ただ一人、愛する者の為に――

 王道ファンタジーでありながら、善悪の概念すら入れ替えてしまう『反転魔法』という要素が絡むことで、非常に面白く重厚な作品です。
 ただ、細かい部分が気になる人にとっては、途中(特に後半辺り)で「モヤモヤ」してしまう部分も多いので、そこだけはご留意頂けたらと思います。

 例えば、主人公が大魔王として敵側に身を置いていた間、彼の恋人であるヒロインが仲間を集めて彼の救出に向かいます。なので、主人公自身はその仲間や、師匠との面識などほぼ無い筈なのに、救出後、苦楽を共にしてきたかのような描写になってしまっていたり、主人公やヒロインの生い立ちが明らかになるほど、時系列的な疑問が出てきたり。といった具合ですね。
 あと、この作品は一話一話に副題が振られておらず、目次が白紙です。
 何故か本文中で副題が振られていたり、章分けが記載されているスタイルなので、後から「あの時どうだったっけ?」と探して読み返すのが非常に大変でした。
 内容をしっかり頭に入れながら読み進める必要がある分、ちょっと上級者向けかなと思います。
 たまーに、読点が多すぎて非常に読みにくい文体になっている所があるのも、人によっては拒否反応が出そうだなと感じました。

 ですが、親が子に向ける深い愛情。仲間との絆。そして主人公とヒロインが互いを想い合う純粋な愛……そういったものが最終的に、彼らを守り、奮い立たせ、勝利へと導いてゆくストーリー展開は、最終話まで読み切ると爽快で、それだけでも読みごたえのある良い作品だと思います。
 また、冠位装填と呼ばれる「究極奥義」が面白くて、バトルで冠位装填が登場して以来、登場キャラクターが冠位装填を発動する度に「このキャラはどんな能力なんだろう?」と非常にワクワクしました。そういった能力系のバトルはやはり燃えますね。
 情景描写や心情描写はかなり卓越していて、読んでいるだけで映像が鮮明に思い浮かぶような表現力に溢れているので、読者をぐんぐん世界観に引きずり込もうとする引力が半端ない。というのも、素晴らしい点です。

 王道でありながら、唯一無二。存分にその世界観を味わう為の作品。細かい所は気にするな! そんな印象のパワフルな作品です。

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