第14話 終夜祭
哲郎が神の座に輝くことで今回のモウスン教の祭事は終了した。
神の座とは実際に座のようなものが有るわけではないが、大きな岩が頂上に有ることから神の座と呼ばれ、この祭事の勝者のみが座ることを許されているのだ。まさに今の哲郎がそうである。
これまで何人の人間が座ったかは分からないが世界中の登山家の憧れの一つなのは間違いない。
哲郎の勝利を祝うように、越冬のための渡り鳥がトムス山を群れで越えていった。この光景を見られるのは登山家だけに許された光景である。
「今回、俺が神の座に付けたのは運みたいな物だが、それでもこの栄光を持って国に帰れるよ」
哲郎の言葉をここに集まった、四人は噛みしめた。
残る問題は一つである。怪我をして途中で待っているサトルをどうするかであった。
俺はダン、ロイド、ソワンに声をかけ、サトルの下山を手伝ってもらえないか頼んでみた。
ダンとロイドは力を貸してくれると約束してくれた。だが、ソワンだけは早くも下山の準備を始めている。
「俺はそんなに暇じゃないんだ。下山したらモウスン教の人間に伝えておくよ。救助くらいは来てくれるだるう」
そう言うとソワンは一人でトムス山を後にしたのだった。
後から分かったことだが、ソワンは登りの途中でも、ダンとロイドに嫌がらせを仕掛けていたことが分かったが、昔からそんな奴で実力はあるのに登山界では嫌っている人間も少なくないらしい。
俺達、四人は頂上で少し休憩をとってからサトルの所に向かった。
下りでスピードは出せないが、サトルの状態は思えば急がないわけには行かない。哲郎を先頭に早足で下り続けた。
なんとか日が沈む前にサトルの所に辿り着けたのは良かったが、今日はこれ以上無理はできなかった。
サトルは意識がもどっていたが、やはり発熱は続いているようだ。
「辛いだろうが、今晩はここで一泊するけど平気か?」
哲郎がサトルに声をかけた。
「問題無い」
それから、辺りの木の枝を折り、添え木にして骨折箇所を固定した。
強めに固定したのにサトルはうめき声一つ上げなかった。その我慢強さは驚嘆に値する。
「けっ、結局誰が神の座を獲ったのですか?」
「なんとか俺が獲れたよ」
少し照れたように哲郎が頭を掻いた。
「アレクさんも惜しかったですね?」
「俺は自分が出せるだけの力が出せたから、何も後悔は無いよ」
その言葉に嘘は無かった。
「こんなオッサンに負けた俺達は恥ずかしくて国に帰れないよ」
「本当だよ」
ダンとロイドは本気で悔しがっているようだ。
「それでも俺よりはマシですよ。しかも、怪我が治ってもリハビリを考えると先が長いですよ」
サトルは強がって笑ってはいるが辛そうなのは誰の目にも明らかであった。
朝一番に下山への準備を始めた。サトルは寝袋のまま降ろすことになったので、ロープで前後から引くことになった。
前を哲郎とダン、後ろを俺とロイドが担当した。バランスをとりながら進んだ。それでも担いで行くより倍のスピードが出せている。
二日目に下から登ってきた救助隊と合流し、サトルの搬送は彼らに任せた。
気が緩んだのか俺も座り込んでしまった。もう歩くことも出来なくなってしまった。
「俺の事はいいから先に行ってくれ」
「最後まで付き合うよ」
哲郎はそう言ってくれたがそれは断った。
「神の座の終夜祭の主役がいないんじゃ話しにならないぞ」
「そりゃそうだ。なら、俺も行くけどなるべく早く降りて来なよ」
「分かってるよ」
それで俺は列から離れた。
しっかり休憩を取った俺はゆっくりと下山した。
街は神の座の終夜祭で大いに盛り上がっていた。その盛り上がりは開始の時の比ではなかった。
終夜祭の会場に着くと、皆が俺を万雷の拍手で迎えてくれた。それは怪我を負ったサトルを救った行動を労うものであった。
会場にはサラの姿もあり、涙の抱擁を受けた。
「アレク、アナタがこんなに頑張るとは思わなかったわ。でも本当に格好いいわ。 一枚写真撮らせて」
「照れるな」
それでもポーズを決めたのはやり切った自分が誇らしかったからだ。
「酒が飲みたいけど、もう眠くて仕方ないよ」
目を擦り、二人で懐かしい部屋に向かった。
部屋に帰った俺達はお祝いの乾杯を済ますと、ベッドに潜り込んだ。
俺は泥のように眠りに落ちた。
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