聞いたが教えてくれることは無かった。


 クラスメイトは反省しているが、クラスの雰囲気はギスギスした物になっていた。起きてしまった事はどうすることもできずにいた。


 あの日から周りの人間は腫れ物に触れるように僕に声をかけてくる人間もいなくなってしまった。


 何も出来ないよアイカは自分を責めながら、出来る事を考えているようであった。


 そんな中、クラスで文化祭の出し物を決める日がやって来た。中々良い案が出ない中アイカが挙手をした。


「私、色々考えたんだけどクラスで合唱なんてどうかと思うんだけど、どうかな?」


「え〜」

「なんか面倒くさくない」


 全体的に批判的な意見が多かったが、それに反対する意見も無いのでアイカの案で纏まりそうであった。


「それでなんだけどゴスペルなんてカッコよくない?────、お願い。私にやりたい事があるの。お願い」


 アイカは強い視線を僕に向けてきた。なにか考えがあるようだ。こういう時のアイカは頼りになる事を知っている僕はすべてをアイカに任せようと思った。



 本気になったアイカの行動力は半端ない物であった。あらゆるツテを使い、ミランダの家を探し出しミランダに会いに行った。


 アイカはミランダの家に乗り込んだ。嫌がるミランダの部屋に強引に入っていった。


「あなたまで私をイジメに来たの?帰ってよ」


「ミランダ、あなたが傷ついているのは私も分かっているわ。でもこれだけは聞いて。ツライのは分かっているけど文化祭だけは来てもらえないかな。文化祭で私達の合唱を聴いてほしいの」


 ミランダは顔を振ってイヤイヤをした。


「どんな顔して学校に行けっていうの?アイカさんに私の気持ちは分からないわ」


「それはアレクも一緒なのよ。あなたの為に耐えて頑張っているのよ。彼を信じてあげて」


 アイカの真剣な眼差しからミランダは何かを感じたようだ。思い切ってそれを言葉にした。


「アイカさん、もしかしてあなたアレクさんの事」


 アイカは首を横に振った。


「私にその言葉は言わないで、アイツの気持ちが一番よ」


「だからお願い、文化祭には来てね」


 アイカはミランダにだけ涙を見せると笑顔で帰っていった。



 文化祭当日、ミランダはアレクのクラスの合唱の時間を調べ、それだけを観るために学校を訪れた。


 色々な出し物の勧誘を振り切って講堂に入った。

 講堂のドアを開けると大きな歓声がミランダの全身を叩いた。


 合唱とは聞いていたがそれは普通の合唱とは違っていた。ゴスペル、神へ捧げる歌。けして上手ではないかもしれないが皆の熱気が伝わってきた。


 ゴスペルには詳しくなくても知っている名曲である。oh happy day それが歌われている歌である。


 驚くべきはそのソロをアレクが歌っているのだ。アレクがそうゆうのが苦手なのは知っているが、アレクは全身で歌を歌っている。


 それはミランダだけでは無く会場中の人に伝わっていた。アイカは私にこれを見せたかったのが分かると自然と涙が頬を伝わった。


「あなたのおかげで彼は変わったのね。なんか羨ましいわ」


「あなたが聴いてくれたのを知ったらアイツも喜ぶよ」


「あなたも嘘が下手ね。その涙が証拠よ」


 私はそれだけで癒された。それだけで充分であった。


「校舎裏にアイツを待たせてるから言ってあげてよ」


 そう言うとアイカは静かに去っていった。



 校舎裏にアレク君が汗だくで待っていた。


「アイカが必ずミランダさんが来るから待ってて言ってたけど本当に僕の歌、聴いてくれたんだ。嬉しいな」


 久しぶりに見る彼の笑顔がとても眩しく見えた。


「本当にありがとうね。あの歌を聞いたら後ろ向きな自分が恥ずかしくなったわ。私はもう大丈夫よ」


 私はもう大丈夫!自分にそう言い聞かせた。そして彼を見つめた。


「今、あなたを待っているのは私じゃないわ。だから行ってあげて」


 彼も本当は気がついていたのだ。でも彼の優しさが自分を騙していたのだ。

 その事に気がついたようだ。

 そして今まで見たことが無い笑顔を見せて走り出した。


『頑張れアレク』

 

 

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