第3話 スパイス唐揚げ

 俺はたくたん。


 今夜はなんか心の奥底に眠るM欲求が抑えられなくなってきたな……もう夜の十一時を過ぎたのに、くっ。


「そうだッ!! 夜食!!!」


 俺の愛しい妻と嫁と娘に夜食を提供しなくては! ……おっと俺の家に誰か来たようだ。


「やあたくたん」


「うわ『最高裁さいこうさい』お前深夜に何してんだよガキが舐めてると潰」


「まあまあ話を聞きたまえよ」


 やってきたのは俺の料理助手第三号の『最高裁』だった。チッ、愛しの娘が来たかと思ったのに! この俺を落胆させるなんてマジ許せねーなこのクソガキがァ。


 Mを超越してSが発現しそうになるのをなんとか押さえ、妥協策に『最高裁』の首に毛糸を巻きながら部屋に招いた。


「でなに? 俺は妻と嫁と娘の夜食を作るのに忙しくて」


「そこで提案なのだがね。この作品タイトルが『香辛料を体に入れ込む』だろう」


「たいとる? い取る……寝取る!? まさかお前俺の愛しの娘を――」


「メタ発言悪いね。まああのー、辛い料理を作ることを此方から提案させてもらうよ」


「はぁ? ……ふむ?」


 ……辛いもの……フハハ、いい。ナイスアイデア! 寝取るとか言ったのは大目に見てやるが次はないからなゴミカスが。


 というわけで今日は夜の無人街でスパイス唐揚げの材料集めといくぜ!


「おっ早速にんにく畑が! あとショウガもあるじゃん」


 畑に突き刺してる看板は……『ヴィン』? チッ、知らんやつからは盗めない。


 仕方ないから土手に落ちてるチョーク石と木材で代用する。


 チョークはセイキンが食ってたし、パーリナイ山本は木材に入ってるセルロースは食物繊維と同じだって言ってたし食材だろ!


 さっそくチョーク石を粉々にして頭からパラパラかけ、木材は自分の両足のかわりにくっつけてみた。切り飛ばした足はからあげの添え物にすればいいな!


「あのチョークは『食べれるチョーク』だがね」


「うるせー! あ、アレは野生の醤油!」


 ラッキー、誰かが醤油を狩った後ドロップ品を回収しそこねたのかな。とりあえず中身が薄かったので水で薄め、今度は味が薄かったから塩を溶かした。


「醤油で洗眼っと……」


 ぐあああああ!


 目に重い塩分が染み渡り、視力が不可逆的なダメージを負う!


 くぅうう、この目の痛み、たまらねえ! ひとしきりこの許されざる快楽に悶えた後、余った醤油は頭からかぶる。


 今の俺は完全に料理だッ! もう夜食としては完璧だけどまだまだ調理手順は残ってるな、探索を続けるか。


「後は……なんだっけ?」


「スパイス、片栗粉、油といったところか」


「おっけーおっけー」


 スパイス、スパイス……そんなもんが自然に生えてると思うな!


 たしか辛味って痛覚だったから、とりあえず痛けりゃいいんだよな? くっ、この世界は俺のMをさらに強化しようとしてるのか!? 思わず笑いが漏れてしまうぜ、ヒヒッ。


「マキビシを食うぞ!!」


 ぐおぉおおおおお!


 そのへんに落ちてたマキビシを飲み込むと、口の中や食道がズッタズタに裂かれる! くうっ、これはサビか……! 切れ味の悪い金属で無理やり切られるのはなかなか味わうことのない感覚だ!


「ウッヒヒヒヒィー!」


 俺がこの快感に狂喜乱舞している間に、どうやら『最高裁』はなにやらブツブツ喋っている。これが友達のいないボッチの末路か、ついに妄想上の友達と話し出すなんて。


「片栗粉をわざわざ持ってきてくれたのかね」


「キューイ」


「ふむ、対価はこちらの『A級裁判所コートハウスコイン』で大丈夫かい」


「キュッキュ!」


 あれ、普通にイマジナリーフレンドじゃなくて取引アライグマだったか。


「キュ!」


「ブッファァ!」


 いきなり猛烈な衝撃が俺の肉体を襲う!


 こ――これはまさか粉塵爆発ッ!! 片栗粉で粉塵爆発を起こしたのか!? うぉおおお、大地だけじゃなくて俺の下半身まで燃え上がってきたぁああああ!


「そして最後に火に油を注ぐ」


「コォオオオオオ!!!」


 サラダ油が助燃剤となり、爆発的に上昇する狂熱の中で俺は娘のことを想いながら息絶えた。夜食をしっかり取るんだよ……。


「……さて料理してみたはいいものの……」


「キュウ」


 案の定焦げてしまったな……。


 此方とアライグマ君で一口ずつカットして味見してみたけれど、やはりまともに食えたものではなかったので廃棄処分とした。


 さすがにサラダ油を直飲みしたほうが美味しいと思うよ、此方は。

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