第13話 神の座
朝日で目覚めると、眩しさで目がシバシバしたが昨日な寒さが嘘のように感じられた。
俺が動いたので哲郎も目を覚ました。
「おはよう。ちゃんと眠れたか?」
「どうですかね?」
俺達は弾かれるように体を離した。そしてどちらともなく笑って恥ずかしいのをごまかした。
落ち着いた俺はサトルの様子を見ると、サトルの熱はいくぶんか下っていた。俺達の声でサトルは目を覚ましたようである。
「すみません。なんか迷惑をかけたみたいですね」
「気にするなよ。俺が勝手にやったことなんだからさ」
「哲郎がいるとは思わなかったよ」
「俺の事は気にしなくていいからゆっくり休め」
サトルは目の下に隈ができていたが思ったよりは調子は良いようだ。それには俺も少し安心した。
「ここまで連れてきてもらったのになんだが、ここからは二人とも急いで神の座を目指してくれ」
「おいおい、ここまでやらしておいて置いていけなんて言われたら俺達の努力が無駄になる」
哲郎の言う通りだ、そんな事が出来たら最初からこんな事はしなかった。
「心配しなくていいよ。二人が下山するときに拾ってくれればいいよ。神の座は出来れば二人のどちらかに取ってほしいんだ」
ここまで言われて俺の中で何かが溶けた。
「本当に平気なのか?」
「あぁ、そうしてくれないと俺の立つ瀬がなくなるよ」
「「分かった。帰りに迎えに来るぞ」」
俺と哲郎は哲郎のリュクからあるだけの食料を取り出すと、二人で食べ尽くした。
最後に水を飲んだ。
俺は急に胃に食べ物を入れたので、少し胃がキリキリしたが弱音を吐くわけには行かない。
それでも体に力が湧いてくるのを感じた。
ここから神の座まで急げば三時間ぐらいだと考えれば一気にいけそうだった。
本道と言えるルートに目を向けると、ダンとロイドが進んでいるのが見えた。もう一人のソワンは二人より少し先を行っているのが見えた。
ソワンとの距離を考えれば、ここからは休む時間は無いのは明白であった。
「アレクさん、ここからは俺達も敵同士ですよ。誰が勝っても文句無しですよ」
「分かっているさ。俺だって勝つためにここに居るんだ。もう後悔するのは止めるよ」
哲郎が走り出すのを見てから俺は、サトルの手を握った。
「自分の為にも、そしてお前の分もやれるだけの事はやり切るよ」
「アナタがここまで来るとは思いますが、こうなったら応援しますよ。頑張って下さい」
その言葉を背に俺は走り出した。
この高度の中、全力で走るのはキツイ。だが足を止めるわけには行かない。全てを賭け、過去を清算する最後のチャンスなのだから。
太陽がその姿を空に現すと、直射日光が更に体力を奪っていく。
次第に哲郎の背中が小さくなっていく。もう勝つことは無理かもしれないが止めるわけにはいかない。
“先に進め”と言う声を信じてまたこうして山と向かい合ってみると、自分の決心が間違っていなかった事が分かり、それだけで俺は満足していた。
『満足』、なに馬鹿なことを言っているんだ。俺は勝つために来たんだ。それなら、満足する前に足を動かせ、肺が酸素を取り込めるうちは止まるな。そう言い聞かせて、俺は走った。
遂に神の座まであと十メートルとなった。
哲郎とソワンはもう神の座に手が届きそうだ。それでも俺は足を止めない。二人のうち誰が神の座を取ろうとも、俺もその地にたどり着く。その瞬間に何かが見えると俺の中の何かが叫ぶ。
結果的には哲郎が神の座を取った。ソワンはその場にへたり込んでしまった。俺はソワンの脇を通り、神の座に触れた。
「うぉ〜〜」
その瞬間、俺は雄叫びをあげた。そして気が付くと熱い涙を流していた。アラサーのオヤジが恥ずかしげもなく泣くほど感動していた。
心臓が張り裂けそうになって、ついには座り込んでしまった。
「勝負は俺の勝ちですがアレクさんも凄いですね。良いもの見せてもらいました」
勝者である哲郎が自分の事のように喜んでくれたのが凄く嬉しかった。
「こんなに気持ちいいのは十年ぶりだよ」
緊張の糸が切れたのか俺はその場にへたり込んでしまった。もう指一本さえ動かせない。
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